第86話『ダグラスの過去』
祝杯の翌朝、四人は見事に二日酔いに見舞われていた。
「うぅ……頭が割れそうですぅ……」
リーネがテーブルに突っ伏しながら呻く。
「あたいも、なんか胃がムカムカする……」
ルナも珍しく元気のない様子で唸っていた。
「ほら、水飲め水。少しはマシになる」
啓太が水を配って回っていると、そこへダグラスが涼しい顔をして現れた。
「おう、みんな元気ないな! 昨日はいい飲みっぷりだったが」
「ダグラスさんは、平気なんですかぁ……?」
「まあ、これでも場数は踏んでるからな。二日酔いくらいじゃ動じねぇよ」
ダグラスが豪快に笑うと、シルフィがジト目で見上げた。
「なんか、こういうところは頼りになるんですよね、この人」
「おいおい、褒めてんのか貶してんのか、どっちだ」
軽口を叩きながらも、その日は無理をせず、ギルドの一室で休息を取ることになった。窓際の椅子に腰掛けたダグラスは、しばらく黙って外を眺めていたが、ふと口を開いた。
「なあ、少し、昔話をしてもいいか」
その声には、いつもの豪快さとは違う、静かな響きがあった。啓太たちは自然と姿勢を正した。
「実はな、俺も昔、お前らと似たような状況に立ったことがあるんだ」
「似たような状況、ですか?」
啓太が尋ねると、ダグラスは静かに頷いた。
「もう十五年も前の話だ。別の街のダンジョンで、今回みたいな瘴気の異変が起きたことがあってな。当時の俺は、五人パーティのリーダーをやってた」
ダグラスは窓の外を見つめたまま、言葉を続けた。
「今のお前らと同じように、少しずつ情報を集めて、発生源に挑む準備を進めた。装備を整えて、仲間との連携も鍛えて……自信もあった」
「それで、どうなったんですか?」
リーネが恐る恐る尋ねると、ダグラスの表情が、わずかに影を落とした。
「発生源は、想定してたよりずっと強かった。俺たちの準備が、足りてなかったんだ」
「……」
「戦いの中で、パーティの一人が、俺を庇って命を落とした。あいつは、いつも一番後ろで、俺たちを支えてくれる魔法使いだった」
その言葉に、リーネがはっと息を呑む。
「それから、俺は変わったよ。がむしゃらに前に出るだけじゃなく、仲間を守ることを、何よりも大事にするようになった。無茶な突撃も、極力避けるようになったな」
ダグラスは静かにそう語ると、少し照れくさそうに頭をかいた。
「柄にもなく、しんみりした話をしちまったな。悪い悪い」
「いえ……聞かせてくれて、ありがとうございます」
啓太が真剣な表情で答えると、ダグラスは小さく笑った。
「今回の件、ギルドから話を聞いた時、正直迷いもあった。だが、お前らの様子を見て、決めたんだ。今度こそ、誰も失わずに、ちゃんと終わらせてやろうってな」
「ダグラスさん……」
リーネが目を潤ませながら呟く。
「だからよ、俺は前衛として、お前らを守る盾になる。無茶はするなよ。焦らず、着実に力をつけていけばいい」
その言葉に、四人は深く頷いた。
「ありがとうございます。俺たちも、油断せず、みんなで力を合わせて、絶対に誰も失わないようにします」
啓太の言葉に、ダグラスは満足げに頷いた。
「よし、湿っぽい話はここまでだ! それより、二日酔いはどうだ、少しはマシになったか?」
「あ、そういえば、ちょっと楽になってきたかもですぅ」
リーネが顔を上げると、ダグラスはニヤリと笑った。
「よし、それなら、次の作戦について、軽く話し合っておくか。まあ、無理のない範囲でな」
その後、五人は静かに、しかし着実に、今後の方針について話し合いを続けた。ダグラスの過去を知ったことで、彼への信頼はより一層深まり、そして『クローバー』全体の覚悟も、確かなものへと変わっていった。
「絶対に、誰も欠けさせない」
啓太の呟きに、シルフィ、ルナ、リーネがそれぞれ頷く。窓から差し込む柔らかな光が、五人の静かな決意を照らしていた。




