第69話『装備の試し斬り』
新装備を手に入れた翌日から、四人は竜の穴の中層で実戦テストを重ねていた。
「今日は第二十二層まで潜って、装備の感覚を確かめよう」
啓太の提案に、三人は真新しい装備を確認しながら頷いた。腰に下げた浄化のペンダントが、歩くたびに小さく揺れる。まだ慣れない重みに、シルフィが少しぎこちなく肩を動かした。
「なんか、いつもより身体が軽い気がするよ。腕輪の効果かな?」
シルフィが腕輪をつけた手を握ったり開いたりしながら呟く。
「魔力の巡りも、心なしか良くなってる気がしますぅ。杖飾りって、こんなに違うものなんですね」
リーネも杖飾りを見つめながら微笑んだ。
「あたいの護符も、なんかじんわり温かい感じがするぜ。まだ本領発揮はしてねぇだろうけどな」
ルナが胸元の護符を確かめながら答える。
しばらく進むと、通路の先に禍々しい紫色のオーラを纏う小型の魔物が現れた。
「あれは……瘴気持ちの個体か!?」
ルナが警戒した声を上げる。全身に緊張が走るのが、啓太にも伝わってきた。
「先日聞いた話とは違って、小型のようだ。試すにはちょうどいい」
啓太が短剣を構えると、魔物――『瘴気コウモリ』が甲高い鳴き声とともに突進してきた。
「シルフィ、援護を!」
「はいっ! 『精霊貫き矢』!」
放たれた矢が瘴気コウモリの翼を貫く。だが、翼から滲み出た紫色の瘴気が、周囲に霧のように広がった。
「うわ、これが瘴気か……! 息苦しい感じがする!」
シルフィが顔をしかめる。だが、ペンダントの効果か、以前聞いていたほどの深刻な症状は現れなかった。呼吸の乱れも、すぐに落ち着いていく。
「浄化のペンダント、ちゃんと効いてるみたいだな!」
ルナが自身の胸元を確認しながら声を上げる。
啓太は瘴気の霧の中へ踏み込み、コウモリの急所を正確に貫いた。腕輪のおかげか、瘴気に触れた腕にも痺れは感じない。以前なら躊躇していたはずの一歩を、迷いなく踏み込めた。
「これなら、思ったより戦える」
「グギャアアッ!」
断末魔の叫びとともに、瘴気コウモリが地に落ちる。周囲に漂っていた紫色の霧も、次第に薄れて消えていった。
「よし、討伐完了だ。みんな、体調に異変はないか?」
「わたしは平気ですぅ! 杖飾りのおかげか、魔法もいつも通り撃てました! 詠唱にも影響なかったです」
「あたいもだ。護符のおかげで、回復魔法の効きも良くなってる気がするぜ」
ルナが自身に軽く回復魔法をかけながら確認する。淡い光が、いつもよりも柔らかく身体を包んでいるように見えた。
「あたしも大丈夫! 一瞬息苦しかったけど、すぐ収まったよ」
シルフィが胸に手を当てながら深呼吸を繰り返す。
「装備の効果は確かなようだな。これなら、より深い層での戦闘にも希望が持てる」
啓太は瘴気コウモリの死骸から、小さな結晶を採取した。淡い紫色に輝くそれは、瘴気の研究材料として、ギルドが買い取りを行っているという話だった。
「これも、ギルドに持ち帰って調査に役立ててもらおう。少しでも、原因究明の手助けになるかもしれない」
その後もいくつかの瘴気持ちの魔物と遭遇したが、装備の効果もあり、四人は着実に対処していった。戦うたびに、装備の扱いにも徐々に慣れていく。
「今日の成果、上々だったね」
シルフィが額の汗を拭いながら笑う。
「ああ。装備の性能も、俺たちの実力も、確実に前進している」
啓太は仲間たちの顔を見渡しながら、静かな手応えを噛み締めていた。
(これなら、いずれあの黒いドラゴンにも――)
地上へ戻る道すがら、啓太の胸には、確かな自信が芽生え始めていた。だが同時に、生還者の男が語っていた壮絶な戦いの様子も、脳裏から離れなかった。
(油断は禁物だ。あのドラゴンは、今日の瘴気コウモリとは比較にならない相手のはずだ)
「店長、なに難しい顔してんだよ」
ルナに声をかけられ、啓太は我に返った。
「いや、順調すぎるくらいだから、逆に気を引き締めないとな、と思ってな」
「へへ、真面目だなぁ、店長は。でもまあ、その慎重さのおかげで、あたいらここまで無事にやってこれたわけだしな」
ルナの言葉に、啓太は小さく笑った。
「今日はゆっくり休んで、明日からまた次の層に挑戦しよう」
「「「了解!」」」
試練はまだ続く。だが、『クローバー』の歩みは、着実に前へと進んでいた。




