↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
56/115

第56話『撤退の判断』


 いくつかの階層を突破し、一行はついに目標だった第二十層へとたどり着いた。「ここが二十層……空気が今までと違うね」とシルフィが警戒するように周囲を見渡す。広大な空洞の中心に、巨大な岩の巣が鎮座していた。


 啓太が息を呑んだ瞬間、巣の中から鈍く光る鱗に覆われた巨体がゆっくりと頭をもたげた。二本の角と、燃えるような紅の瞳。翼はまだ小さいが、体長は優に十メートルを超えている。


「――ドラゴン、それも幼体か」


「え、えぇぇ……! ダンジョン名の『竜の穴』って、まさかこういうことですかぁ……!?」


 リーネが青ざめる。幼体とはいえ圧力は今まで戦ってきたどの魔物とも比較にならず、低く唸る咆哮だけで洞窟全体がびりびりと震えた。


「店長……どうする? あたいら、まだCランクだぞ」


 啓太は短剣を握りながら、静かに敵を観察した。


(動きは緩慢だが、一撃の重さが違う。あの鱗、並みの武器じゃ傷一つつかないだろうな)


 【強運】は今のところ発動していない。それが何よりの答えだった。


「――退くぞ。今の俺たちの実力じゃ、勝ち目がない。ここで無理をすれば全滅する」


「でも、せっかくここまで来たのに……」


 シルフィが悔しそうに言う。


「逃げるのも立派な戦略だ。今日勝てなくても、いつか必ずここに戻ってこよう。今より遥かに強くなった状態でな」


 ドラゴンの幼体がこちらに気づき、大きく息を吸い込む。


「来るぞ、退路を確保しろ!」


 リーネが咄嗟に放った目眩ましの魔法が視界を煙で覆う。その隙に、四人は来た通路を全速力で駆け抜けた。背後で轟音とともに炎のブレスが空洞を焼き払う音が響いたが、幸い誰にも当たらなかった。


 十九層まで戻り、荒い息を整えながら顔を見合わせた。


「はぁ……はぁ……マジで死ぬかと思ったぜ」


 ルナが壁にもたれて座り込む。


「悔しいけど……今のあたしたちじゃ、まだ勝てないんだね」


「ああ。だが、あのドラゴンの姿は目に焼き付けた。次に来る時までの、明確な目標ができたと思えばいい」


「わたし、もっと強い魔法を覚えますぅ! 次こそは一泡吹かせてやりますぅ!」

「あたいも、ダイス技を磨いておくぜ」

「うん、あたしも弓の腕を磨く! いつか絶対、リベンジしよう!」


 四人は疲れた表情の中にも、確かな決意を宿していた。


「今日のところは十層まで戻って、稼いだ素材を売り払おう。装備を整えて、いつかまたここへ挑もう」


「「「おうっ!」」」


 『竜の穴』最深部の主は、まだ遠い。だが撤退という選択もまた、『クローバー』が着実に成長している証だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。