第45話『酒場のイカサマとすっからかんのヒーラー』
本部ギルドで『D〜Cランク合同大昇格試験』のエントリーを済ませた啓太たちは、翌日に控えた試験の準備と情報収集を兼ねて、グランドールで最も活気のある酒場『金貨とダイス亭』を訪れていた。
「へぇ〜! すごい活気だね、ケイタ! フォレストピアの酒場より三倍くらい広いや!」
「ふぁぁぁ……! お肉と香草の香ばしい匂いが充満してますぅ〜〜っ!」
シルフィとリーネが目を輝かせる。
店内は明日からの大昇格試験に挑む冒険者や、ダンジョン攻略を終えた猛者たちでごった返しており、酒杯を交わす音と歓声が響き渡っていた。
「よし、まずは腹ごしらえと……明日の試験の噂話でも集めるか」
啓太が奥のテーブル席を確保しようとした――その時だった。
『――ちっくしょう! なんでまた『豚の目(最悪の出目)』なんだよッ!? このカード、絶対イカサマだろ!!』
酒場の一角、カードギャンブルのテーブルから威勢のいい女性の叫び声が上がった。
ドカンとテーブルが揺れる音とともに、周りのゴツい冒険者たちがゲラゲラと下品に笑い転げる。
「ハハハ! 言いがかりはやめてもらおうか、お嬢ちゃん! 負けたのはお前の『運』がねぇからだろ!」
「くっそ~……ッ! あと一回! あと一回やれば絶対ひっくり返せるのに……ッ!」
悔しそうに地髪を掻きむしっているのは、動きやすそうな軽装の上に、薄汚れた治癒術士のローブを羽織った一人の若い女性だった。
勝負師らしい鋭い目つきと、どこかサバサバとした男勝りな雰囲気を纏っているが……その足元には、すっからかんになったコイン袋が転がっている。
「おいおい、あのヒーラー、また負けて一文無しになったのか?」
「腕は確かだって噂だが、重度のギャンブル狂いだからな……。どこもパーティーに入れてくれねぇんだよ」
周りの客たちが呆れ顔でヒソヒソと囁き合っている。
「うぅ……ッ! あたいの『一発逆転の直感』が『次は勝てる』って囁いてるのに……! 種銭がねぇなんてあり得ないだろ……ッ!」
額に青筋を立てて頭を抱えていた彼女は、ハッと顔を上げ、店内を血眼で見回した。
そして――テーブルを探して歩いていた啓太と、バッチリ目が合ってしまったのだ。
「……え?」
啓太がデジャブのような嫌な予感を覚えた瞬間。
彼女はすさまじい素早さで距離を詰め、啓太の胸ぐら……ではなく、両手をガシッと力強く握りしめてきた!
「なぁアンタ! 見ない顔だな! 一生のお願いだ、大銀貨……いや、銀貨五枚でいい! あたいに貸してくれないか!?」
「……は?」
「図々しいよ急に!? なんなのアンタは!?」
突然のことにシルフィがキーッと声を張り上げ、リーネも「ふぇぇぇ! カツアゲですかぁ!?」と驚いて耳をピーンと逆立てた。
「カツアゲじゃねぇよ! 借金……いや、投資だ! あたいはヒーラーの『ルナ』! 今ここで私に投資すれば、倍……いや、三倍にして返してやる! 頼む、私の勝負師としての魂が今、燃え上がってんだよッ!」
ルナと名乗ったギャンブラーヒーラーは、ギラギラとした必死な目で啓太を見つめてくる。
(初対面でギャンブルの種銭を借りようとしてくるヒーラー……どこから突っ込めばいいんだ)
元店長としての苦労人魂が痛むのを感じつつ、啓太はルナの手をすっと冷ややかに外した。
「断る。ギャンブルの負け分を初対面の奴に集かるやつに貸せる金はない」
「そこをなんとか! 私の直感は絶対なんだって! 次は絶対『大勝利』のカードが出るんだよ!」
「……ふーん。『大勝利』ねぇ」
啓太はチラリと、ルナが負け越していたカードテーブルに目を向けた。
元店長としての鋭い観察眼と、生まれ持った【強運】が、そのテーブルの怪しい「仕掛け」を一瞬で見抜いていた。
「ルナと言ったな。……あのテーブル、ディーラーがカードを配る時に袖口で手札をすり替えてるぞ。イカサマだ」
「……は? イカサマ……!?」
ルナが目を丸くしたその時、啓太はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「金は貸さないが――お前のその負け分、俺が代わりに引っくり返してやろうか?」
【強運】を持つ元店長と、運に見放されたギャンブラーヒーラー。
二人の破天荒な出会いが、大都市グランドールの夜を熱く滾らせようとしていた――!




