↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【経験値×100】を呪いと誤解され追放された荷物持ち、最初の一匹でLv1からLv5へ  作者: わわわ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/25

第8話 巨鬼の一撃粉砕

 『初心者の迷宮』第二階層の最奥を突破した俺は、新しくパーティを組んだ魔導士のクラリスと共に、巨大な石造りの階段を降りていた。

 目指すのは、未熟な冒険者なら命を落とす危険地帯――第三階層、通称「中層」だ。

 階段を一段ずつ下りるごとに、上層よりも冷たく湿った空気が濃くなっていく。


 階段を降りきった先には、黒ずんだ湿潤な岩壁と高い天井を持つ広大な通路が広がっていた。


 クラリスが青と白の上質な魔導ローブの裾を揺らし、先端に風の宝珠を嵌め込んだ細身の魔導杖を構えた。

 澄んだ碧眼をすがめ、周囲の気配へ意識を集中させる。


「……上層とは魔力の密度が違いますわね。それに、前方奥の広間から、ひどく重苦しい魔力の反応を感じます」


 クラリスが【魔力感知】を展開しながら、硬い声で警戒を促してきた。


「ああ。足元にも残ってるな」


 俺が視線を落とすと、濡れた石畳の上に巨大な足跡が深くめり込んでいた。

 第二階層の最奥で見つけたものと同じ痕跡だ。大人が両足を揃えてもすっぽりと収まるほどの巨足が、頑丈な岩を抉りながら前方の通路へと続いている。


「行きましょう、エルンさん。足音を忍ばせて」


「了解だ」


 俺たちは呼吸を合わせ、足音を殺して慎重に通路を進んでいった。



 通路の角を曲がると、視界が一気に開けた。

 そこは、天井から無数の鍾乳石が垂れ下がる、ドーム状の広大な広間だった。

 冷たい地下水が岩肌を伝って滴り落ちる音が、静まり返った空間に小さく反響している。


 その広間の中央へと足を踏み入れた瞬間だった。


 ドスン……ドスン……。


 奥の暗がりから、地響きのような重い足音が響いてきた。

 足音が近づくたびに、足元の石畳が微かに震える。


 俺は即座にクラリスを背後に庇うようにして一歩前へ出た。

 腰に帯びた新調の鉄の剣の柄に手をかけ、一気に鞘から抜き放つ。

 低く腰を落とし、白刃を構えて暗闇の奥を睨みつけた。


 現れたのは、これまでの魔物とはまるで次元の違う巨体だった。


 体長は三メートルを優に超えている。

 赤黒い鋼のような硬質の皮膚に覆われた、丸太のように太い筋骨隆々の肉体。

 充血した凶悪な双眸が、侵入者である俺たちをギラギラと見下ろしていた。

 そしてその右手には、大木をそのまま削り出したかのような、禍々しい丸太の棍棒が提げられている。


 第三階層の主――Dランク魔物「巨鬼(オーガ)」だ。


「グオオオオオッ!!」


 鼓膜を激しく揺さぶるような咆哮が、広間全体に轟いた。

 巨鬼は巨大な棍棒を振りかぶると、床を蹴り割るような勢いで猛然と突進してきた。


 巨鬼が突進の途上で、行く手にあった広間の巨大な岩柱へ向けて、横薙ぎに棍棒を振るった。


 ズガァァァンッ!!


 凄まじい破壊音が爆発した。

 大人が二人がかりでも抱えきれない太さの岩柱が、丸太の棍棒の一撃で跡形もなく粉々に粉砕されたのだ。

 砕け散った無数の岩の破片が、激しい突風とともに広間中へ弾け飛ぶ。


 もしあの直撃を受ければ、防具ごと肉体を叩き潰されて即死する。


 破片が飛び散る中、俺は刃を構えたまま一歩も退かずに間合いを計った。


(集中しろ……確実に一撃で決める!)


 かつての俺なら、この威容を見ただけで恐怖に足が竦んでいただろう。

 だが、Lv15まで成長した今の俺の感覚は、飛来する破片の軌道も、巨鬼の突進速度も、極めて鮮明に捉えていた。


 背後でクラリスが息を呑む気配がした。

 だが怯む気配はなく、すぐさま俺の背後から前へと魔導杖が突き出された。


「皮膚が硬く、まともな攻撃は通りません! 私が雷で動きを止めます、エルンさんは急所――眉間か心臓を狙ってください!」


 クラリスは杖の先端に青白い魔力を集束させ、凛とした声を張り上げた。


「迅雷よ、穿ち縛りなさい――【雷撃】!」


 バチィィッ!!


 太い紫電が空気を切り裂いて奔り、突進してくる巨鬼の足元と上半身へ正確無比に直撃した。

 激しい電撃が赤黒い巨躯を駆け巡り、青白い火花がパチパチと爆ぜる。


「グガッ……!?」


 巨鬼が苦悶の声を漏らし、突進の足がピタリと縫い止められた。

 強烈な痺れによって、その巨大な身体に完全な硬直が生まれる。


 絶好の好機だった。



 巨鬼の動きが完全に止まった刹那、俺は足腰に魔力を巡らせた。

 【身体強化】と【瞬歩】を、最大出力で同時に発動する。


 ダンッ!


 足元の石畳を爆ぜるように蹴り抜いた。

 景色が一瞬で後ろへと吹き飛ぶ。

 弾丸のような速度で空間を飛び越え、俺は巨鬼の懐へと一瞬で肉薄していた。


 巨鬼が電撃の硬直を力任せに解き、棍棒を頭上高く振り上げて一気に振り下ろそうとする。

 だが、Lv15に達した俺の敏捷61の踏み込みは、巨鬼の反応速度を遥かに上回っていた。


 クラリスが指示した眉間と心臓の位置を捉える。

 だが、急所を点で突くまでもない。


 【身体強化】によって魔力を全身の筋肉へ巡らせ、腕力60の力を鉄の剣へと一気に注ぎ込む。

 鋼のように硬い皮膚ごと、その胴体を渾身の横薙ぎで一刀のもとに断ち切った。


 ズバァッ!!


 鋭い風切り音とともに、鉄の剣の白刃が巨鬼の強靭な肉体を両断した。

 硬質の皮膚も、頑丈な筋肉も、太い骨すらも、白刃が紙のように一気に断ち切っていく。

 手元に返ってきたのは、確かな手応えと圧倒的な破壊の感触だった。


「ガ……ッ……?」


 巨鬼は棍棒を振り下ろすことすらできず、信じられないものを見るように見開かれた眼球のまま、絶命した。


 ドォォォン……!


 両断された巨躯が、広間の石畳を揺らして激しく崩れ落ちた。


 直後、倒れた巨鬼の死骸から、かつてない規模の青白い光が爆発するように噴き上がった。

 天賦スキル【経験値×100】が発動する。


 Dランク魔物の百倍という規格外の霊質が、視界を青一色に染め上げるほどの奔流となって、激流のように俺の胸元へと吸い込まれていった。


 ドクンッ!


 胸の奥が熱く跳ね上がり、頭の中に澄んだ鐘の音が激しく連打された。

 脳裏に浮かび上がる数値が、凄まじい勢いで跳ね上がっていく。


――――――――――――――――

【レベルアップ】

エルン:Lv15 → Lv16 → Lv17 → Lv18 → Lv19 → Lv20

HP:66 → 86(+20)

MP:64 → 84(+20)

腕力:60 → 80(+20)

体力:60 → 80(+20)

敏捷:61 → 81(+20)

魔力:59 → 79(+20)

――――――――――――――――


(Lv20……! 一気にここまで上がったのか……!)


 全身を駆け巡る凄まじい熱量とともに、筋肉、骨格、そして神経のすべてが劇的に強化されていく。

 腕力80、敏捷81。

 Dランク適正の上限に達する圧倒的な力が、確かな実感として肉体に定着していった。



 激しい光の奔流が収まり、静まり返った広間には、両断された巨鬼の巨体が横たわっていた。

 冷たい地下水の滴る音だけが、ぽつりぽつりと響いている。


 クラリスは魔導杖を構えた姿勢のまま、微動だにせず固まっていた。

 碧眼をこれ以上ないほど丸く見開き、広間を染め上げた光の残滓と、真っ二つになった巨鬼の死骸を、開いた口が塞がらない様子で呆然と見つめている。


 その沈黙の中、俺は息を整えながら鉄の剣を軽く振って血糊を払った。

 腰の鞘へ剣を納めると、巨鬼の死体のそばへかがみ込む。

 胸元を護身用の短剣で手早く切り開き、大人の拳ほどもある巨大で上質な魔石を手際よくくり抜いた。


 深く澄んだ青色に輝く魔石を布で拭い、腰の革袋へとしまい終える。

 立ち上がって振り返ると、俺の胸元と巨鬼の死骸を交互に見つめていたクラリスが、ようやく肺の空気をすべて吐き出すように、震える息を漏らした。


「……嘘……ですわよね? あの巨鬼を一撃で……?」


 ぽかんと呟いたクラリスは、夢でも見ているかのように立ち尽くしていた。


「クラリスの雷のおかげで足が止まってたから、全力の一撃を叩き込めたよ。ありがとう」


 俺が素直に礼を言うと、クラリスはハッと我に返ったように肩を揺らした。

 慌てて背筋をピンと伸ばし、上気した頬を手で軽く押さえる。


「え、ええ……私の魔法が役に立ったのならよかったですわ。……ですが、いくら拘束していたとはいえ、あの硬い皮膚と巨体を真っ二つにするなんて、常識では考えられませんわよ」


 クラリスはまだ信じられないといった様子でため息をつき、それから小さく微笑んだ。


「よし、次だ」


 俺は腰の革袋に収めた巨鬼の魔石に触れ、Lv20に到達した身体の感覚を確かめながら言った。


「この巨鬼の魔石を持って、一度ギルドへ戻ろう。討伐実績を同期すれば、Dランク昇格と実力確認を受けられるはずだ」


「……ええ。ギルドへ戻りましょう。貴方のその実力なら、文句なしにDランクへ上がれますわ」


 クラリスも落ち着きを取り戻し、頼もしそうに頷いた。


 俺たちは広間をあとにし、地上へ向けて歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。