第83話『五人での再出発』
久しぶりの竜の穴は、以前と変わらず薄暗く、独特の湿った空気に満ちていた。ただ、今日はいつもと違う。パーティに、大剣を担いだダグラスが加わっているのだ。
「おお、懐かしいなこの空気! やっぱりダンジョンはこうでなくちゃな!」
ダグラスが大きく伸びをしながら、楽しそうに周囲を見回す。
「そんなにテンション上がるものですかね、ここ」
シルフィが苦笑いを浮かべると、ダグラスはニヤリと笑った。
「嬢ちゃん、ダンジョンってのはな、命の危険と隣り合わせだからこそ燃えるんだよ! まあ、お前らはまだ若いから分からんか!」
「いや、十分命の危険は感じてますけど……」
啓太が呆れたように呟くと、リーネがこそっと耳打ちした。
「ダグラスさん、なんだか楽しそうですぅ……」
「まあ、頼もしいのは間違いないんだけどな」
一行は慎重に足を進めた。今日の目的は、中層エリアでの実戦訓練だ。啓太の鑑定スキルとダグラスの前衛としての動きを、実際の戦闘で組み合わせてみる。
「よし、噂をすればだ」
ルナが前方を指さすと、通路の奥から瘴気を帯びた大型の魔物――以前よりも強化された、牙の鋭いイノシシ型の魔物が姿を現した。
「ヴォアアアアッ!」
「あれは瘴気イノブタの強化個体だな! よし、俺が前に出る!」
ダグラスが大剣を構え、迷いなく前へと踏み出した。
「啓太、鑑定を頼む! あいつの弱点、分かるか!」
「わ、分かりました! ……えっと、対象を絞り込んで――」
啓太は意識を集中させ、鑑定スキルを発動した。今度は必要な情報だけを求めて。
『対象:瘴気イノブタ(強化個体)/弱点:右前脚の付け根/瘴気濃度:中/突進速度:高』
「弱点は右前脚の付け根です! あと、突進のスピードが速いので注意してください!」
「よし、上出来だ! それじゃあ、いくぞ!」
ダグラスが咆哮とともに突っ込んでいく。イノブタも猛然と突進し、両者が正面からぶつかり合った。
「オラァッ!」
ダグラスの大剣が、狙い澄ましたように右前脚の付け根を捉える。だが、強化された個体は簡単には怯まず、体を大きく振り回してダグラスを弾き飛ばそうとした。
「くっ、しぶといな!」
「シルフィ、援護を!」
啓太の指示に、シルフィがすかさず矢を放った。矢は正確に同じ弱点に命中し、イノブタの動きが目に見えて鈍る。
「今だ、リーネ!」
「はいですぅ! 【爆炎球】!」
リーネの放った炎の球が炸裂し、イノブタの体を大きく揺らした。
「よし、とどめだ!」
ダグラスが再び踏み込み、渾身の一撃を弱点に叩き込む。轟音とともに、イノブタの巨体が地面に崩れ落ちた。
「討伐完了、だな!」
ダグラスが額の汗を拭いながら振り返る。
「見事な連携だったな! 啓太の鑑定、思った以上に役に立つじゃねぇか!」
「あ、ありがとうございます。でも、まだ精度は完璧じゃないので……」
啓太が少し照れくさそうに言うと、ルナが横から茶々を入れた。
「そういや啓太、この前は変な情報まで見えて騒いでたよな」
「そ、それは今関係ないだろ!」
「なんの話だ?」
ダグラスが興味津々といった様子で身を乗り出すと、リーネがにこにこしながら答えた。
「実はですね、この前の訓練で、啓太さんがみんなの秘密っぽいものを見ちゃったみたいで――」
「わーっ! それはもういいから! 今は討伐した個体の検体を採取しないと!」
啓太が慌ててリーネの言葉を遮り、話題を強引に変えた。
「あら、怪しいですぅ」
「怪しくない、本当に怪しくないから!」
一行がわいわいと騒ぎながらも、着実に検体を採取していく。そんな中、ダグラスがふと真剣な表情になった。
「なあ、啓太。今の戦い方、悪くなかったが……発生源となると、この比じゃない強さのはずだ。油断だけはするなよ」
「はい、分かってます。今日みたいな連携を、もっと磨いていかないと」
啓太の言葉に、ダグラスは満足げに頷いた。
「その意気だ。よし、まだ時間もあるし、もう少し奥まで進んでみるか」
一行はさらに足を進め、瘴気を帯びた魔物と何度か遭遇しながらも、鑑定スキルとダグラスの前衛、そして三人の連携で着実に討伐を重ねていった。
やがて、以前撤退した地点の少し手前まで辿り着いたところで、啓太は空気の変化に気づいた。
「……この先、前に見た影がいた場所に近いですね」
「ああ、確かに、なんだか空気が重くなってきたな」
ダグラスが真剣な表情で辺りを見回す。
「今日はここまでにしよう。無理はしない」
啓太の判断に、全員が頷いた。
「着実に近づいてきてる、ってことだな」
ルナが低く呟くと、リーネが少し不安げながらも、しっかりとした声で答えた。
「わたしたち、ちゃんと強くなってますですぅ。だから、大丈夫です」
その言葉に、啓太は柔らかく微笑んだ。
「ああ。この調子で、着実に力をつけていこう」
竜の穴を後にする一行の足取りは、来た時よりも、確かな自信に満ちていた。ダグラスという新たな仲間を迎え、『クローバー』はまた一歩、目標に向かって前進していた。




