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第78話『激辛串焼き、参上』


数日後の夕方、屋台街はいつも以上に活気づいていた。理由は単純明快、ゴードンの屋台に新しい幟が立てられていたからだ。


「本日より新発売! 激辛炎の串焼き!」


「おお、ついに完成したんですね!」


啓太たちが屋台に近づくと、ゴードンが得意げに胸を張った。


「おうよ! お前らのアドバイスのおかげで、いい感じに仕上がったぜ」


串には、艶やかなタレに絡んだ肉が刺さっており、ほんのりと赤みがかった香辛料が振りかけられている。香ばしい匂いと同時に、鼻の奥をツンと刺激する辛みの気配が漂ってきた。


「これは、期待できそうですぅ……!」


リーネが目を輝かせながら鼻をひくつかせる。


「よし、味見してみるか」


啓太が一本受け取り、みんなで顔を見合わせてから、同時に一口かじった。


次の瞬間。


「――かはっ!」


シルフィが目を大きく見開き、口元を押さえる。


「な、なにこれ! 甘辛からあげより、断然辛い……!」


「うおっ、確かにこりゃ辛ぇ! だが、肉の旨味とちゃんと合ってるな!」


ルナが額に汗を浮かべながらも、次々と頬張っていく。


「わたし、これくらいなら余裕で――んんんっ!?」


リーネが自信満々に一口かじった直後、勢いよく涙目になった。


「あ、あれぇ……? 前より辛くないですかぁ、これぇ!?」


「そりゃそうだ。お前らの『激辛からあげ』に負けじと、香辛料を倍にしたからな!」


ゴードンが自慢げに笑うと、リーネは涙目のまま水を求めて周囲を見回した。


「み、水……水をくださいですぅ……!」


「ほら、慌てるな」


啓太が水を差し出すと、リーネは一気に飲み干し、はぁっと息をついた。


「うぅ……美味しいけど、これは危険な味ですぅ……」


「危険な味、いいこと言うじゃねぇか! それ、宣伝文句に使わせてもらうぞ!」


ゴードンが機嫌よく声を張り上げると、周囲の客たちも興味津々といった様子で集まり始めた。


「おお、なんだなんだ、面白そうな新作じゃねぇか」


「一本くれ! 話のネタに食ってみる!」


あっという間に、屋台の前には行列ができ始めた。噂を聞きつけた常連客たちが次々と押し寄せ、ゴードンは嬉しい悲鳴を上げながら串を焼き続けた。


「くくく、こりゃ今日は大忙しになりそうだ!」


「手伝いましょうか?」


啓太が申し出ると、ゴードンは豪快に笑った。


「おう、頼むわ! お前らんとこの屋台も、今日は一緒に隣で出すか。二軒まとめて、激辛祭りといこうぜ!」


「面白そうですね。よし、みんな、準備するぞ!」


啓太の号令で、四人も自分たちの屋台を開く準備に取り掛かった。隣り合った二つの屋台から、こんがりとした香ばしい匂いと、ピリリとした辛みの香りが同時に立ち上る。


「さあさあ、両方とも今日イチオシの一品だよ! 食べ比べもできるぞ!」


シルフィが元気よく呼び込みをすると、通りかかった客たちが次々と足を止めた。


「へえ、両方とも激辛系か。よし、両方くれ!」


「わたしも両方お願いしますですぅ! ……あ、いえ、辛いのはやめておきますぅ……」


自分で言い出しておいて、先ほどの辛さを思い出したのか、リーネがすぐさま前言撤回する。その様子に、ルナとシルフィが顔を見合わせて笑った。


夕暮れの屋台街は、二つの香ばしい匂いと、賑やかな声で満たされていった。串を焼く音、注文を叫ぶ声、辛さに悶える客の悲鳴混じりの笑い声――そのすべてが、活気に満ちた一つの光景を作り出していた。


「今日は大盛況だったな」


閉店の片付けをしながら、啓太がしみじみと呟く。


「ゴードンさんのところも、うちも、両方とも売り切れでしたね」


シルフィが満足げに笑うと、ルナが串の残り香を嗅ぎながら頷いた。


「あたいらの屋台も、なかなかいい商売敵ができたもんだ」


「商売敵っていうより、もう仲間って感じですけどね」


啓太が笑いながら言うと、隣の屋台からゴードンが片付けの手を止めて顔を出した。


「おう、今日はありがとな! おかげで最高の滑り出しになったぜ」


「こちらこそ、楽しかったです」


「次は、もっと辛いのに挑戦してみるか? リーネちゃん、味見役、頼めるか?」


「ぜ、絶対嫌ですぅ……! もう当分、辛いものは見たくないですぅ……」


リーネが即座に首を振ると、その場にいた全員が思わず笑い声をあげた。


にぎやかな笑い声が、すっかり暗くなった屋台街に響き渡る。ダンジョンの脅威という重い課題は、まだ確かにそこにあるけれど――こうして仲間たちと過ごす、何気ない賑やかな時間もまた、『クローバー』にとってかけがえのないものだった。


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