第80話『鑑定の目』
ギルドの訓練施設は、思っていたよりも広々としていた。木製の壁と床に覆われた模擬戦用の広間には、藁人形や的、そして訓練用の魔導具がずらりと並んでいる。
「おお、思ったよりちゃんとした場所だな」
ルナが物珍しそうに周囲を見回しながら、新しい両手剣を軽く振ってみせた。
「今日は皆さんの実力と、新しい装備の相性を見させてもらいますね」
エルザが訓練施設の職員と何やら話し込んでから、四人の前に戻ってきた。
「まずは、模擬戦用の的で、それぞれの武器の感触を確かめてみましょう」
「よし、あたいからいくか」
ルナが張り切って前に出ると、魔導具で作られた的が浮かび上がった。剣を構え、迷いなく振り下ろす。
「うおおおっ!」
一撃で的が真っ二つになった。木片が飛び散る中、ルナが満足げに笑う。
「これはいいな! 前の剣より、断然振りやすい!」
「私も試してみようかな」
シルフィが弓を構え、矢を放つ。強化された矢じりが、遠くの的の中心を正確に射抜いた。
「うん、貫通力が上がってる。前より狙いやすい」
順調に進む中、リーネの番になった。彼女は少し緊張した面持ちで杖を構える。
「い、いきますですぅ……! 【爆炎球】!」
放たれた炎の球が、以前よりも一回り大きくなって的に直撃した。轟音とともに、的が跡形もなく吹き飛ぶ。
「わっ……!? す、すごい威力ですぅ! あの木の実、本当に効果あったんですね!」
リーネが目を丸くして自分の杖を見つめる。
「なるほど、魔力伝導率が上がったことで、消費魔力に対する威力効率が上がったようですね」
エルザがメモを取りながら頷いた。
「よし、最後は啓太だな」
ルナに促され、啓太も剣を構えた。新しく調整してもらった片手剣は、手に馴染む重さになっている。
「いくぞ」
啓太が的に向かって剣を振るった、その瞬間だった。
不意に、視界の端に文字のようなものが浮かび上がった。
「――あれ?」
『対象:訓練用の的(瘴気付与・模擬)/耐久度:中/内在する瘴気残滓を検知』
「な、なんだ、これ」
啓太は思わず剣を止め、目の前の的を凝視した。文字は消えることなく、そこに留まっている。
「啓太、どうかしたのか?」
ルナが不思議そうに声をかける。
「いや、その……的に、なんだか変な表示が見えて」
「表示、ですか?」
エルザが眉をひそめながら近づいてきた。
「詳しく聞かせてください。何が見えたんですか?」
啓太は戸惑いながらも、見えたままを説明した。エルザは真剣な表情でメモを取り、しばらく考え込む。
「もしかして、と思うんですが……啓太さんは、いわゆる『鑑定』のスキルをお持ちではありませんか?」
「鑑定、ですか? そういえば、最初にこの世界に来た時、ステータスの中にそれっぽいものがあった気がしますが……ほとんど使ったことがなくて」
「今の反応は、おそらくその鑑定スキルが、瘴気に対して反応を示したんだと思います。皆さんが集めてくれた瘴気耐性の鉱石や、先ほどの木の実――そういったものを扱い続けたことで、スキルが刺激され、少しずつ進化している可能性があります」
「進化、ですかぁ?」
リーネが興味津々といった様子で首を伸ばす。
「はい。もしこのまま鑑定の精度が上がれば、発生源――あの巨大な影の弱点や、瘴気の性質を直接見抜けるようになるかもしれません」
その言葉に、四人は思わず顔を見合わせた。
「それは、かなり心強い話だな」
ルナが目を輝かせながら言うと、シルフィも大きく頷いた。
「もう少し試してみましょう。せっかくですから」
エルザに促され、啓太は改めて剣を構えた。今度は的ではなく、少し離れた場所に置かれた瘴気を含んだ鉱石の欠片に意識を向けてみる。
すると、また文字が浮かび上がった。
『対象:瘴気含有鉱石(小)/瘴気濃度:中/瘴気を弱める効果を確認』
「見えた……! 濃度とか、効果まで表示されてます」
「素晴らしい。これなら、今後の調査で大いに役立ちそうですね」
エルザが興奮した様子で、次々とメモを書き足していく。
「わたしも何か手伝えますかぁ?」
「そうだな、リーネの魔力伝導率が上がった杖と組み合わせれば、もっと効率よく鑑定できるかもしれない。今度試してみよう」
啓太が優しく言うと、リーネは嬉しそうに頷いた。
「よし、それじゃあ次はあたいと模擬戦だ、啓太! 新しい剣の実力、確かめさせてもらうぞ!」
ルナが待ちきれない様子で剣を構える。
「お手柔らかに頼むぞ」
啓太が苦笑しながら答えると、訓練施設に、四人の元気な声とぶつかり合う剣戟の音が響き渡った。
模擬戦は思いのほか白熱し、時には転んだり、リーネの魔法が明後日の方向に飛んでいったりと、笑いの絶えない時間になった。それでも、確かな手応えとともに、新しい力の兆しが、静かに芽生え始めていた。
「今日はいい収穫があったな」
訓練を終え、汗を拭いながら啓太が呟く。
「ああ。装備も、それに啓太のスキルも、着実に前進してる感じがする」
ルナの言葉に、シルフィとリーネも笑顔で頷いた。
夕暮れの訓練施設を後にしながら、四人は次なる一歩に、確かな手応えを感じていた。




