第61話『品評会、開幕』
品評会当日。グランドールの中央広場には、色とりどりの旗と屋台が立ち並んでいた。
「うわぁ……こんなに人が集まるんだ」
シルフィが目を丸くする。広場を埋め尽くす観客の数は、普段の屋台街とは比較にならなかった。貴族らしき人々の姿もちらほらと見える。
「出店者も豪華だな。あそこ、王都の有名レストランの看板が見えるぞ」
ルナが指差した先には、洗練された内装の特設ブースがあった。他にも、貴族御用達と噂される老舗の店や、腕利きの料理人たちが並んでいる。
「わたしたち、場違いじゃないですかぁ……?」
リーネが不安げに声を漏らす。長い耳がしゅんと垂れ下がっていた。
「大丈夫だ。俺たちには俺たちの武器がある」
啓太は落ち着いた様子で、屋台の準備を進めていった。仕込んだバードタケを確認し、タレの入った壺を丁寧に並べる。
「よう、緊張してるか?」
声をかけてきたのはゴードンだった。彼もまた、この日のために仕込んだ串焼きを並べている。
「多少は。でも、やることは変わりません」
「その調子だ。……ま、負ける気はねぇけどな」
ニヤリと笑うゴードンに、啓太も同じ表情を返した。周囲では他の出店者たちも、次々と準備を整えている。ある者は見たこともない色鮮やかなスープを、ある者は繊細な細工を施した菓子を並べていた。
昼過ぎ、審査が始まった。審査員は五名。街の有力商人や、ギルドマスター、そして王都から派遣された食通の貴族まで顔を揃えている。一組ずつ順番に呼ばれ、審査員の前で調理と試食が行われる方式だった。
先に呼ばれた出店者たちの料理を、審査員たちは真剣な面持ちで味わっていく。時折、感嘆の声や小さな拍手が漏れ聞こえてきた。
「次のパーティ、レベルが高いな……」
ルナが小声で呟く。緊張が四人の間にじわじわと広がっていった。
「では、次は――『クローバー亭』、竜の穴印・照り焼きからあげ、お願いします」
名前を呼ばれ、啓太は緊張しながらも手早く調理を始めた。
油の弾ける音、香ばしい匂い。手慣れた動作でバードタケを二度揚げし、仕上げに甘辛ダレを絡める。木の実を散らし、湯気の立つ皿を審査員の前に差し出した。
「ほう、これは……珍しい食材の香りだな」
審査員の一人が眉を上げる。
「はい。ダンジョン『竜の穴』の深層でしか採れない、バードタケという食材を使っています」
「バードタケ……? あの、扱いにくいと有名な代物か」
王都から来た貴族が興味深そうに一切れを口に運んだ。次の瞬間、その表情が変わった。
「――なるほど、これは。クセの強さが、むしろ旨味に転化されている。この歯ごたえと、甘辛いタレの絡み具合……見事だ」
「本当ですね。冷めても美味しそうな仕上がりです。携行食としての実用性も高い」
他の審査員たちも次々と味わい、真剣な表情でメモを取っていく。中には二切れ、三切れと手を伸ばす者もいた。
「食材の希少性に頼るのではなく、しっかりとした技術で味を引き出している。良い意味で、料理人らしい仕事だ」
ギルドマスターらしき壮年の男が、感心したように何度も頷いた。啓太は緊張しつつも、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
審査が一通り終わると、シルフィが緊張の面持ちで啓太に尋ねた。
「ケイタ、手応えどうだった?」
「悪くない反応だったと思う。ただ、他の出店者のレベルも高い。結果は蓋を開けてみないと分からないな」
「わたし、緊張しすぎてお腹が痛くなってきましたぁ……」
「大丈夫だ、リーネ。俺たちは俺たちにできる最高のものを出した。それで十分だ」
啓太が優しく声をかけると、リーネは小さく頷いた。
審査発表までの間、四人は屋台の片付けをしながら過ごした。ゴードンが差し入れの水を持って顔を出す。
「お前らの出したやつ、審査員が休憩中もずっと話題にしてたぞ。かなり印象に残ったんじゃねぇか」
「本当ですか!?」
リーネが目を輝かせる。
「ま、期待しすぎるなよ。ここは強豪ぞろいだ。だが……お前らなら、悪い結果にはならねぇと思うぜ」
ゴードンの言葉に、四人は少しだけ肩の力を抜いた。
夕暮れが近づく頃、司会者の声が広場に響いた。
「それでは、これより本日の品評会、各賞の発表を行います! まずは、特別賞から――」
広場全体がざわめき、緊張感が高まっていく。ルナが啓太の袖を強く握りしめた。
「店長……あたい、ドキドキしすぎて心臓飛び出そうだぜ」
「大丈夫だ。何が起きても、俺たちはこれからも良い店を作り続ければいい」
啓太の言葉に、四人は互いに頷き合った。
特別賞、審査員特別推薦賞と、次々に他の出店者の名前が読み上げられていく。そのたびに歓声が上がり、広場の熱気は高まっていった。
「クローバー亭さん、まだ呼ばれてないですけど……」
リーネが不安げに啓太の袖を掴む。
「落ち着け。まだ、一番大事な賞が残ってる」
司会者が一呼吸置き、声を張り上げた。
「それでは、いよいよ本日の――最優秀賞の発表です!」
審査員の一人が、優勝者の名前が書かれた札を高く掲げる。
広場中の視線が、その一枚に集まった。




