第62話『結果発表』
審査員が掲げた札には、大きくこう記されていた。
『最優秀賞――クローバー亭』
一瞬、広場が静まり返った。誰もが自分の耳を疑うような沈黙が、数秒間流れる。
「……え?」
シルフィが呆然と札を見つめる。次の瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が広場を包み込んだ。
「や、やったぁぁぁ……!!」
「え、ええぇぇぇっ!? わ、わたしたちが優勝ですかぁぁぁ!?」
リーネが飛び跳ねて喜び、シルフィと抱き合う。ルナは口をあんぐりと開けたまま、しばらく言葉が出てこない様子だった。
「マ、マジかよ……あの並みいる強豪ぞろいの中で……あたいら、優勝したのか……!?」
周囲の観客たちからも、驚きと祝福の声が次々と上がる。
「あの屋台、噂の新人パーティだろ! すげぇじゃねぇか!」
「あのからあげ、確かに絶品だったもんな」
興奮冷めやらぬ様子の啓太たちのもとに、司会者の声が届いた。
「クローバー亭の方、前へどうぞ」
司会者に促され、啓太たちは壇上へと上がった。審査員の一人――王都から来た貴族が、感心したように口を開いた。
「見事だった。誰も見向きもしなかった食材に、真正面から向き合い、技術で美味へと昇華させた。その姿勢こそ、料理人として最も評価すべき点だ」
「食材の希少性ではなく、確かな腕で勝負したところに好感が持てる。何より、来場者からの評判も一際高かった」
ギルドマスターが、満足げに頷きながら付け加えた。会場のあちこちから、「クローバー亭」「あのからあげ屋」と囁く声が聞こえてくる。
「ありがとうございます……! まさか本当に、優勝できるとは思っていませんでした」
啓太が深々と頭を下げると、会場から温かい拍手が送られる。隣に並ぶシルフィたちも、緊張しながらも誇らしげな表情を浮かべていた。
「クローバー亭には、優勝の栄誉として金貨百枚、そして王都のガイドブックへの掲載権を授与する」
その言葉に、ルナが思わず飛び上がった。
「き、金貨百枚……!? そんなにもらえるのか!?」
「加えて、来月から街の広場に常設の店舗区画を優先的に利用できる権利も付与される。今回の功績を称えてのことだ」
ギルドマスターの追加の言葉に、啓太は思わず息を呑んだ。
(常設の店舗まで……。これは、想像以上の結果だな)
壇上から降りると、真っ先に駆け寄ってきたのはゴードンだった。両手には、祝いの意味を込めたのか、串焼きの包みを抱えている。
「よお、優勝おめでとさん。まさかお前ら、本当に優勝しちまうとはな」
「ゴードンさんのアドバイスがあったからこそです。ありがとうございました」
「ふん、俺は何もしてねぇよ。全部お前らの実力だ。……ただ、来年は俺も本気出すからな。覚悟しとけよ」
悔しさと嬉しさが入り混じったような表情で、ゴードンはニヤリと笑った。
「それにしても、あの照り焼き味、審査員も相当唸ってたな。今度、うちのタレの配合、少し相談に乗ってくれねぇか」
「もちろんです。お互い、これからも切磋琢磨していきましょう」
二人は再び、しっかりと握手を交わした。
その日の夜、屋台を片付けた四人は、宿の食堂で祝勝会を開いていた。テーブルには、いつもより少し豪勢な料理が並んでいる。
「まさか品評会で優勝までしちまうとはな……。Cランク昇格に続いて、あたいらツキまくってるぜ」
ルナがジョッキを掲げながら、感慨深げに呟く。
「これで装備の資金も一気に増えたね! 前衛用の防具、そろそろ新しいの欲しかったんだ!」
「はいですぅ! これで、竜の穴への再挑戦にも、ぐっと近づきましたぁ! ……あ、でも常設店舗のことも考えないとですね」
リーネが両立の難しさに気づいたように呟くと、シルフィも頷いた。
「確かに。ダンジョン攻略と屋台経営、両方どうやって回していこうか」
「その辺りは、追々やり方を考えよう。今日はまず、この結果を素直に喜ぶべきだと思う」
啓太は仲間たちの笑顔を見つめながら、静かに微笑んだ。
「今日の優勝は、俺たちの武器が戦闘だけじゃないってことを証明してくれた。この街での商売も、ダンジョン攻略も、どちらも俺たちらしいやり方で続けていこう」
「「「賛成!」」」
四人の声が食堂に響き渡り、周囲の客たちからも祝福の視線が向けられる。
金貨百枚という思わぬ収入と、街での確かな評判。
『クローバー』は、冒険者としても商人としても、着実に力をつけていくのだった。
そして――優勝の余韻も冷めやらぬ数日後。
いつも通りギルドを訪れた啓太は、掲示板の隅に貼られた一枚の依頼書に目を留めた。
古びた紙には、見慣れない紋章と共に、こう記されていた。
『――竜の穴、最深部の異変について。至急、実力のある冒険者を求む』
「これは……」
啓太は思わず、その依頼書に手を伸ばした。
(最深部の異変……もしかして、あのドラゴンに関係しているのか?)
脳裏に、あの日見た紅い瞳の幼体の姿が蘇る。
新たな予感を胸に、啓太はしばらくの間、依頼書から目を離すことができなかった。




