第68話『対瘴気装備』
翌朝、四人はグランドールの一角にある特殊装備店を訪れていた。
「『魔導具工房ヴェルデ』……ここなら瘴気対策の装備もありそうだね」
シルフィが看板を見上げながら呟く。古めかしい石造りの外観だが、扉の隙間からは微かに魔力を帯びた光が漏れていた。
「店構えからして、ただ者じゃない感じですぅ……」
リーネが少し緊張した面持ちで扉を押す。
店内には、見慣れない紋様の刻まれた防具や、淡く発光する道具が所狭しと並んでいた。天井近くまで積まれた棚には、値札のついていない品も多く見受けられる。
「いらっしゃい。今日はどういったご用件で?」
奥から現れたのは、片眼鏡をかけた白髪の老婦人だった。鋭い目つきが、只者ではない雰囲気を漂わせている。
「瘴気への対策になる装備を探しています。竜の穴の深層で、瘴気を纏う魔物と戦う可能性があって」
啓太が用件を告げると、老婦人の表情がわずかに険しくなった。
「瘴気、ね……。厄介なものに首を突っ込んだものだ。まあいい、いくつか見繕ってやろう」
老婦人は棚の奥から、深緑色に光る首飾りを取り出した。表面には、細かな魔法陣のような模様が刻まれている。
「これは『浄化のペンダント』。瘴気による継続ダメージを大幅に軽減してくれる。値は張るが、命には代えられないだろう」
「金貨いくらですか?」
「金貨25枚だ。安くはないが、量産品じゃない。うちの工房で一つひとつ丁寧に作り上げている代物だからな」
ルナが息を呑む。だが、品評会での賞金と、屋台の売上が、その負担を十分にまかなえるだけの余裕を作っていた。
「四人分、お願いします」
「ほう、太っ腹だな。近頃こんなに気前のいい客は珍しい」
老婦人はさらに、腕輪や特殊な布地を取り出した。
「この腕輪は、瘴気による身体麻痺の進行を遅らせる効果がある。前衛の君には特に必要だろう」
「ありがとうございます」
啓太は装備を一つひとつ丁寧に確認しながら、身に着けていった。ずっしりとした重みの中に、確かな安心感がある。
(元コンビニ店長として、無駄遣いは避けたいところだが……これは必要経費だな。命には代えられない)
「あの、これは何ですか?」
リーネが興味深そうに指差したのは、小さな結晶が埋め込まれた杖飾りだった。淡い青色の光が、規則的に明滅している。
「それは魔力効率を高める触媒だ。瘴気の影響下では魔法の発動が不安定になりやすいから、詠唱の安定化に役立つはずだよ」
「わたしにぴったりですぅ! さっそく着けてみますぅ」
リーネが目を輝かせながら杖に取り付けると、手元がわずかに温かく発光した。
「回復魔法使いには、これがオススメだ」
老婦人がルナに差し出したのは、癒しの力を増幅させるという小さな護符だった。
「これがあれば、瘴気による傷にも、より効果的な回復魔法をかけられるはずだ」
「助かるぜ。何せ、あたいの回復は運任せなところもあるからな」
ルナが冗談めかして笑うと、老婦人はふっと口元を緩めた。
「運も実力のうち、とは言うがな。それでも、備えあれば憂いなしだ」
一通りの装備を揃え終えた頃には、金貨の大半を使い切っていた。だが、四人の表情に後悔の色はなかった。
「これで、少しは安心して挑めそうだね」
シルフィが新しい腕輪を眺めながら微笑む。
「ああ。装備も、心構えも、着実に整ってきている」
啓太は仲間たちを見渡しながら、静かに頷いた。
「あとは、これらの装備に慣れる時間も必要だな。実戦で急に使いこなすのは難しい」
「確かに。しばらくは通常の依頼をこなしながら、装備の感覚を掴んでいくのがいいかもですぅ」
リーネが杖飾りの光を見つめながら答える。
「よし、じゃあ次の依頼からさっそく試してみようぜ! ……にしても、こんなに立派な装備、値段が値段だけに扱いを間違えられねぇな」
ルナが緊張した面持ちで護符を握りしめた。
店を出ると、老婦人が最後にひと言、声をかけてきた。
「無理はするなよ。装備はあくまで補助だ。本当に頼れるのは、お前たち自身の力と、仲間との絆だからな」
「肝に銘じます」
啓太は深く頭を下げ、店を後にした。
外に出ると、夕暮れの光が装備の宝石を淡く照らしていた。
「よし、明日からは装備に慣れる特訓だな」
「うん! 頑張ろう!」
新たな装備を手に、『クローバー』は再びダンジョンへと向かう準備を進めていくのだった。




