第91話『特製肉まんの試作』
大討伐の熱狂から数日。王都グランドールの朝は、少しずつ肌寒さを増していた。
「ふぅ……朝晩は冷え込むようになってきたな」
啓太は宿屋の広い厨房を借り、一人で腕を組んでいた。
Cランクパーティとして名声を得た『クローバー』だが、冒険の合間の「食」に対する啓太のこだわりは衰えるどころか加速している。
(寒くなってきた時期に、コンビニのレジ横で一番売れるものといえば……あれしかないだろ)
啓太が取り出したのは、前回の探索で仕入れた『オークボアの挽き肉』と、シャキシャキとした食感が特徴の魔導野菜『タケノコモドキ』、そして刻んだタマネギだ。
「よし、蒸し上がりの生地に旨味を閉じ込めるぞ」
小麦粉にイースト菌とぬるま湯を加え、念入りに捏ねて発酵させたふっくらとした生地。そこに醤油、ゴマ油、生姜、そして隠し味の魔導スパイスで濃い目に味付けした餡を包み込んでいく。
ひだを寄せて綺麗に閉じると、特製の蒸籠へと並べ、熱々の中火で一気に蒸し上げた。
シュゥゥゥゥ……ッ!
湯気とともに、竹のセイロから肉の旨味と小麦の甘い香りが厨房いっぱいに広がった。
「ふぁぁぁ〜〜……! なんですかこの、幸せすぎる匂いはぁぁ〜〜っ!?」
匂いにつられたリーネが、寝ぼけ眼のまま長耳をぴくつかせて厨房に吸い寄せられてきた。後ろからはシルフィ、ルナ、ダグラスもゾロゾロと顔を出す。
「店長、また朝からとんでもねぇもん作ってんのか!?」
「おはよう、みんな。ちょうどいいところに来た。試作段階だが、元コンビニ店長の秋の自信作――『特製肉まん』だ」
ふっくらと真っ白に蒸し上がったアツアツの肉まんを、啓太が一人ひとりに手渡す。
「ふはっ、温かい……! いただきます!」
シルフィが両手で包み込み、生地を半分に割った。
ジュワッ……!
割った瞬間、溢れ出すあつあつの肉汁と濃厚な湯気。
「んん〜〜〜っ!! 生地がモチモチでふわっふわ! 中からお肉の脂とタケノコのシャキシャキ感が押し寄せてくるよ!」
「ふあふあ! ハフッ、あちっ、でも美味しすぎますぅ〜〜っ!」
リーネが口いっぱいに頬張り、ハフハフと熱がりながら歓喜の声を上げる。
「ぐおっ……! なんだこの包み焼きは! 手で持てて、一口食えば体の芯から温まるじゃねぇか!」
ダグラスが豪快にかぶりつき、ルナも目を輝かせて二個目に手を伸ばした。
「店長! これ、肌寒い今の季節のダンジョン探索に持ち込んだら、冒険者どもが全員泣いて喜ぶぞ!? 寒さ対策とスタミナ補給が同時にできる完璧な食料だ!」
「だろ? 持ち運びやすくて温かい。これぞホットスナックの真骨頂だ」
啓太は満足そうに微笑んだ。
元コンビニ店長のノウハウが生んだ新たな「商品」が、また一つ誕生した瞬間だった。




