第60話『品評会への試作』
品評会への参加を決めた翌日、四人は屋台の裏手で作戦会議を開いていた。
「品評会か……何を出すか、ちゃんと考えないとな」
啓太が腕を組んで唸る。手元には、ゴードンから聞いた過去の優勝作品のメモが広げられていた。
「今の唐揚げのままじゃダメなの? 十分美味しいと思うけど」
シルフィが首をかしげる。
「悪くはないが、他の出店者も本気で来るはずだ。ゴードンさんの話じゃ、過去には王宮料理人上がりの参加者もいたらしい。何か『クローバー』らしい一手が欲しい」
「クローバーらしい一手……」
リーネがぽつりと呟いたその時、ルナが何かを思い出したように手を叩いた。
「なあ、あの激レアキノコ、まだ在庫あったよな! バードタケ!」
「ああ、確かに冷暗保存してある分がいくらか残ってる」
「あれをまた使えばいいじゃねぇか! 普段の唐揚げとは格が違うやつをドーンと出せば、審査員も度肝抜かれるぜ!」
啓太は少し考え込んでから、頷いた。
「悪くない。ただ、同じ調理法だと芸がないな。もう一工夫欲しい」
「一工夫、ですかぁ……」
リーネが眉を寄せて考え込む。
「例えば、ソースを変えるとか?」
シルフィが提案すると、啓太の目が光った。
「それだ。バードタケの旨味を活かしつつ、印象に残る味付けがいい」
啓太はふと、コンビニ時代の記憶を辿った。深夜に何度も味見をした、あの甘辛いタレ。棚に並べていた総菜の売れ行きが、味付け一つで大きく変わったことを思い出す。
「――甘辛ダレを絡めた、照り焼き風はどうだ」
「照り焼き……?」
「醤油に似た魔導調味料と、蜂蜜、それに生姜を効かせたタレを絡めて、二度揚げで表面をカリッと仕上げる。冷めても美味い、食べ歩き向けの一品にできるはずだ」
「なんか、すっごく美味しそうですぅ……! よだれが出てきますぅ!」
リーネが両手で頬を押さえながら身悶えする。
「よし、さっそく試作するか」
啓太は保存していたバードタケを取り出し、丁寧に下処理を始めた。硬い皮を剥ぎ、繊維に沿って一口大に切り分けていく。
「シルフィ、タレの材料を混ぜてくれ。蜂蜜と生姜のすりおろし、それと調味料をこの比率で」
「了解! ……うわ、混ぜてるだけでいい匂い」
小鍋の中で、赤みがかった調味料と蜂蜜がとろりと絡み合っていく。生姜のぴりっとした香りが立ち上ると、リーネの鼻がひくひくと動いた。
「わたし、火の番なら任せてくださいですぅ! 温度管理、得意なんですから!」
「頼んだ。強すぎず、弱すぎず、じっくりだ」
油で一度揚げたバードタケを取り出し、軽く休ませてから二度目の高温でカリッと揚げ直す。仕上げに、煮詰めた甘辛ダレをたっぷりと絡め、香ばしく炒った木の実を散らした。
「よし、味見しよう」
湯気の立つ一皿を前に、四人は顔を見合わせた。
「いただきますぅ……!」
リーネが恐る恐る一口食べた瞬間、目が大きく見開かれた。
「な、なんですかこれぇぇぇ……! 甘辛いタレがカリカリの衣に絡んで、中からじゅわっと肉汁が……! 今までで一番美味しいですぅ!」
「本当だ! 甘くてしょっぱくて、ずっと食べていられる味! これ、絶対クセになるやつだよ!」
シルフィも目を輝かせながら二個目に手を伸ばす。
「くぅ〜〜っ、これは酒だけじゃなくて飯にも合うやつだぞ! 店長、これは本気で優勝狙えるんじゃねぇか?」
ルナが興奮気味に啓太の肩を叩く。
「まだ調整の余地はあるが、方向性は良さそうだな」
啓太は自分でも一つ口に運んだ。甘辛いタレの奥に、バードタケ特有の濃厚な旨味がしっかりと感じられる。狙い通りの仕上がりだった。
(もう少しタレの粘度を上げて、冷めても衣がベタつかないようにするか。あとは香ばしさを足すために、胡麻を加えるのもありだな)
啓太は満足げに頷きながら、味の記録をメモに書き留めていった。
「ねえ、これ試食してもらう相手、いる? 客観的な意見も欲しいよね」
シルフィの提案に、啓太はふと隣の屋台を見た。
「ゴードンさんに味見してもらうか。あの人の舌は信用できる」
早速差し入れを持っていくと、ゴードンは一口食べて目を見張った。
「……おいおい、これは反則だろ。品評会本番でこんなの出されたら、こっちが困るぞ」
渋い顔をしながらも、二個目に手を伸ばすゴードンを見て、四人は顔を見合わせて笑った。
「合格ってことでいいですか?」
「ふん、合格どころか、俺も負けてられねぇって話だよ」
ゴードンが屋台へ戻っていくと、ルナが両手を打ち鳴らした。
「よし、味は決まった! あとは名前だな。品評会じゃ、料理名も審査対象になるらしいぜ」
「名前……何がいいだろう」
「『竜の穴印・照り焼きからあげ』とか、産地アピールしてみるのはどうかな? ダンジョン食材って響き、冒険者にはウケそうじゃない?」
シルフィの提案に、リーネがぱっと目を輝かせた。
「いいですね! 珍しい食材を使ってる、っていうのも売りになりますし!」
「悪くないな。ダンジョン産の希少食材を、確かな技術で最高の一品に――そういうコンセプトなら、審査員にも印象づけられるかもしれない」
啓太はメモに『竜の穴印・照り焼きからあげ』と書き加え、満足げに頷いた。
「元コンビニ店長として培った試食開発の経験が、まさかこんな形で役立つとはな」
啓太が小さく呟くと、リーネが不思議そうに首をかしげた。
「コンビニって、なんですかぁ?」
「……いつか、ゆっくり話すよ」
啓太は懐かしそうに目を細めながら、次の試作に取りかかった。
品評会まで、あと一週間。
『クローバー』の新たな挑戦が、静かに動き出していた。




