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【経験値×100】を呪いと誤解され追放された荷物持ち、最初の一匹でLv1からLv5へ  作者: わわわ


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第3話 乱獲無双と爆速レベリング

 茂みを掻き分けて飛び込むと、草陰から緑色の影が三つ、一斉に飛び出してきた。


「ギギッ!」

「ギャギャッ!」


 醜悪な顔に下卑た笑みを浮かべ、棍棒や錆びた短剣を振り上げている。

 迷宮都市バロール東門外の始まりの森に巣食う、Fランク魔物――小鬼(ゴブリン)だ。


「小鬼が三体……! 以前の俺なら、逃げるしかなかった相手だけど……」


 かつて荷物持ちとしてパーティの後ろをついて歩いていた頃、Dランクの面々には雑魚でも、Lv1の俺には三体もいれば逃げる一択だった。


 だが、今は違う。


「ギィッ!」


 先頭の小鬼が、手にした棍棒を大きく振りかぶり、俺の頭部めがけて跳びかかってきた。

 その瞬間、俺の視界の中で、小鬼の動きが不自然なほど緩慢になった。


 まるで、水の中をもがいているかのように遅い。


「……遅い。昔の俺が見てた相手と、同じなのか……!」


 相手の踏み込みも、腕のしなりも、棍棒が振り下ろされる軌道も、すべてが手に取るようにわかる。

 以前の俺には見えなかった隙が、至るところに転がっていた。危険を感じるよりも前に、勝負はすでについていた。


 俺は魔力を足腰と腕に巡らせ、通常スキル【身体強化】を発動した。


 体が驚くほど軽く、自然に前へと動く。

 振り下ろされる棍棒を待つまでもなく、俺は小鬼の右脇をすり抜けるように一歩踏み込んだ。


 ヒュンッ! 


 すれ違いざま、手にした短剣を水平に一閃した。

 硬い手応えすらほとんど感じないまま、刃が小鬼の首筋を綺麗に断ち切っていた。


「ギ……?」


 先頭の小鬼が、何が起きたのかも理解できないまま、前のめりに地面へ倒れる。


「ギャッ!?」

「ゴブッ!?」


 背後から飛びかかろうとしていた残り二体の小鬼が、仲間のあまりに唐突な即死に目を見張り、ピタリと足を止めた。

 だが、その隙を見逃すはずがない。


「はっ!」


 俺は地面を強く蹴り、正面から一気に間合いを詰めた。

 足を止めた二体には、踏み込みの速さについていく余裕すらなかった。


 左側の小鬼が慌てて錆びた短剣を構え直すよりも早く、俺の刃が喉元を深く刺し貫いた。

 悲鳴を上げる間もなく崩れ落ちる小鬼を足蹴にして、そのまま流れるように体を反転させた。


 最後の一体が恐怖で目を剥き、棍棒を取り落として逃げ出そうと背中を向けた。

 だが、すでに俺の間合いの中だ。


 袈裟懸けに振り抜いた短剣が、小鬼の背中を深々と切り裂いた。


 ドサリと、最後の小鬼が地面に倒れ込む。

 森の中が、急に静かになった。


「ふぅ……」


 短剣の血を軽く振り払い、俺は息を整えた。

 時間にして、わずか数秒。

 小鬼三体を、傷一つ負うことなく、完全に瞬殺していた。


「本当に……体が勝手に動いたぞ」


 狙い通りに体が動き、一瞬で仕留めた手応えに、思わず口元が緩んだ。


 そのとき、倒れた三体の小鬼の体から、青白い光の粒子が立ち上った。

 霊質の光だ。


 フワリと浮かび上がった光の粒は、すぐさま一つにまとまり、猛烈な奔流となって膨れ上がった。

 角兎のときと同じだ。天賦スキル【経験値×100】によって百倍に増幅された光の奔流が、視界を青白く染めながら、一直線に俺の胸へと吸い込まれていく。


「くっ……!」


 温かい奔流が魂の器を満たしていく感覚に、俺は歯を食いしばった。



 ドクン、と胸の奥が熱く跳ねた。

 脳裏に直接、文字と数値の連鎖が猛烈な速度で流れ込んでくる。


――――――――――――――――

【レベルアップ】

エルン:Lv5 → Lv8

HP:26 → 38

MP:24 → 36

腕力:20 → 32

体力:20 → 32

敏捷:21 → 33

魔力:19 → 31

――――――――――――――――


「レベル5から……6、7、8……!? 一気にLv8まで上がった……!」


 三体分の百倍経験値を一気に吸収したことで、三段階ものレベルアップが連鎖したのだ。

 体内の全能力値が均等に引き上げられた。


 わずかに乱れかけていた呼吸は一瞬で整い、疲労感など微塵も残っていない。

 それどころか、体の芯から力が余って溢れ出してくるようだった。


「よし、次だ」


 俺は地面を強く踏みしめ、気持ちを前へと切り替えた。


 角兎一匹でLv5、小鬼三体でLv8。

 この森にいる小鬼を片っ端から狩れば、どこまで強くなれるのか。


「一匹が百匹分だ。群れごと、全部もらう」


 獲物を探して待つ必要なんてない。

 俺は索敵に全神経を集中させながら、森の奥――小鬼たちの活動域へと自ら駆け出した。


 木々の間を疾走する速度は、Lv5のときとは比べものにならない。

 木の幹を蹴り、張り出した太い枝を飛び越えながら進んだ。茂みを抜けると、開けた先に小鬼の集落が見えてきた。

 粗末な天幕がいくつも連なり、手前だけでなく奥にも多数の小鬼の影が群れている。


「ギギャッ!」


 侵入者に気づいた小鬼たちが、一斉に武器を掲げて咆哮を上げた。

 普通なら囲まれて袋叩きにされる状況だった。だが、今の俺にとって、群れは経験値の塊でしかなかった。


「そこだっ!」


 俺は集団のど真ん中へと突っ込んだ。

 小鬼たちが一斉に槍や棍棒を突き出してくる。


 突き出される槍も棍棒も、今の俺には遅すぎた。

 軌道を見切って身をかわし、短剣を振るう。一体、二体と数える暇もなく、首が飛んでいく。


 戦いを重ねるごとに、体の動きがさらに研ぎ澄まされていくのがわかった。


 ――もっと速く踏み込める。

 ――足の裏に魔力を集めて、地面を弾くように蹴れば……! 


 思考と直感が一致した瞬間、俺は本能のままに足裏へ魔力を集中させ、地面を一気に蹴り抜いた。


 パンッ! 


 乾いた破裂音が響いた瞬間、視界の景色が後方へと一気に流れた。


 通常スキル【瞬歩】――。

 地面を魔力で蹴り、目にも留まらぬ速度で短距離を移動する武技。


「ギッ!?」


 目の前にいた小鬼が、俺の姿を見失って間抜けに目を白黒させた。

 次の瞬間、俺はすでに小鬼の完全な死角――背後へと回り込んでいた。


 着地の瞬間、【身体強化】で固めた両膝が、全身に走る激しい衝撃をしっかりと受け止めた。


 流れるような動作で短剣を横に薙ぎ払い、背後を取った小鬼の首を断ち切った。そのままの勢いで隣にいた小鬼の脇腹を刺し貫き、振り返りざまに三体目の小鬼の喉元へ刃を走らせた。


 三体が崩れ落ちるのとほぼ同時に、俺は再び【瞬歩】を発動した。


 【瞬歩】で消えて、現れた先で切り裂く。天幕の陰からさらに飛び出してきた小鬼たちを、迎え撃つように一閃して沈めていく。

 小鬼たちにとっては、姿の見えない何かに次々と仲間を狩られているようなものだった。

 混乱と恐怖で統制を失った群れを、俺は一方的に蹂躙していった。


「いける。もっと速い……やってみる価値はある」


 手応えは完璧だった。

 ただ強いだけじゃない。体を動かすこと、戦うことそのものが、信じられないくらい楽しい。


 逃げ惑う小鬼の残党を追い、天幕の間を【瞬歩】で消えては薙ぎ払った。茂みの奥へ逃げ込もうとする足の速い一体も、一瞬で背後へ回り込んで仕留めきった。

 最後の一体が息絶えて倒れたとき、森の中の気配は完全に消え去っていた。


 直後、数十体の小鬼の死骸から、無数の青白い光が一斉に立ち上った。

 視界を覆い尽くすほどの光の嵐。それが渦を巻き、激流となって俺の胸へと一気に流れ込んできた。


「うおおっ……!」


 魂の器を満たす熱い奔流に、思わず歓声が漏れた。

 そして、頭の中に鐘のような澄んだ音が響き渡った。


――――――――――――――――

【レベルアップ】

エルン:Lv8 → Lv9 → Lv10

HP:38 → 46

MP:36 → 44

腕力:32 → 40

体力:32 → 40

敏捷:33 → 41

魔力:31 → 39

――――――――――――――――


「レベル8から……9、10……! 一気にLv10まで上がった……! たった数時間で、ここまで上がったのか」


 脳裏に浮かぶ数値を見つめ、俺は強く拳を握りしめた。

 全身に満ちる圧倒的な力。

 Lv10といえば、駆け出しの上限――Eランク冒険者に相当する実力だ。


 普通の冒険者なら、何日もかけてようやく届く高みだ。俺はたった数時間のソロ探索で、そこに到達してしまった。


 予想以上の成果に、自然と笑みがこぼれた。



 森はすっかり静まり返っていた。

 木漏れ日の差し込む木立の中には、討伐された数十体の小鬼の死骸が転がっていた。


「さて……手早く回収しないとな」


 俺は短剣を鞘に収めると、転がっている小鬼たちのもとへ歩み寄った。


 荷物持ちとして何年も雑用をこなしてきた経験が、ここで大いに役に立った。

 魔物の解体と素材の回収は、それこそ何百回となく繰り返してきた俺の得意分野だった。


 倒れた小鬼の胸元から、手際よく小さな魔石をくり抜いていく。

 さらに、ギルドで討伐証明と換金の対象となる部位――尖った小鬼の右耳を、手慣れた手つきで切り取っていった。


 一つ、また一つと、淀みない動作で回収を続ける。

 魔石はポケットや革鎧の隙間に詰め込んだ。小鬼が腰に巻いていた革紐や衣服の切れ端を解いて、耳をしっかりと縛り合わせた。

 数十個もの魔石と、紐で一束に束ねた大量の耳が手元に残った。


 回収を終えて立ち上がると、両手と肩にまとめた素材の束が、ずっしりとした重みで体に食い込んできた。


「ふふっ……重いな」


 かさばる束の確かな感触を手で確かめ、俺は思わず頬を緩めた。

 かつて背負わされていた、他人のための理不尽な三十キロの荷物とはまるで違う。

 これは、俺が自分の力だけで稼ぎ出した、正真正銘の戦果の重みだ。


 これだけの魔石と素材があれば、当面の宿代や食費どころか、新しい装備を整えても十分なお釣りが来る。


「無能だと言われたままじゃない。自分の足でここまで来た」


 静かに息を吐き出しながら、自分に言い聞かせるように呟いた。


 神授の儀では、ステータス水晶の判定を見た神官から「必要経験値百倍の呪い」と切り捨てられた。その数日後、パーティのラウルたちからも嘲笑されて追放された。

 だが、俺は腐らずに前を向いた。

 そして今、俺は自分の力でLv10に達し、これだけの成果を掴み取ったのだ。


 胸を張り、街道へ足を向けた。

 歩きながら、頭の中に浮かぶLv10のステータスをもう一度確認した。


 HP46、MP44、腕力40、体力40、敏捷41、魔力39。

 そして【経験値×100】、【身体強化】、【瞬歩】。


 確かな自信が、足取りを軽くした。


「ギルドに戻ったら、ミレーヌさんも驚いてくれるだろうか」


 親身に接してくれた受付の顔が浮かび、足取りがさらに軽くなった。


 森を抜けると、街道の向こうに夕暮れの陽光を浴びて輝く迷宮都市バロールの巨大な城壁と東門が見えてきた。


「よし、迷宮都市バロールへ戻ろう。ギルドで換金して、ランクの更新だ!」


 俺は両手と肩にまとめた大量の戦果を抱え直し、東門へ向かって、力強く前を向いて歩き出した。


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