第64話『成長の証』
本格的な修行を始めてから、瞬く間に二週間が過ぎた。
「そろそろ、実戦で成果を確かめてみないか」
啓太の提案に、三人は顔を見合わせて頷いた。連日の鍛錬で、それぞれの表情には以前とは違う自信のようなものが滲んでいた。
「賛成! ずっと練習ばかりだと、成長してるのか分からなくなってきたし」
シルフィが弓を担ぎながら答える。以前よりも構えが安定し、無駄のない動きになっていた。
「わたしも、詠唱の練習はだいぶ手応え感じてますぅ! 実際に試してみたいです!」
「あたいも新しい回復魔法、いくつか試してみたい術式があるんだよな」
ルナが指をぽきぽきと鳴らしながら意気込む。
「よし、それなら実戦形式で確認しよう。ただし、無理はしないこと。あくまで今の実力を測るのが目的だ」
ここ数日の修行の光景が、啓太の脳裏に蘇る。夜通し弓を磨き続けたシルフィ、声が枯れるまで詠唱を繰り返したリーネ、何度もダイスを転がしながら術式を調整していたルナ。誰もが、それぞれのやり方で自分自身と向き合ってきた。
選んだのは、竜の穴の第十八層に生息する『アイアンリザード』の討伐依頼。以前の四人なら苦戦は必至だった、硬い鱗を持つ厄介な魔物だ。ギルドの掲示板でも「実力を測るのにちょうど良い」と評判の相手だった。
「よし、行くぞ」
通路の先に現れたアイアンリザードは、以前戦ったガーディアンナイトに匹敵する重厚な鱗をまとっていた。全身から放たれる圧は、以前と変わらず重い。
「シルフィ、まず様子見だ」
「了解! ――『精霊貫き矢』!」
放たれた矢が、以前よりも明らかに鋭さを増した軌道で、鱗の隙間へと吸い込まれるように命中した。
「え……!? こんなに刺さるの、初めてかも!」
驚くシルフィに、啓太は満足げに頷いた。
「狙いの精度が上がった証拠だ。この調子でいこう」
怯んだリザードに向け、リーネが素早く詠唱を完了させる。
「『フレイムバースト』!」
以前よりも短い詠唱時間で放たれた炎が、確実にダメージを重ねていく。爆発の規模も、以前よりわずかに大きい。
「詠唱、早くなってますよね!? わたし、頑張った成果出てますぅ!」
「ああ、見違えるくらいにな」
啓太は前へ踏み込み、鱗の継ぎ目を正確に見極めながら短剣を振るった。以前ならば何度も攻撃を重ねる必要があった箇所を、今は最小限の手数で捉えられるようになっている。
「グルアアアッ!」
苦しげな咆哮を上げるリザードに、啓太はとどめの一撃を放った。
「ルナ、支援を!」
「合点承知! ……よし、通常魔法でも十分いけるぜ! 『バトルヒール』!」
ダイスに頼らず発動した回復魔法が、啓太の一撃に力を上乗せする。
鈍い音とともに、アイアンリザードの巨体が崩れ落ちた。
「や、やった……! しかも、思ったよりずっと楽に倒せた気がする!」
シルフィが弓を下ろしながら、興奮気味に声を上げる。額には汗が滲んでいたが、以前のような息切れはなかった。
「間違いなく、全員の実力が底上げされてる。特にリーネの詠唱速度と、ルナの通常魔法の精度は目に見えて向上したな」
「へへっ、あたいだって成長してるんだぜ! ……にしても、店長の指導、地味にスパルタだったよな」
ルナがからかうように笑うと、啓太も苦笑した。
「必要なことだったからな。だが、確かな手応えがある。この調子なら――」
啓太は倒したリザードの魔石を回収しながら、静かに続けた。魔石は以前見た物より一回り大きく、質の良さが窺えた。
「近いうちに、Bランク昇格試験にも挑戦できるかもしれない」
「本当に!?」
三人の声が揃って弾んだ。
「まだ油断はできないが、着実に力はついてきてる。ドラゴンへのリベンジも、決して遠い話じゃなくなってきたはずだ」
「よぉし、こうなったら気合入れて、もっと稼いで、もっと鍛えるぜ!」
ルナが拳を突き上げると、シルフィとリーネも笑いながら頷いた。
竜の穴の通路に、四人の確かな手応えが満ちていた。
地上へ戻った一行は、その足でギルドへ討伐報告に向かった。
「アイアンリザードの討伐、確認しました。魔石の品質も申し分ありません」
受付の職員が驚いたように魔石を見つめる。
「実は……近々Bランク昇格試験にも挑戦しようと考えているんですが、目安として今の実力はどうでしょうか」
啓太が尋ねると、職員は資料をめくりながら答えた。
「アイアンリザード単体の討伐実績なら、十分条件を満たしていますね。あとは、試験特有の連続戦闘への対応力が問われますが……直近の実績を見る限り、期待できると思いますよ」
「よし! なら、次の試験に向けて申し込みしようぜ!」
ルナが待ちきれない様子で身を乗り出す。
「焦る気持ちも分かるが、油断は禁物だ。もう少しだけ、詰めておきたいことがある」
啓太が冷静に応じると、ルナは唇を尖らせつつも渋々頷いた。
新たな目標に向けて、『クローバー』はまた一歩、着実に前進していくのだった。




