第66話『新たな戦力』
試験から三日後。ギルドの受付から呼び出しを受けた四人は、緊張した面持ちで窓口へと向かった。
「『クローバー』の皆さん、こちらへ」
案内された先で、ギルド職員が恭しく一枚のプレートを差し出した。窓口の奥では、他の職員たちも興味深そうにこちらを見守っている。
「Bランク昇格試験、合格です。おめでとうございます」
艶やかな銀色に輝くプレートを目にした瞬間、リーネが両手で口を押さえた。
「ほ、本当に……合格しましたぁ……! 夢みたいですぅ!」
「やったぁぁぁ! Bランクだよ、みんな! あたしたち、また一段昇格したね!」
シルフィが飛び跳ねて喜び、ルナも拳を突き上げる。
「よっしゃあああ! これで正式にBランクパーティだ! しかもたった数ヶ月でここまで来るとはな!」
啓太は静かにプレートを受け取り、その重みを噛み締めるように見つめた。試験の日に感じた緊張と、これまでの努力の日々が脳裏をよぎる。
「ここまで来られたのは、みんなの努力があったからだ。本当にお疲れ様」
「店長の指導のおかげでもあるけどな! ま、素直に感謝しといてやるよ」
ルナが照れくさそうに笑う。
その日の夜、いつも通り屋台を出しながらも、四人の間には浮ついた高揚感が漂っていた。新しいプレートを見せると、ゴードンをはじめ常連客たちからも次々と祝福の声がかかった。
「おいおい、うちの隣がまさかBランクになるとはな。ますます目が離せねぇ屋台になっちまった」
ゴードンがからかうように笑いながら、串焼きを差し入れてくれる。
賑やかな喧騒が落ち着いた頃、シルフィがふと真剣な表情になる。
「Bランクになったってことは……そろそろ、あの依頼のことも考えないとだね」
「ああ。竜の穴の異変についての依頼だ」
啓太は油の温度を確認しながら頷いた。
「ただ、いきなり本題に挑むのは危険すぎる。まずは情報収集からだ」
「情報収集?」
「あの依頼を出したのが誰なのか、これまでの調査でどこまで判明しているのか。まずはギルドで詳しい話を聞いてみよう」
翌日、四人はギルドの資料室を訪れた。対応してくれたのは、以前試験官を務めたガイウスだった。
「お前たち、あの依頼のことを調べに来たのか」
「はい。竜の穴の異変について、詳しく知りたいんです」
ガイウスは少し思案顔になった後、資料の束を取り出した。埃をかぶった古い報告書や、手描きの見取り図が机の上に広げられていく。
「詳細はまだ多くが謎に包まれている。だが、複数のパーティからの報告によると、最深部付近で魔物の活動が急激に活発化しているのは事実だ。中には、通常種とは異なる異様な個体を見たという証言もある」
「異様な個体……?」
「体色が黒く変色していたり、通常より一回り大きかったり――いわゆる『変異個体』の可能性が高いと見られている。過去にも似たような事例はあったが、原因の特定には至っていない」
啓太は以前遭遇したドラゴンの姿を思い浮かべた。
(あの紅い瞳のドラゴンが、変異の影響を受けているとしたら……)
「もしその原因が分かれば、対処のしようもある。だが、まだ誰も最深部付近まで到達できていない状況だ。無理に挑んで、命を落としたパーティもいる」
「俺たちが、その先陣を切ることになるかもしれない、ということですね」
「まだ気は早いがな。まずは着実に実力を積み、機を見て挑むべきだろう。焦りは禁物だ」
ガイウスの言葉に、四人は真剣な表情で頷いた。彼は資料の一部を丁寧に折りたたむと、啓太に手渡した。
「これは、これまでに確認されている変異個体の目撃情報だ。持って行くといい。役に立つはずだ」
「ありがとうございます」
啓太は資料を大切に懐にしまい込んだ。まだ見ぬ脅威への輪郭が、少しずつ明確になっていくのを感じていた。
資料室を出た後、ルナがぽつりと呟いた。
「なんか、いよいよって感じだな」
「ああ。だが、俺たちなら大丈夫だ」
啓太は仲間たちの顔を見渡しながら、静かに、しかし確かな自信を込めて答えた。
「まずは、周辺層でもう少し情報を集めよう。変異個体との実際の戦闘記録がないか、他のパーティにも話を聞いてみたい」
「わたし、他のパーティの人たちと話すの、ちょっと緊張しますぅ……」
「大丈夫、リーネ。俺たちはもう、あの試験を乗り越えた立派なBランクパーティだ。自信を持っていい」
啓太の言葉に、リーネは頬を赤らめながら小さく頷いた。
「よし、まずは今日の営業を頑張って、その後で情報収集の計画を立てよう」
「「「おうっ!」」」
四人の声が、夕暮れの街に力強く響いた。
Bランクという新たな称号と、まだ見ぬ脅威への手がかり。
『クローバー』の物語は、さらに大きな舞台へと動き出そうとしていた。




