~御殿山~ 2
登任に代わって国府に入った説貞は、桃生柵と此治城に大兵を込め、経清や永衡をはじめ、国府に詰めていた郡司、郷司をそれぞれの領地へ帰還させ、安倍氏への備えをさせた。
説貞は、永承六年の間中、正式な国守が決まり着任するまで、ただひたすら陸奥国を、帝の地を守ることだけに専念した。
鬼切部から敵兵が排され、続いて味方の兵も去ったのち、その地に残った安倍兄弟と照井太郎らは、池月に鎮座する荒雄川神へと詣でた。
頃は黎明、照井太郎が厳かに祝詞をあげる中、東の彼方から日が昇ってきた。
辺りを満たす陽の光は、人馬の屍体で埋め尽くされたこの地を、穢されたその地を、浄めていくようであった。
衣川の安倍館では、七日七晩戦勝の宴が続いた。
八日目の朝、安倍頼良は弟の良照と、四男官照を自分の室に呼んだ。
「良照、すまぬがもう一度、四郎と共に都へ上ってくれるか?」
昨晩までのにこやかな表情とは一変し、真剣な面持ちで頼良は二人を交互に見た。
「表の見栄えばかりがご大層で、裏に廻れば屍体に満ち満ちているあのような所、二度と行きたくはないが、兄者の命とあれば致し方なかろうな。」
良照は、露骨に顔をしかめて答えた。
「わたくしも行ってよろしいのですか?」
官照、またの名を境講師は、目を輝かせている。
「良照、そう言うな。此度のいくさ、あまりにも敵が軟弱で、思わず大勝してしまったが、ある意味これで、都の者たちに目をつけられたとも言えよう。向こうが動く前に、打てる手は打っておく必要がある。そのためには、何をおいても情報が必要だ。この役目、お前をおいて他に頼める者はおらぬのだ。どうかひとつ、頼む。」
そう言って、頼良は頭を下げた。
「まあ、そのような大事、他の若い者に任せる訳にもいかぬしな。・・・だが、あの蒸し暑さはなんとかならんもんかのう。」
そう言って良照は、視線を逸らせたものの、その顔には笑みが乗っていた。
「官照、都にはあまたの寺社仏閣がある。それらを良くその目で見て、自らの糧とするのだ。いずれはこの地で、必ずや必要となるであろう。」
頼良にそう言われた官照は、先程までのやや浮ついた表情から一変して、澄んだ真っ直ぐな瞳で、父の顔を見つめ、頷いた。
この時よりおよそ百年の後、この地には京の都を凌ぐほどの仏教建築が建ち並ぶこととなる。
これから官照らが向かう京の都では、栄華を極める藤原氏によって、様々な建築物が建立されていた。
その中でも、翌々年の天喜元年(一〇五三年)に、あの宇治の平等院鳳凰堂(阿弥陀堂)が関白藤原頼通に よって、建立されることになる。
---そして百年後、衣川の安倍館のそば、平泉の地に奥州藤原氏二代基衡によって、毛越寺が再興され、その隣に宇治の平等院と見紛う、優美な姿の観自在王院が、初代清衡の妻(安倍宗任の娘)によって建立されるのであった。




