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【経験値×100】を呪いと誤解され追放された荷物持ち、最初の一匹でLv1からLv5へ  作者: わわわ


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第18話 バロール出発、王都への飛翔

 窓から差し込む朝の光が、宿の木肌の床を白く照らし出していた。

 王国暦四百八十年、四月十八日の早朝。

 迷宮都市バロールの空は雲一つなく澄み渡り、心地よい朝の風が部屋のカーテンを静かに揺らしている。


 俺は手入れを終えた鉄の剣を腰の鞘へと納め、使い慣れた革鎧の留め具をしっかりと締め直した。

 背負い袋には、回収した魔石やドロップ素材、旅に必要な物資が綺麗に収まっている。

 かつて所属していたパーティで、三十キロを超える大荷物を無理やり背負わされていた頃とは違う。ここにあるのは、すべて自分の意志で選び、自分の手で勝ち取ってきた大切な荷物だ。


 俺は腰のベルトに差した鈍い青銅色のCランク冒険者カードを確かめ、それから胸元の革鎧の内側に手を差し入れた。

 ずっしりと重い、特別報奨金の金貨十枚が入った革袋。

 そして、金色の豪奢な封蝋が施された、冒険者ギルド総本部への推薦状だ。


 ほんの数日前、神授の儀で【経験値×100】を授かった俺は、必要経験値百倍の呪い持ちだと決めつけられ、無能な寄生虫と罵倒されてパーティを追放された。

 あの朝、理不尽に放り出された俺の手元には、自分が働いた分の銅貨数枚すら残されていなかった。

 けれど、自分の力を信じて始まりの森へ足を踏み出し、迷宮に潜り、クラリスと出会って駆け抜けてきた。

 懐にある確かな重みが、俺が歩んできた道は間違っていなかったのだと教えてくれている。


 身支度を終えた俺は背負い袋を担ぎ、客室の扉を開けた。

 木の階段を下りて一階のロビーへと向かう。


 ロビーの中央では、青と白を基調とした上質な魔導ローブを纏った少女が、先端に風の宝珠を嵌め込んだ魔導杖を手に佇んでいた。

 艶やかなプラチナブロンドの長髪を優雅に揺らし、背筋をすっきりと伸ばした凛とした立ち姿。

 俺の足音に気づいたクラリスが振り返り、サファイアのような澄んだ碧眼を和らげて微笑んだ。


「おはようございます、エルンさん。準備は万全ですわ」


「おはよう、クラリス。行こう、王都行きの馬車発着場へ」


「ええ、参りましょう!」


 カウンターの奥にいた宿の主人に部屋の鍵を返すと、主人は人好きのする笑みを浮かべて送り出してくれた。


「お二人さん、王都へ行っても達者でな! ギルド史上最速の新星の噂は聞いてるぜ!」


「ありがとうございます。お世話になりました」


 俺たちは宿の木扉を押し開け、爽やかな朝の光が満ちる街路へと踏み出した。



 迷宮都市バロールの朝は早い。

 北門の街道乗合馬車発着場へと続く石畳の大通りには、早くも多くの冒険者や商人たちが行き交っていた。

 朝日を浴びながら並んで歩く俺たちに、すれ違う人々の視線が次々と集まってくる。


「おい……あの少年だろ」

「ああ、間違いない。史上最速でCランクに特進した新星エルンだ」

「隣の綺麗な魔導士の嬢ちゃんと二人で、第五階層の異変ボスを倒したらしいぜ」

「王都のギルド総本部に推薦されたんだってな。バロール始まって以来の逸材だそうだ」


 ほんの少し前まで「呪い持ちの雑用」と嘲笑されていた俺に向けられていた視線は、今や完全に塗り替わっていた。

 隣を歩くクラリスも気後れすることなく、誇らしげに背筋を伸ばし、俺の歩幅に合わせて歩いている。


 大通りを北へ進み、北門前の広場へと近づいたときだった。

 通りの日陰になっているレンガ壁の脇に、数人の人影が力なく佇んでいるのが目に入った。


 包帯を痛々しく巻き、松葉杖に縋りつく前衛戦士と、青白い顔で壁にもたれかかる支援役。

 そしてその中央で、刃こぼれした大剣を背負い、両腕をだらりと垂らして立ち尽くしている男――ラウルだった。


 かつて実績を誇示するように磨き上げられていた鋼鉄の胸当ては手入れもされず薄汚れ、逆立てていた金褐色の髪は乱れていた。左頬の古傷を強張らせ、生気を失った灰褐色の瞳を地面に落としている。


 通りを行き交う冒険者たちが、日陰の彼らを指差して冷ややかに囁き交わしている。


「おい、あいつら……」

「身の丈に合わない深入りをして全滅しかけた『銀翼の剣』だろ」

「手柄欲しさに第五階層へ突っ込んで、異変ボスに手も足も出なかったらしいぜ」

「新星のエルンに助けられたらしいが、無様だな」

「かつてエルンを追い出したパーティなんだろ? 見る目がなさすぎるぜ」


 ラウルは拳を微かに震わせ、ただ唇を噛み締めて俯いていた。

 かつて俺を見下し、「必要経験値が百倍の呪い持ちなんて寄生虫、いつまでも養ってられるかよ」「さっさと消え失せろ」と怒鳴り散らしていた傲慢な面影は、どこにも残っていなかった。


 俺は足を止めることも、言葉をかけることもなく、その横を通り過ぎた。

 侮蔑の言葉を投げつける気も、あざ笑う気も起きない。俺にとって、彼らはもう憎むべき相手ですらなく、通り過ぎていく遠い過去の一つに過ぎなかった。


 隣を歩くクラリスも冷ややかに一瞥しただけで、俺たちは朝の光が降り注ぐ北門へと真っ直ぐに歩みを進めた。



 バロールの北門前には、広大な発着場が広がっていた。

 石造りの巨大な城門の前に、屈強な軍馬が四頭繋がれた大型の幌馬車が停まっている。

 王都ルミナス行きの定期乗合馬車だ。


 御者台の横で手綱を点検していた頑強な男が、近づいてきた俺たちに気づいて顔を上げた。


「お、王都行きかい?」


「はい、二人分お願いします」


 俺が運賃の銀貨を手渡すと、御者は気前よく受け取り、俺の腰にある青銅色のカードと、クラリスの気品ある佇まいに目を留めた。


「お、若いのに腕の立つ冒険者さんかい。王都までは野営を挟んで三日の長旅だが、頼もしい護衛がいるようで心強いぜ。さあ、乗ってくれ!」


「ありがとうございます」


 俺たちは荷物を馬車の荷台へ預け、幌馬車の客室へと乗り込んだ。

 木製の長椅子が並ぶ車内は広々としており、俺とクラリスは窓際の席へと並んで腰を下ろした。


 開け放たれた窓からは、迷宮都市バロールの壮大な景色が一望できた。

 幾重にも連なる重厚な石造りの建物、そびえ立つ堅牢な城壁。

 そして都市の中央で、朝日に照らされながら黒々とした大穴を開けている『深淵の迷宮』。


 あの大穴の底で、俺は戦い、強くなり、自分の力で居場所を掴み取った。

 迷宮の輪郭をじっと見つめていると、隣のクラリスが優しく声をかけてきた。


「バロールとも、これでお別れですわね」


「ああ。色々なことがあったけれど……いい街だったよ」


 俺が答えると、クラリスは碧眼を細めて柔らかく微笑んだ。



「オーライッ! 出発するぞーっ!」


 御者台から威勢のいい掛け声が響き、パチンと革鞭の乾いた音が鳴り渡った。

 四頭の馬が一斉に嘶き、逞しい脚で力強く地面を蹴り出す。


 ゴトゴト、と車輪がきしみ、巨大な幌馬車が動き出した。


 北門の巨大なアーチをくぐり抜けると、視界が一気に開けた。

 バロールの街を囲む巨大な城壁の外には、果てしなく続く緑の平原と、地平線の彼方まで伸びる一本の白い街道が広がっていた。


 スピードを上げる馬車の窓から、爽快な春の風が吹き込んでくる。

 風に乗って、クラリスの美しいプラチナブロンドの長髪が柔らかにふわりと揺れた。


 車窓を振り返れば、迷宮都市バロールの巨大な城壁と、中央の迷宮の影が、みるみるうちに小さく遠ざかっていく。

 俺は胸元の革鎧の内側にそっと手を触れた。

 そこには、ギルドマスターから託された推薦状がある。

 金色の封蝋に刻まれた宛名――『王都ルミナス 冒険者ギルド総本部』。


 王都はルミナス王国の中心であり、あらゆる強者が集まる場所だ。クラリスの生家をめぐる因縁も待っているだろう。

 けれど、どんな困難が待ち受けていようと、今の俺たちなら恐れるものなど何もない。


 風を浴びながら、クラリスがこちらを振り返って微笑みかけた。


「……いよいよ始まりますわね、エルンさん」


 その清々しい横顔を見つめ、俺は力強く頷いた。


「ああ。王都でも、俺たちの冒険を続けよう」


 どこまでも高く澄み渡る青空の下、馬車は白い土煙を上げながら、王都ルミナスへと続く街道を颯爽と駆け抜けていった。


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