~小鏑山~ 2
---そのニ日前、早朝の貞任の陣に偵騎が戻ってきた。
「登任の軍が、国府を出て色麻の柵に入りました。此治の兵を合わせ、その数三千に達しました。」
偵騎を囲んで報告を聞いているのは、主将の貞任をはじめ、宗任、則任に加え、照井の柵から偵騎と共にやって来た正任の、安倍兄弟らと、経清、永衡の二人であった。
「ご苦労。一休みしたら、再び偵察へ戻ってくれ。」
貞任はうなずいて、偵騎を立ち去らせた。
「さて、いよいよであるな。」
貞任は、宗任をふり向いて言った。
「うむ。準備はできておる。いつでもよいぞ。」
宗任は、兄の顔を見返す。
「散位殿らは、三郎とともに動いていただきたい。策が当たれば、敵兵の追撃をお願いする。」
貞任は、今度は経清と永衡を見た。
「承知。」
二人は同時に肯首する。
「五郎、汝は照井の柵で登任の軍と一戦し、軽く痛撃を与えたのち空負けせよ。そのまま登任を誘って、上手く大沢川を渡らせるのだ。」
正任は、次兄の顔を目を輝かせて見つめ、大きくうなずいた。
「八郎は、手はず通り儂と共に繁成の相手じゃ。」
則任はうなずき、小さく嘲笑った。
最初に正任が、朱漆の鎧に銀糸をきらめかせながら身を翻すと、颯爽と陣を出てていった。
そして、ふわりと立上がった宗任に合わせて、経清と永衡も立上り、貞任に一礼すると三人は若神子原の陣の背後の斜面へと向かっていった。
それを見送った貞任は、則任をそばに呼び、なにごとかを命じた。
則任は、配下十人ほどを呼び寄せると、指示をだす。
命じられた兵たちは、他のものと手分けして背後の斜面へ分け入っていった。
数刻ののち、兵たちは大量の枯れ柴を抱えて戻ってくる。
それを見た則任は、片眉を上げただけで、すぐに次の指示を出す。
「まだまだ足りぬな。ふた手に分かれて、一方は柴刈りを続けよ。もう一方は敵に悟られぬように、全ての柵沿いに柴を並べよ。」
「ニ晩腹いっぱい食う分だけでよいのだ。残りは全て運び出せ。悟られるなよ。」
貞任は、こちらも自分の配下を使って、忙しく立ち回っている。
「それから、予備の矢も忘れず持ち出すのだぞ。」




