第47話『昇格試験開幕』
翌朝。朝靄が立ち込めるグランドール近郊の絶壁に、巨大な穴が口を開けていた。
合同大昇格試験の会場――『黄昏の地下迷宮』。
広場には、Dランクへの昇格を目指すEランク冒険者や、Cランクへの昇格を狙うDランクの猛者たち、およそ百名が集結していた。
「うわぁ……すごい人ですねぇ。みんな強そうですぅ」
新調した杖をぎゅっと握りしめ、リーネが少し緊張した面持ちで耳を萎ませる。
「大丈夫だよ、リーネちゃん。あたしたちの連携なら絶対に負けないから」
「おう! あたいの超一流の治癒魔法もあるからな! 安心しな!」
胸を張るルナ。その隣で、啓太は受験者たちの顔ぶれを冷静に観察していた。
殺気立った目つきのベテランパーティや、自慢の重装備を誇示するパーティー。しかし啓太たちの『クローバー』ほど、前衛・弓手・広範囲攻撃魔法・ヒーラーと隙のないバランスが整っている組は他にない。
『――静粛に! これより「D〜Cランク合同大昇格試験」を開始する!』
中央の台座に立った本部ギルドの試験官が大声を張り上げた。
『試験内容は単純だ! 迷宮の三層に生息する強力な魔物『アースゴーレム』の核を持ち帰ること! 制限時間は本日日没まで! 妨害・略奪は禁止だが、パーティ同士の協力は自由とする!』
『『『うおぉぉぉぉっ!!』』』
試験官の手が振り下ろされると同時に、群衆が一斉に地下迷宮の入口へと雪崩れ込んだ。
「よし、俺たちも行くぞ! 無理せず確実にな!」
「「「はいっ!! / おうっ!」」」
迷宮内部は、苔むした岩肌と怪しく光る魔導鉱石に照らされた不気味な洞窟だった。
足を踏み入れて数分。曲がり角の奥から、低級の魔物である『洞窟オーク』が数体、武器を振り上げて飛び出してきた。
『グガァァァッ!』
「さっそくお出確か。シルフィ、右! リーネ、左をお願い!」
「了解! 精霊の風よ――『ウィンドシュート』!」
「いきますぅ! 『風刃』!」
シュバッ! ドカンッ!
シルフィの放った風の矢が右側のオークの眉間を正確に撃ち抜き、リーネの風刃が左側のオークを壁ごと一刀両断する。
「うおっ!? 弓も魔法もバケモノじみた精度と威力だな……!?」
後ろで見守っていたルナが目を丸くして驚愕する。
しかし、討伐したオークの一体が死に際に投げつけた毒ナイフが、啓太の肩をかすめた。
「くっ……毒か!」
「ケイタさん!?」
「待ちな、ここはあたいの出番だッ!」
ルナが前に飛び出し、懐から特製の『ダイス(サイコロ)』を取り出して高く投げ上げた。
「あたいの治癒魔法はな、出目によって効果が変わる『ギャンブルヒール』なんだ! 運が悪いと不発するが、ツキがあれば神の奇跡すら起こすッ! いけぇぇッ、あたいの運!!」
コロコロと転がったダイスが示したのは――当然、啓太の【強運】が引き寄せた奇跡の出目、『ゾロ目の6(大勝利)』。
カアァァァッ……!!
ダイスから放たれたのは、眩いばかりの聖なる黄金の光だった。
「ふぇぇぇぇっ!? な、なんですかこの凄まじい神聖な光はぁぁ〜〜っ!?」
光が啓太を包み込んだ瞬間、かすり傷と毒が一瞬で蒸発するように完治したどころか、体内に満ちあふれるような活力と防御バフが全身を駆け巡った。
「な……なんじゃこりゃあぁぁぁっ!?」
一番驚いたのは、魔法をかけたルナ本人だった。
「いつもなら『1(不発)』か『2(小回復)』しか出ねぇのに……っ! 伝説の『最高級大回復』が出ちまったぞ!? なんだこの確定クリティカルはぁぁッ!?」
「言っただろ、俺のツキを信じろって」
啓太がニヤリと微笑むと、ルナは興奮で全身を震わせ、啓太の服を掴んだ。
「神だ……! アンタやっぱり本物の幸運の神様だぁぁッ! これならどんな大怪我でも一瞬で治せる! 迷宮のボスだろうとなんでも来いッ!!」
【強運】の店長、精霊弓のシルフィ、超火力魔法のリーネ、そして確定クリティカルヒーラーとなったルナ。
最強のバランスとなった『クローバー』の快進撃が、迷宮を揺るがそうとしていた――!




