第76話『鍛冶屋のお姉さんと厄介な魔道具』
翌朝、『クローバー』の四人は、ルナの案内で鍛冶ギルドへと向かっていた。街の外れにある工房からは、朝から威勢のいい金属音が響いている。
「ここだ。あたいの古い付き合いでな、腕は確かだぞ」
ルナが胸を張って扉を開けると、むわっと熱気とともに、汗と鉄の匂いが押し寄せてきた。
「いらっしゃい……って、ルナじゃないか! 久しぶりだね!」
奥から現れたのは、がっしりとした体格に、片手にハンマーを持った女性だった。額には汗が光り、腕は鍛冶仕事で鍛え上げられた筋肉に覆われている。
「マグダ、久しぶり。今日は装備を頼みに来た」
「へえ、あんたが噂の『クローバー』か。ルナから話は聞いてるよ。……おや、可愛い子ばっかりだね」
マグダが四人を見回すと、リーネが少し緊張したように背筋を伸ばした。
「よ、よろしくお願いしますですぅ!」
「そんなに固くならなくていいよ。さて、何を作ればいいんだ?」
啓太が事情を説明すると、マグダは腕を組んで唸った。
「発生源討伐、ね……。そりゃまた、随分と大きな話になったもんだ」
「今すぐじゃないですが、いずれ挑むための準備を進めておきたくて」
「よし、分かった。じゃあまず、剣士の嬢ちゃんから見てやろう」
マグダはルナの剣を手に取ると、刃をじっと見つめた。
「うーん、まだ使えるが、そろそろ限界も近いな。……よし、いいのを見繕ってやる」
工房の奥から、マグダは次々と武器を持ち出してきた。
「これなんてどうだ? 魔鋼を使った両手剣だ。重いが、その分威力は折り紙付きだぞ」
ルナが受け取って構えると、途端に目を輝かせた。
「おお……! これは、すげぇしっくりくるな!」
「よし、これに決まりだ。……で、次はどっちだ? 弓使いの嬢ちゃんか?」
シルフィが弓を差し出すと、マグダは弦を軽く弾いてみせた。
「うん、弦はまだ大丈夫だが、矢じりを強化型に変えとこう。瘴気持ちの魔物にも通りやすくなるはずだ」
「お願いします」
淡々と作業が進む中、ふと工房の隅にある棚が、リーネの目に留まった。
「あ、あれは何ですかぁ?」
リーネが指さした先には、奇妙な形をした道具が並んでいた。目玉のような飾りがついた杖や、やたらとトゲトゲした腕輪などが雑然と置かれている。
「ああ、あれは失敗作の置き場だよ。試作品ってやつだな」
「失敗作、ですか?」
リーネが興味津々といった様子で近づいていく。啓太は嫌な予感がした。
「リーネ、あんまり変なものに触らない方が――」
だが、時すでに遅く、リーネは棚の中から、やけに禍々しい紫色の腕輪を手に取っていた。
「わぁ、これ、なんだかカッコいいですぅ! つけてみてもいいですかぁ?」
「あ、それは――」
マグダが止める間もなく、リーネはその腕輪を、うきうきした様子で自分の腕にはめてしまった。
次の瞬間。
「ぶもぉぉぉぉっ!」
リーネの口から、およそ想像もしなかった重低音の鳴き声が響き渡った。
「な、なんですかこれぇぇ! 声が、声が変になってますぅ!」
「ああ、思い出した! それ、声を変える魔道具の試作品だ! 失敗して、牛みたいな声しか出せなくなるやつ!」
マグダが慌てて説明する。工房中に、リーネの牛のような叫び声が響き渡った。
「ぶもぉぉっ! 外して、外してくださいですぅぶもぉぉっ!」
「ちょ、ちょっと待て、今外すから!」
啓太が慌てて駆け寄る一方で、シルフィとルナは我慢できずに吹き出していた。
「ふふっ、リーネ、その声、なんか癒される……!」
「ぶはは! いいじゃねぇか、たまには! それはそれで新鮮だぞ!」
「笑い事じゃないですぅぶもぉぉっ! ……あ、また出ましたぁ……!」
啓太が腕輪の留め具を苦労して外すと、リーネの声はようやく元に戻った。涙目のリーネが、じとっとした目で腕輪を睨む。
「もう、ひどいですぅ……。でも、正直ちょっとだけ、あの声、面白かったです……」
「なら結果オーライだな」
啓太が苦笑しながら言うと、マグダも笑いながら頭をかいた。
「悪い悪い、危ないものはちゃんと奥にしまっておくべきだったな」
そんな一幕を挟みつつも、装備の相談は着実に進んでいった。マグダは啓太の武器と、リーネの杖についても丁寧に見立ててくれ、それぞれに合った強化案を提示してくれた。
「よし、これで大体決まったな。仕上がりは数日かかるが、いいものを作ってやるよ」
「ありがとうございます、マグダさん」
啓太が頭を下げると、マグダはにやりと笑った。
「発生源討伐、簡単な話じゃないだろうが……あたいの武器で、あんたらが生き延びる力になれるなら、こんなに嬉しいことはないさ」
その言葉に、四人は静かに頷いた。
工房を出る頃には、日はすっかり傾いていた。帰り道、リーネが不満げに口を尖らせる。
「今日のこと、絶対忘れませんですぅ……」
「まあまあ、いい思い出になったじゃないか」
「啓太さんまで笑ってましたよねぇ!?」
「いや、あれは、その……不可抗力というか……」
「もう、知りませんですぅ!」
頬を膨らませるリーネに、ルナとシルフィが顔を見合わせて、また笑い声をあげた。
賑やかな声が、夕暮れの街並みに響いていく。装備の準備は着実に進みながらも、『クローバー』らしい、笑いの絶えない一日だった。




