第87話『作戦会議、のはずが』
ギルドの会議室に、五人は真剣な顔つきで集まっていた。テーブルの上には、竜の穴の見取り図と、これまで集めた資料が広げられている。
「よし、今日は発生源討伐に向けた、本格的な作戦会議だ」
啓太が仕切り直すように口を開くと、全員が姿勢を正した。
「まずは役割分担から決めよう。前衛は――」
「はいですぅ! わたし、前衛やりますですぅ!」
リーネが元気よく手を挙げると、啓太は思わず目を丸くした。
「いや、リーネは魔法使いだから、後衛だろ」
「あ、そうでしたぁ……。じゃあ、後衛で頑張りますですぅ」
「最初から分かってただろ、それ」
ルナが呆れたように突っ込むと、リーネは照れ笑いを浮かべた。
「気を取り直して……前衛は、ダグラスさんとルナに任せたい。ダグラスさんの盾役と、ルナの攻撃力で、しっかり敵を抑えてほしい」
「おう、任せとけ!」
「望むところだ!」
二人が力強く頷く。
「中衛は俺が鑑定スキルで弱点を探りつつ、剣でサポートに回る。後衛はシルフィの弓とリーネの魔法で、遠距離から攻撃してもらう形だ」
「うん、それでいいと思う」
シルフィが冷静に頷くと、啓太は資料を指しながら続けた。
「あとは、実際の戦闘の流れだけど――」
「あ! 提案ですぅ! 必殺技に、名前をつけませんかぁ?」
突然のリーネの発言に、その場の空気が一瞬止まった。
「……名前?」
「はいですぅ! 例えば、みんなで連携する時の合体技とか! 『クローバー・フレイムバースト』とか、どうですかぁ!」
「いや、そんな余裕、ないと思うが……」
啓太が苦笑すると、意外にもルナが食いついた。
「いや、待て。それ、地味にありじゃないか? 士気も上がるし」
「ルナまで乗るのか……」
「おお、面白そうだな! じゃあ俺の必殺技には、『豪腕大剣斬り』ってのはどうだ!」
ダグラスまでもがノリノリで参戦し始め、作戦会議はあっという間に脱線し始めた。
「ちょ、ちょっと待ってください、本題に戻りましょう……」
啓太が制止しようとするも、すでに手遅れだった。
「私は……『疾風連射』とか?」
シルフィまでもが、まんざらでもなさそうに呟く。
「よし、それじゃあ啓太の技名も決めよう! 鑑定と剣を組み合わせた感じで、なんかカッコいいの!」
ルナが目を輝かせながら言うと、啓太は頭を抱えた。
「いや、俺のは別に、そんな大層なものじゃ――」
「『看破の一閃』ってのはどうだ!」
ダグラスが自信満々に提案すると、リーネが両手を叩いて賛同した。
「いいですぅ! それ、かっこいいですぅ!」
「なんで俺の技名まで、みんなが勝手に決めてるんだ……」
啓太がぼやく中、会議室の空気はすっかり盛り上がってしまっていた。
「よし、それじゃあ最終確認だ! 前衛のダグラスさんとルナが『豪腕』コンビ、後衛のシルフィとリーネが『疾風炎撃』コンビ、そして啓太が『看破』で全体をサポート! この布陣でいくぞ!」
ダグラスが勝手に仕切り始めると、全員が「おー!」と拳を突き上げた。
「……いや、待って、結局作戦は決まったのか?」
啓太が困惑した様子で問いかけると、シルフィが苦笑しながら答えた。
「役割分担自体は、最初に決めた通りだと思うよ。ただ、名前がついただけで」
「そう、なのか……」
啓太が脱力すると、リーネが元気よく立ち上がった。
「大丈夫ですぅ! 士気は最高に上がりましたから!」
「まあ、それならいいか……」
啓太が苦笑いを浮かべながら資料をまとめ直していると、ダグラスが真剣な表情に戻って口を開いた。
「まあ、冗談はここまでにして。改めて確認するが、無理な突撃は絶対にするな。誰かが危険な状態になったら、すぐに撤退する。いいな?」
「はい」
全員が真剣な声で応じる。会議室に、少し引き締まった空気が戻った。
「よし。装備の最終調整と、体調管理をしっかりやって、来週の頭には、いよいよ本格的な探索に出よう」
啓太の言葉に、全員が力強く頷いた。
「その意気だ! なあに、『看破の一閃』を持つ啓太と、俺たちがいれば、どんな敵も恐るるに足らずだ!」
ダグラスが豪快に笑うと、リーネも元気よく声を上げた。
「わたしたちの『疾風炎撃』も、負けませんですぅ!」
「なんか、変な技名だけが定着していく気がするんだが……」
啓太がぼやきながらも、その表情には、確かな笑みが浮かんでいた。賑やかな笑い声に包まれながら、五人の作戦会議は、こうして幕を閉じたのだった。




