~小鏑山~ 1
軍沢を挟んで、貞任軍と繁成軍のにらみ合いが続いていた。
四千の兵力を維持する繁成軍は、大森山から麓の大森平にかけて、堅固な柵を構築していた。
対する貞任軍は、若神子原の陣を本陣として、前衛に経清と永衡、中軍に宗任、後詰に則任の配置で陣を構築した。
頼良軍と登任軍が激突した日から三日後、繁成のもとに登任軍敗走の報が届いた。
一方貞任は、会戦の翌日には、すでに安倍方の捷報を得ていた。
ときおり、矢を撃ち合う小競り合いはあるものの、膠着状態が二週間以上続いていた。
---季節は六月、水無月である。
もうすぐ月次祭がやって来る。
月次祭とは、神祗官が全国の天神地祗三百四座を祭り、天皇の寿福と国家の安泰を祈る祭儀である。
「はよう決着をつけねば、間に合わぬな。」
繁成は、傍らの貞成に言った。
「登任様は、まだ出立されないのでしょうか?」
長弓の弦を張り直しながら、貞成は父の顔をみて逆に聞き返した。
「一度、国府に戻り軍を立て直すということであった。そろそろご出立した頃であろう。」
須恵器の器で、白湯を飲みながら、繁成が答える。
「おお!」
その時、軍沢の方に配置している弓兵たちの間から、どよめきが上がった。
「いかがした?」
貞成が、傍らに控える者に尋ねる。
「はて、何でありましょう。」
聞かれた兵は、首をかしげた。
「見て参れ。」
繁成が、あごで沢の方を指して、命じる。
慌てて、兵が陣から駆け出ていった。
しばらくして、先ほど出ていった兵が、転げるように戻ってきた。
「じ、城介様。」
膝を折り、手をついて言った。
「何ごとじゃ?」
繁成が、見下ろし睨みつける。
「俘囚の陣より、火の手が上がっております。」
貞成から、水を貰って一口飲み、ようやく事の次第を告げた。




