第58話『開店初日』
試食での大反響から三日後。
準備を整えた『クローバー』の屋台に、手作りの看板が掲げられた。
『異世界からあげ ~クローバー亭~』
「うわぁ、いい感じの看板だね! シルフィが描いたの?」
「うん! 頑張って字も練習したんだから!」
木の板に焼き印で刻まれた文字は、多少歪んではいるが温かみがあった。
「あとは味だけだな。……よし、開店するぞ」
啓太が油の入った鍋に火を入れると、リーネが早速そわそわし始めた。
「わたし、味見係として気合入れますぅ!」
「味見しすぎて商品なくなるなよ、リーネ」
ルナが呆れたように突っ込みを入れる横で、啓太は下味をつけた肉を次々と揚げていった。
開店直後は静かだったが、揚げたての香ばしい匂いが漂い始めると、様子が一変した。
「あ、あの匂い……この前の! 本当に店出したのか! 一つくれ!」
試食を覚えていた冒険者たちが次々と列を作り始める。
「いらっしゃい! 一つ銅貨3枚だよ!」
ルナが威勢よく声を張り上げ、木札で会計をこなしていく。
「ルナ、そういう仕事も得意なのか」
「昔、賭場で場を回してたからな。金勘定と客あしらいは任せとけ!」
あっという間に行列は屋台の外まで伸び、周囲の屋台からも視線が集まった。
昼を過ぎた頃、一人の男が列を無視して屋台の前に立ちはだかった。
「おい、ここは俺たちの縄張りだぞ。新参が勝手に店を出すんじゃねぇよ」
「すみません、ギルドから正式に区画を借りているのですが」
啓太が冷静に答えると、男は舌打ちしながらも黙り込んだ。
「……ふん、まあいい。だが目立ちすぎるなよ」
「あんな態度取りやがって……。店長、大丈夫か?」
「問題ない。むしろ、あれだけ気にされるのは繁盛してる証拠だろ」
啓太は動じることなく、次の注文の唐揚げを揚げ始めた。
その後も客足は途切れることなく、夕方には仕入れた食材がほぼ底をついていた。
「はぁ……疲れたけど、楽しかったですぅ!」
「今日だけで銀貨8枚の売上だぜ! 上出来じゃねぇか!」
ルナが木箱の中の銅貨と銀貨を数えながら、満足げに笑った。
「みんな、お疲れ様。初日からこれだけ売れるとは思わなかったな」
啓太が汗を拭いながら、屋台を片付け始める。
「ケイタ、この調子なら、装備を新調する資金もすぐ貯まりそうだね!」
「ああ。ドラゴンへのリベンジも、少しずつ現実味を帯びてきたな」
空を見上げると、グランドールの街に夕焼けが広がっていた。
冒険者としての戦いだけでなく、商人としての一歩も踏み出した『クローバー』。
新しい目標に向かって、四人の毎日はますます賑やかになっていくのだった。




