第23話 中層蹂躙と爆速レベリング
王都でのBランク昇格を終えて迷宮都市バロールへ帰還した俺とクラリスは、全百階層を誇る『深淵の迷宮』への大階段を降り始めていた。
明日から挑む未知の領域――第十一階層以降の「中層」突破へ向けた、足慣らしのためだ。
背負い袋を背負い直し、俺は王都で新調した「上質な軽装鎧」の感触を確かめながら進んだ。
大階段を降りきった先は、黒曜石の硬質な岩壁が続く上層の回廊だ。
飛び出してきた甲殻蜥蜴や牙狼を、俺は軽くあしらった。
新調した軽装鎧は、跳躍や踏み込みの動きを一切邪魔しない。要所の鍛鉄プレートも軽く、衝撃緩和の魔導加工が身体によく馴染んでいる。
「動きやすくていい鎧だな。身体のキレがさらに増してる」
「ええ、とてもよくお似合いですわ。深層の衝撃にも耐えうる防具ですから、中層の魔物が相手でも安心感がありますね」
クラリスが微笑んで頷く。
足慣らしを終えて一度地上へ戻り安宿で休息を取った俺たちは、翌朝一気に上層を駆け抜けて第十階層を突破した。
そして俺たちは、未知の領域である第十一階層へと足を踏み入れた。
上層の乾いた黒曜石の回廊から一変し、天井からは巨大な鍾乳石が無数に垂れ下がっている。
湿り気を帯びた広大な洞窟が広がり、壁面には青白い燐光を放つ苔が群生していた。
立ち込める湿気とともに、上層とは比較にならないほど濃密で重い魔力のプレッシャーが肌を刺す。
「ここからが中層ですわね。【魔力感知】の範囲を広げます。上層とは魔力の濃さが段違いですわ」
「ああ。気を引き締めて行こう」
鍾乳洞の回廊を進み、第十五階層に差し掛かったとき、クラリスが魔導杖を構えて警告を発した。
「【魔力感知】、中層魔物の反応ですわ! 前方から五頭、散開して挟み撃ちを狙ってきます! 私が風と雷で足止めします、エルンさんは隙を突いて仕留めてください!」
暗がりから現れたのは、鋭い鉤爪と二つの頭部を持つ獰猛なBランク中層魔獣――「双頭牙獣」の群れだった。
二頭ずつ左右へ散開し、挟み撃ちにして襲いかかってくる。
一般の冒険者なら包囲されれば命取りとなる状況だが、俺たちに動揺はなかった。
「囲まれたって関係ない。全部一撃で切り抜ける――行くぞ、クラリス!」
「風よ、裂きなさい――【風刃】!」
クラリスが魔導杖を一閃させ、鋭い風の刃で左右の魔獣を牽制して足並みを乱す。
さらに突っ込んできた先頭の足元へ、雷撃を叩き込んだ。
「穿ちなさい――【雷撃】!」
バチィッ!
紫電が炸裂し、先頭の双頭牙獣が電撃麻痺でその場に縫い留められる。
俺は即座に【身体強化】と【瞬歩】を連動させて爆発的に地を蹴った。
パシィンッ!
瞬きひとつの間に間合いを詰め、鉄の剣の一閃で麻痺した魔獣を一刀両断する。
そのまま疾走し、死角へ回り込んで急所を捉え、次々と魔獣を切り伏せた。
ズバッ、ズバァッ!
わずか数秒で五頭すべてが石床に倒れ伏す。
倒れた魔獣たちから立ち上る青白い霊質が胸元へと勢いよく吸い込まれ、体内に確かな成長の糧が満ちていく。
「ふう……よし、次だ」
「お見事ですわ、エルンさん! Bランク魔物の群れを一瞬で……!」
「クラリスの支援が完璧だったからな。足が止まってくれたおかげで、一撃で急所を狙えた」
第二十階層では、「岩石巨人」が通常徘徊の魔物として立ちはだかった。
かつて上層で街を揺るがせた強敵だが、今や単なる徘徊種にすぎない。
クラリスが素早く弱点を看破する。
「核は胸の中央、やや左寄りですわ!」
「了解だ!」
薙ぎ払ってくる巨拳を軽やかに跳躍回避し、俺は鉄の剣を突き出した。
【身体強化】を乗せた一撃が、分厚い装甲ごと核を貫いて粉砕する。
バキィィンッ!!
崩れ去る巨躯からも強い霊質の光が吸い込まれ、俺たちは完璧な連携の手応えを確かめ合った。
第二十階層から鍾乳洞の坂道を駆け下り、俺たちは地下水が滝となって流れ落ちる第二十五階層の石橋の広間へと到達した。
押し寄せてきた中層魔物の群れも、瞬く間に切り伏せて掃討し終える。
直後、倒れた魔物たちから立ち上る膨大な青白い霊質の激流が、渦を巻いて一気に俺の胸元へと吸い込まれた。
胸の奥がカッと熱くなり、頭の中に澄んだ鐘の音が激しく鳴り響く。
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【レベルアップ】
エルン:Lv35 → Lv36 → Lv37 → Lv38 → Lv39 → Lv40
HP:146 → 166(+20)
MP:144 → 164(+20)
腕力:140 → 160(+20)
体力:140 → 160(+20)
敏捷:141 → 161(+20)
魔力:139 → 159(+20)
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全能力値が二十上昇し、主要身体ステータスが百六十の大台に到達した。
全身に新たな力がみなぎり、連戦の疲労が一瞬で吹き飛ぶ。
「よし、Lv40に上がった。身体能力が百六十の大台に乗ったよ。身体が信じられないくらい軽い……クラリスの支援のおかげで、隙なくテンポよく倒せたからだな」
素材回収をしていたクラリスが、魔導杖を取り落としそうになりながら目を剥いて絶句した。
「……半日でLv40……!? Bランクのベテラン冒険者たちが何年も命を懸けて届くかどうかの大台ですわよ!? 支援だけでどうにかなる成長速度ではありませんわ!」
クラリスは頭を抱えて声を上ずらせつつも、相棒の規格外の頼もしさに呆れ混じりの笑みを浮かべた。
「でも、これだけの力があれば、きっと深層でも渡り合えますわね」
「ああ。これなら深層の魔物が相手でも十分に戦えるはずだ。次の階層へ進もう」
大量の中層魔石と上質な素材を背負い袋に収め、俺たちは第二十九階層の最奥へと到達した。
目の前に現れたのは、巨大な黒鉄と古代石で構築された重厚な門扉――第三十階層以降の「深層」へと通じる『深層境界ゲート』だった。
ゲートの隙間からは、中層とは比較にならないほど禍々しく冷たい瘴気が漏れ出している。
さらに遥か迷宮深部からは、ドクン……ドクン……と、かつて上層で魔物たちを恐慌させたものと同種の重苦しい魔力の脈動が微かに響いていた。
俺たちが門を前に警戒を研ぎ澄ませた、そのときだった。
ガシャリ――ッ!
重厚なゲートの隙間から鉄の擦れる激しい音が響き、よろめきながら前のめりに転がり出てくる人影があった。
白銀の甲冑を纏った、王国騎士団の伝令兵だ。
だが甲冑は鋭い爪と暗黒の瘴気で無残に引き裂かれ、兵士は全身から夥しい血を流していた。
兵士は石畳に倒れ込み、吐血しながら震える手を俺の足元へ伸ばした。
「た、たす……深層先遣隊が……想定外の、アンデッドの群れに包囲された……! このままでは、部隊が全滅する……誰か、救援を……!」
悲痛な叫びを残し、伝令兵はそのまま力尽きて意識を失った。
俺は即座に膝をつき、背負い袋から包帯と止血薬を取り出した。
傷口へ最低限の止血を施し、伝令兵の体を門脇の岩陰へ預けて安全を確保した。
クラリスが青ざめながらも、凛とした表情で魔導杖を構え直す。
「王国騎士団の先遣隊が深層で壊滅の危機に……あのような重傷を負うほどのアンデッドの群れとは、一体何が起きていますの……!?」
「中で騎士たちが孤立してる。止血して岩陰へ避難させた、すぐに深層へ入ろう。急げばまだ間に合うはずだ」
「ええ、参りましょう!」
俺たちは騎士たちを救出するため、深層への突入を決意した。




