第81話『暴走する鑑定』
翌日、四人は再びギルドの訓練施設に集まっていた。今日の目的は、啓太の鑑定スキルと、リーネの強化された杖を組み合わせる訓練だ。
「魔力伝導率が上がった杖を介せば、鑑定の精度が上がるかもしれない、ってエルザさんが言ってたな」
「はいですぅ! わたし、頑張ってサポートしますですぅ!」
リーネが張り切って杖を構える。啓太はその隣に立ち、意識を集中させた。
「よし、まずは的で試してみるか」
啓太が的に向かって鑑定スキルを発動させようとした、その時。リーネがタイミングよく杖に魔力を込めた。
「【付与・鑑定強化】ですぅ!」
途端に、啓太の視界に、これまでとは比べ物にならないほどの情報量が流れ込んできた。
「うわっ……!?」
『対象:訓練用の的(通常)/耐久度:低/製作者:ギルド職員ハンス/製作から3年経過/若干の湿気あり』
「な、なんか、いらない情報まで見えてきたぞ!?」
「え、そうなんですかぁ!?」
啓太が動揺していると、ふと視線が隣に立つリーネへと向いた。次の瞬間、また文字が浮かび上がる。
「――えっ」
『対象:リーネ/種族:エルフ/最近の好物:甘辛からあげ/隠し事:実家への仕送りを内緒にしている』
「うおっ!?」
啓太は思わず声を上げ、慌てて視線を逸らした。
「ど、どうしたんですかぁ?」
「い、いや、なんでもない! ちょっと鑑定の精度が上がりすぎて、色々見えすぎただけだ!」
「見えすぎたって、何がですかぁ!?」
リーネが不安げに詰め寄ってくる。啓太は冷や汗をかきながら、必死に話題を逸らそうとした。
「そ、それより、シルフィにも試してみようか! 弓の調子を見るのにちょうどいい!」
「わ、私? いいけど……」
シルフィが弓を構えると、啓太は慎重に意識を向けた。だが、リーネの魔力補助が強すぎたのか、またしても妙な情報が流れ込んでくる。
『対象:シルフィ/種族:人間/最近の悩み:身長がなかなか伸びないこと』
「――ぶふっ」
啓太が思わず噴き出すと、シルフィが怪訝そうに眉をひそめた。
「な、なに? 何がおかしいの?」
「いや、その……なんでもない、本当に、なんでもないんだ」
「絶対なんかあるでしょ、その顔!」
シルフィが詰め寄ってくる横で、ルナが腕を組みながら面白そうに眺めていた。
「おいおい、啓太のやつ、なんか変なもん見えてやがるな。次はあたいも試してみるか」
「い、いや、ルナはやめておいた方が――」
啓太が止める間もなく、ルナが堂々と啓太の前に立った。リーネがまた張り切って魔力を込める。
『対象:ルナ/種族:獣人/実は甘いものが大好物(本人は隠しているつもり)』
「――なるほどな」
啓太が思わずニヤリとすると、ルナが不審げに眉を寄せた。
「なんだよ、その顔。気持ち悪いぞ」
「い、いや、別に!」
「絶対なんか見えてるだろ! 正直に言え!」
「ぐっ……」
啓太が言葉に詰まっていると、そこへエルザが施設に顔を出した。
「あら、賑やかですね。訓練の様子はどうですか?」
「エルザさん! ちょうどいいところに! 精度が上がりすぎて、色々見えすぎて困ってるんです!」
啓太が助けを求めるように駆け寄ると、エルザは興味深そうに顎に手を当てた。
「なるほど、リーネさんの魔力補助と組み合わせることで、対象への理解度が予想以上に深くなっているようですね。今のままだと、少し不要な情報まで拾ってしまうのかもしれません」
「そ、そうなんです! なんとか調整できませんか!?」
「そうですね……鑑定する対象を、もう少し明確に絞り込む意識を持つといいかもしれません。『何を知りたいか』を強く思い浮かべながら発動してみてください」
エルザのアドバイスを受け、啓太は改めて意識を集中させた。今度は、目の前の的の耐久度と弱点だけを知りたいと強く念じる。
「よし、もう一度……!」
『対象:訓練用の的(通常)/耐久度:低/弱点:中央のひび割れ部分』
「おお……! 今度は、必要な情報だけがちゃんと見えました!」
「順調そうですね。この調子で、少しずつ精度を制御できるようになれば、実戦でも十分に使えるはずです」
エルザが満足げに頷くと、啓太はほっと胸を撫で下ろした。
「よかった……。これでもう、変な情報に振り回されずに済みそうだ」
「それで啓太、結局あたいの何を見たんだ? 正直に吐け」
ルナがじとっとした目で詰め寄ってくる。
「い、今のはもう関係ない話だろ! 精度、ちゃんと調整できたんだから!」
「怪しいですぅ……」
リーネまでもがじとっとした視線を向けてくる。啓太は苦笑いを浮かべながら、必死に話をそらし続けるのだった。
夕暮れの訓練施設に、四人の賑やかな笑い声が響き渡る。ドタバタとした一幕はありつつも、鑑定スキルの精度は確実に磨かれていた。発生源討伐という大きな目標に向けて、また一つ、頼もしい力が育ちつつあった。




