第50話『買い出し日和』
Cランクへの昇格祝勝会の翌朝。
グランドールの空はどこまでも高く澄み渡っていた。
「ふわぁ……昨日は飲みすぎたぜ……」
宿の食堂で頭を抱えているルナに、啓太は呆れた視線を送った。
「昨日あれだけ豪快に食ってたのに、二日酔いなのか?」
「食うのと飲むのは別腹だっつーの。……にしても、Cランクかぁ。あたい、こんなに早く昇格できるとは思ってなかったぜ」
「わたしもですぅ……。前のパーティーにいた頃は、Fランクのまま燻ってましたから」
リーネが焼き立てパンをちぎりながら、しみじみと呟いた。
「せっかくCランクになったんだ。今日は依頼を受けずに、装備と消耗品の見直しをしよう」
啓太の提案に、シルフィがパンを飲み込みながら頷いた。
「賛成! ルナが加入したから、パーティ構成も変わったもんね」
「ん? どういうこと?」
首をかしげるルナに、啓太は指を折りながら説明した。
「今までは前衛の俺、弓のシルフィ、魔法のリーネの三人だった。だがルナが入ったことで、回復役ができた分、多少の被弾は許容できるようになった。つまり――」
「つまり?」
「もう少し攻撃的な立ち回りができる、ってことだ。装備もそれに合わせて見直したい」
(元店長として言えば、人員構成が変われば店舗のオペレーションも見直すのが鉄則だからな)
朝食を終えた四人は、グランドールの目抜き通りへと繰り出した。
石畳の大通りには数え切れないほどの露店と専門店が並び、フォレストピアとは比べ物にならない規模の品揃えだ。
「まずはルナの防具からだな。今のローブ、だいぶ傷んでるだろ」
「うっ……バレたか。実はこの前の迷宮で、結構ボロボロになっててよ」
案内されたのは、大通りの一角にある『聖護の仕立て屋』。回復術士向けの装備を専門に扱う店だった。
「いらっしゃい。おや、Cランクの『クローバー』さんかい。噂は聞いてるよ」
店主の老婆が、値踏みするようにルナを見た。
「治癒魔導士向けなら、この『祝福のローブ』がオススメだね。魔力の消費を抑えつつ、詠唱速度を上げてくれるよ」
「おおっ、いいじゃんこれ! ダイスを振る回数も増やせるってことだよな!」
ルナが目を輝かせて試着する。落ち着いた白銀の生地に、ほのかに聖なる紋様が浮かぶローブは、彼女の雰囲気にもよく似合っていた。
「うん、似合ってるよルナ! かっこいいじゃん!」
「へへ、そうか? ……よし、これ買うぜ、店長!」
店長と呼ばれた啓太は苦笑しながら、代金を支払った。
続いて向かったのは道具屋だ。旅と戦闘に必要な消耗品――包帯や解毒薬、携帯食料の材料などを買い揃えていく。
「ケイタさん、スティックバーの材料、そろそろ切れそうですぅ」
「ああ、ナッツと乾燥肉粉末を多めに買っておこう。ルナの分の回復用ポーションも念のため揃えておくか」
効率よくカゴに商品を詰めていく啓太の手際に、道具屋の店主も感心した様子で目を丸くしていた。
「兄さん、買い物慣れてるねぇ。冒険者には珍しいタイプだ」
「まあ、昔ちょっとした商売をやってたもので」
最後に立ち寄ったのは武具店だった。ルナの新しい杖代わりの『儀式用ロッド』と、動きやすさを重視した軽量ブーツを見繕う。
「よし、こんなもんかな。みんな、荷物は大丈夫か?」
「ばっちりだよ! ケイタ」
「はいですぅ! 新しいローブ、着心地最高ですぅ」
「あたいもすっかり戦闘準備万端だぜ! ……にしても」
ルナが両手いっぱいの荷物を抱えたまま、ふと足を止めた。
「なんか、こうやってパーティのみんなで買い物するのって、初めてだわ。前のパーティじゃ、あたいだけ蚊帳の外だったからな」
その声に、少しだけ寂しさが滲んでいた。
「もう蚊帳の外なんて言わせないよ。ルナも立派な『クローバー』の一員なんだから」
シルフィが横からルナの肩に腕を回す。
「そうですぅ! みんなで美味しいご飯食べて、みんなで買い物して……それが『クローバー』ですから!」
「お前ら……」
ルナは照れくさそうに鼻の頭をこすると、いつもの不敵な笑みを取り戻した。
「よぉし! こうなったら、次の依頼でも派手にツキを発揮してやるからな! 店長のおかげで、あたいの人生、大逆転してきてるぜ!」
「無理はするなよ。……さて、荷物も揃ったし、今夜は宿でゆっくり夕飯にしようか」
「「「賛成!」」」
四人の声が綺麗に重なり、グランドールの夕暮れの空へと溶けていった。
新しい仲間を迎え、装備も心も整った『クローバー』。
Cランクとしての本格的な冒険は、まだ始まったばかりだった。




