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第79話『検体分析の結果』


装備の受け取りも近づいたある日、四人はエルザの研究室に呼び出されていた。届いた手紙には「重要な分析結果が出ました」とだけ書かれており、道中、リーネはずっとそわそわしていた。


「呼び出しって、なんだか緊張しますぅ……」


「まあ、悪い話とは限らないだろ」


啓太がそう言いながら扉を開けると、エルザはいつになく興奮した様子で机に向かっていた。


「来てくれましたね! ちょうど良かった、今、結果がまとまったところです」


机の上には、これまで四人が持ち込んだ検体の分析データが、几帳面に並べられていた。


「まず、皆さんが最近採取してくれた検体ですが……瘴気の濃度分布が、想定よりもはっきりとした形で見えてきました」


エルザは一枚の図を取り出した。竜の穴の断面図に、濃淡で瘴気の分布が描き込まれている。中層より下、ある一点に向かって、色が急激に濃くなっていた。


「ここです。皆さんが目撃した影がいた場所と、ほぼ一致します」


「やっぱり、あそこが……」


ルナが図をのぞき込みながら呟く。


「はい。発生源は、ほぼ間違いなくこの一帯にいると考えられます。それと、もう一つ」


エルザは別の資料を取り出した。少し古びた紙には、見慣れない紋様のようなものが描かれている。


「試薬に使った瘴気耐性の成分を分析していたところ、興味深いことが分かりました。皆さんが竜の穴で拾ってきた鉱石の一部に、瘴気を弱める性質があることが判明したんです」


「あの、時々拾ってた変な石ですか?」


シルフィが首をかしげると、エルザは頷いた。


「はい。おそらく、竜の穴そのものが、瘴気に対抗する力を内包している可能性があります。うまく活用できれば、発生源討伐の際の大きな助けになるはずです」


啓太は資料を手に取り、真剣な表情で読み込んだ。


「つまり、今後はその鉱石も積極的に集めていくべき、ということですね」


「その通りです。それと――」


エルザは一度言葉を切り、少し改まった様子で四人を見渡した。


「今回の分析結果を踏まえて、ギルドの上層部にも報告を上げました。今後、皆さんの調査には、正式な支援がつくことになると思います」


「支援、ですか?」


「はい。物資の提供や、必要であれば経験豊富な冒険者の同行なども検討されています。発生源討伐は、街全体に関わる重要な案件ですから」


その言葉に、四人は顔を見合わせた。


「なんだか、いよいよ本格的になってきましたぅ……」


リーネが少し緊張した面持ちで呟く。


「大丈夫だ。一人で挑むわけじゃない。みんなで、それに街の人たちの支援もある」


啓太が優しく声をかけると、リーネは小さく頷いた。


「それと、これは私からの提案なんですが」


エルザが少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「次の調査に向けて、まずは皆さんの実力を測るためにも、模擬戦形式の訓練を挟んでみてはどうでしょう。ちょうど、ギルドの訓練施設が使えますし」


「模擬戦、ですか」


「はい。新しい装備にも慣れておく必要がありますからね。……ああ、それと、リーネさん」


「な、なんですかぁ?」


エルザが不意に名前を呼ぶと、リーネがびくっと肩を震わせた。


「先日納品してもらった検体の中に、少し変わった性質のものがありました。あなたが苦労して採ってきてくれた、あの真っ黒な実の欠片です」


「あ、あの苦い木の実ですかぁ……!」


「はい。分析したところ、瘴気耐性だけでなく、魔力の伝導率を上げる効果もあることが分かりました。もしかしたら、あなたの魔法の威力を底上げできるかもしれません」


「ほ、本当ですかぁ!」


リーネの顔が、パッと明るくなった。先ほどまでの緊張が嘘のように、期待に満ちた表情に変わる。


「あの苦さも、無駄じゃなかったってことですねぇ……!」


「まあ、そう思っておいてください」


エルザが微笑ましそうに言うと、ルナが横から茶化すように口を挟んだ。


「良かったな、リーネ。あの悶絶タイム、報われたぞ」


「もう、ルナさんまで……! でも、嬉しいです!」


賑やかなやり取りに、啓太とシルフィも自然と笑みがこぼれた。


研究室を出る頃には、日はすっかり傾いていた。帰り道、啓太は静かに空を見上げた。


「発生源の位置、瘴気を弱める鉱石、ギルドの支援……少しずつだが、確実に前に進んでる」


「ですね。まだ怖い部分もあるけど、ちゃんと準備できてる気がします」


シルフィの言葉に、ルナも力強く頷いた。


「模擬戦、楽しみだな。新しい剣、早く試したいぜ」


「わたしも、魔法の威力アップ、試してみたいですぅ!」


三人の前向きな言葉に、啓太は柔らかく笑った。


「よし、それじゃあ次は模擬戦だ。みんな、気合を入れていこう」


夕暮れの道を歩きながら、四人はそれぞれの想いを胸に、確かな一歩を踏み出していくのだった。


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