第65話『Bランク昇格試験』
それから二週間後。
入念な準備を重ねた『クローバー』は、ついにBランク昇格試験の当日を迎えた。
「緊張してきましたぁ……」
リーネが胸に手を当てながら深呼吸を繰り返す。手にした杖を、いつもより強く握りしめていた。
「大丈夫、今までの練習を思い出せば大丈夫だよ」
シルフィが優しく肩を叩く。以前の彼女なら、逆に励まされる側だっただろう。
「試験内容は、竜の穴第二十五層での連続討伐、それに加えて突発的なアクシデントへの対応力も見られるらしいぜ」
ルナが受け取った試験概要を読み上げる。
「連続討伐か。持久力と判断力、両方が試されるな」
啓太は静かに頷き、短剣の柄を確かめた。この二週間、毎晩繰り返してきた素振りの感触が、しっかりと手に馴染んでいる。
試験官として同行するのは、ベテラン冒険者らしき壮年の男――ガイウスと名乗った人物だった。厳めしい顔つきだが、目には穏やかな知性が宿っている。
「昇格試験は、単純な戦闘力だけを見るものじゃない。パーティとしての連携、危機管理能力、そして仲間を思いやる判断力。それら全てが試される」
ガイウスの言葉に、四人は真剣な表情で頷いた。
ガイウスの号令とともに、四人は迷宮の奥へと足を進めた。歩を進めるたびに、緊張と高揚が入り混じった空気が漂う。
第二十五層に足を踏み入れると、すぐに複数の魔物の気配が感じられた。壁面が青く発光する、これまでとは異なる深度の空気が肌に伝わってくる。
「来ます! 数、4体!」
シルフィが素早く索敵し、報告する。
「連携パターンB、いくぞ」
「了解!」「はいですぅ!」「任せろ!」
啓太の指示のもと、四人は淀みなく動いた。シルフィの牽制射撃、リーネの範囲魔法、啓太の前衛としての制圧、ルナの的確な支援。それぞれの役割が、まるで一つの生き物のように噛み合っていく。
「見事な連携だ……」
ガイウスが感心したように呟くのを、啓太は耳の端で捉えていた。記録用の羊皮紙にペンを走らせる音が、戦闘の合間に微かに聞こえてくる。
戦闘は次々と続いた。単体の強敵、複数の雑魚、時には罠による不意打ちもあったが、四人はそのたびに冷静に対処していく。息を合わせるたびに、互いへの信頼が確かなものへと変わっていくようだった。
「――突発事態だ! 天井が崩落する! 全員退避!」
ガイウスが叫ぶと同時に、轟音とともに天井の一部が崩れ落ちた。土煙が視界を覆い、方向感覚が一瞬揺らぐ。
「リーネ、こっちだ!」
啓太が咄嗟にリーネを抱え、瓦礫の直撃を避ける。同時にシルフィが、落石で身動きが取れなくなったルナのもとへ駆け寄った。
「ルナ、大丈夫か!?」
「あ、ああ……足が挟まっちまった。すまねぇ」
「動くな、今どかすから!」
シルフィが瓦礫をどけ、ルナが即座に自身へ回復魔法をかける。混乱の中でも、誰一人としてパニックに陥ることなく、冷静に対応していた。土煙が晴れると、四人は互いの無事を確認するように顔を見合わせた。
「全員、無事か?」
「あたしは平気! リーネは?」
「わ、わたしも大丈夫ですぅ……! ケイタさんが庇ってくれましたから」
「あたいもこの通り、ぴんぴんしてるぜ」
啓太は小さく息を吐き、ガイウスの方へ視線を向けた。
「――以上だ。試験、終了」
ガイウスの声に、四人ははっと我に返った。
「え、これで、終わりですか?」
「ああ。今の一連の対応で、十分に見させてもらった」
ガイウスは満足げに頷きながら、記録用の羊皮紙に何かを書き込んでいく。
「特に、突発事態への対応は満点に近い。誰か一人が欠けても機能しない、真の意味での連携が取れていた。それに、崩落の瞬間、誰もが真っ先に仲間の安否を気にかけていたのが印象的だった」
啓太たちは互いに顔を見合わせ、安堵の表情を浮かべた。
「結果は後日、正式に通知される。だが――」
ガイウスがニヤリと笑った。
「まず間違いなく、お前たちは合格だろうな。ここ数年で見た新人パーティの中でも、屈指の連携力だ」
その言葉に、四人は歓声を上げて抱き合った。
「や、やったぁぁぁ……! Bランクだよ、Bランク!」
「わたし、まだ実感が湧きませんぅ……! でも、嬉しいですぅ!」
「よっしゃあああ! この調子でどんどん上を目指すぜ!」
地上に戻る道すがら、啓太は静かに拳を握りしめた。
(これで、Bランクへ。ドラゴンへのリベンジも、また一歩近づいたな)
仲間たちの弾んだ声を聞きながら、啓太は静かな充実感を噛み締めていた。
新たな称号を手にする日も、そう遠くはなかった。




