第77話『市場でお買い物大作戦』
装備の相談を終えた翌日、四人は今度は市場へと繰り出していた。目的は、瘴気耐性を高めると噂の食材や薬草の買い出しだ。
「エルザさんが言ってた、瘴気耐性を高める食材……確か、赤根草とか、深層苔とかだったな」
啓太がメモを片手に呟くと、シルフィが露店を覗き込みながら答えた。
「深層苔なら、あそこの店にありそうだけど」
四人が向かった先は、薬草専門の露店だった。店主らしき老婆が、椅子に座ってうたた寝をしている。
「すみません、深層苔ってありますか?」
啓太が声をかけると、老婆はビクッと肩を跳ねさせて目を覚ました。
「お、おお! 客か! 深層苔ならあるぞ、あるぞ! ちょっと待ってな」
老婆はゴソゴソと棚をあさり、萎びた緑色の塊を取り出した。
「これだ、これ。新鮮な深層苔だぞ」
「あの……これ、かなりしなびてる気がするんですが」
「なに言ってる、これが新鮮な証拠だ! 深層苔は乾燥してるくらいがちょうどいいんだよ!」
老婆が自信満々に言い張るので、啓太は半信半疑ながらも購入することにした。
「わたし、他にも良さそうなもの見つけましたですぅ!」
隣の露店から、リーネが何やら怪しげな瓶を抱えて戻ってきた。ラベルには『飲めば元気百倍! 謎の秘薬』と書かれている。
「リーネ、それ絶対怪しいやつだろ……」
「でも店主さんが、絶対おすすめって言ってましたですぅ!」
「その店主、絶対息子か孫に売れ残り押し付けられてるパターンだぞ」
ルナが呆れたように口を挟むと、リーネはしゅんとしながらも、なぜか瓶をしっかり抱えたまま離さなかった。
そんな中、シルフィが野菜を吟味している露店の前で立ち止まった。
「ここ、赤根草がたくさんあるね。新鮮そう」
「本当か? よし、まとめて買っておくか」
啓太が交渉に向かうと、店主の男が愛想よく笑いかけてきた。
「おや、お兄さん、目利きがいいね! この赤根草は今朝採れたばかりだよ」
「まとめて買いたいんですが、量が多いと安くなったりします?」
「もちろんさ! 十本買うなら、特別に一本オマケしてやろう」
「じゃあ、二十本お願いします」
「太っ腹だね! よし、じゃあ二本オマケだ!」
啓太が交渉に勤しむ横で、ルナがふと市場の端に目を留めた。
「おい、あそこ、ゴードンじゃねぇか?」
見れば、串焼き屋台のゴードンが、なぜか市場の一角で新しい香辛料を物色していた。
「よぉ、お前らも買い出しか」
「ゴードンさん、こんなところで何を?」
「いやなに、この前のリーネちゃんの激辛からあげに触発されてな。うちも新作を考えようと思って、香辛料を探してるんだよ」
「もしかして、新しい串焼きですかぁ?」
リーネが目を輝かせて食いつくと、ゴードンは自慢げに頷いた。
「ああ、超激辛の串焼きを作ろうと思ってな。ただ、どの香辛料がいいか迷っててよ」
「それなら、さっきの店で見た唐辛子っぽいやつが良さそうでしたよ」
啓太がアドバイスすると、ゴードンは腕を組んで唸った。
「なるほどな、後で見てみるか。……ところで、お前らは何を買い出してるんだ?」
「瘴気耐性を高める食材を探してまして」
「へえ、そりゃまた本格的だな。……お、それなら、あそこの店がいいぞ。ちょっと変わった店主だが、腕は確かだ」
ゴードンが指さした先には、これまで見たことのない、少し薄暗い雰囲気の露店があった。看板には『怪しい店、しかし品質は保証』と書かれている。
「あの看板、正直すぎて逆に不安になりますね……」
シルフィが苦笑しながら呟くと、リーネが恐る恐る近づいていった。
「こ、こんにちはですぅ……」
店主は、フードを深くかぶった小柄な人物だった。声だけは、やけに陽気だ。
「おや、いらっしゃい! 何をお探しかな?」
「瘴気耐性を高める食材を探してるんですが……」
「それなら、これがおすすめだよ!」
店主が差し出したのは、真っ黒な木の実だった。よく見ると、微かに紫色の光を放っている。
「これ、瘴気を吸収した木の実でな。少し食べにくいが、耐性をつけるにはもってこいだ」
「食べにくい、ってどれくらいですかぁ?」
「まあ、試してみればわかるさ」
リーネが恐る恐る一つ手に取り、意を決したように口に運んだ。次の瞬間。
「にっっっがぁぁぁぁいですぅぅぅ!」
リーネが涙目で悶絶する。あまりの苦さに、その場でぴょんぴょんと跳ね始めた。
「うわ、想像以上だな……」
「大丈夫か、リーネ!」
啓太が慌てて水を差し出すと、リーネは一気に飲み干し、ようやく落ち着きを取り戻した。
「苦い、苦かったですぅ……。でも、なんだか体がポカポカしてきた気がします……」
「効果はちゃんとあるみたいだな。……よし、これも買っておくか」
「多めに買っておけよ。修行だと思って、みんなで食え」
ルナがニヤニヤしながら言うと、シルフィとリーネが同時に顔をしかめた。
「わ、私は少なめでお願いしたいかも……」
「わたしも今ので十分学びましたですぅ……」
そんなやり取りを繰り広げながら、四人は必要な食材と道具を一通り買い揃えていった。両手いっぱいの荷物を抱えながら、夕暮れの市場を後にする。
「今日はなかなかの収穫だったな」
「ですね。少し苦い思い出付きですけど」
シルフィが笑いながら言うと、リーネが恨めしそうに口を尖らせた。
「わたし、当分あの黒い実、見たくないですぅ……」
「まあまあ、そう言うな。ちゃんと強くなるための一歩だ」
啓太がリーネの頭を軽く撫でると、リーネは少し照れくさそうに微笑んだ。
「準備は着実に進んでる。この調子で、少しずつ力をつけていこう」
啓太の言葉に、三人は元気よく頷いた。
賑やかな買い出しの一日を終え、『クローバー』はまた一歩、目標に向かって歩みを進めていくのだった。




