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~小鏑山~ 3

 朱漆塗りの鎧で統一した赤備えの一団が、池月の照井氏の柵へ向かって疾走していた。


 やがて、荒雄川神の里宮が見えてきた。

 十騎ほどの騎馬が、里宮の前でたたずんでいる。


「五郎様、お待ちしておりました。」

 その中でも一際ひときわ大柄な漢が、正任に声をかけた。


 漢の乗る馬も、貞任の乗る馬に劣らぬ巨馬である。


 身の丈は六尺をゆうに超え、色白で胸板が厚く、髪は直毛でやや赤みを帯びていた。

 照井氏の当主、照井太郎てるいたろうである。



 照井氏は謎の氏族である。

 かつて、陸奥国の牡鹿郡おしかこおりを中心に権勢を誇った道嶋みちしま氏のあとを埋めるように、入れ替わりに牡鹿地域から栗原地域にかけて広範囲に地盤を築き、安倍氏をたすけ、やがて奥州藤原氏を輔けることになる者たちである。


 照井氏は、照日権現てるじつごんげんを奉斎するという。

 照日権現とは、「天照国照彦天火明奇玉饒速日命(あまてるくにてるひこあめのほのあかりくしたまにぎはやひのみこと)」のことであり、アマテルつまりニギハヤヒを奉斎するということは、物部氏との繋がりも見えてくる・・・。

 ここにも物部氏の影が出てきたが、ひとまずおいておこう。



「太郎殿、お待たせしました。兄の策を持ち帰りましたぞ。」

 正任が、笑顔で応える。


 照井氏の騎馬が正任の隊に合流すると、正任は照井太郎と馬を並べて池月の柵へ向けて歩き出した。


「次郎殿は、なんと仰せでありましたか?」

 照井太郎は、世間話でもするかのような調子で尋ねた。


「そうだな。よく分からんが、『軽く痛撃を与えたのち空負けせよ。』と言っていた。おれは、勝つのは得意だか負けるのは性に合わない。どうしたものかな?」

 正任が頭をかく。


「得意げに、『策を持ち帰った!』と言われるものだから、てっきり分かっておいでかと思っておりましたが・・・。」

 照井太郎が苦笑する。


「すまん。難しいことは苦手でな。」

 正任は胸を張った。


「自慢することではありませんぞ。要するに、『ほどよく勝ち、ほどよく負けよ。』ということでありましょう。まあ、あとはお任せを。」

 照井太郎はそう言って、哄笑(こうしょう)した。

 

「『ほどよく』というのが一番難しいのだがなあ・・・。」

 正任は独りごちた。

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