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第42話『新メンバー歓迎!元店長が本気で挑む至高のスタミナ飯』


 フォレストピアの街にある宿屋『緑風亭』の厨房。

 黄昏時の柔らかな光が差し込む中、啓太は腕まくりをしてまな板の前に立っていた。

「店主さん、厨房を借りてすみません。食材代と使用料は多めに払いますから」

「構わねえよ、お客さん。にしても……あの子、一人で本当にそんなに食うのか?」

 宿の店主が、食堂のテーブル席で「お腹すきましたぁ……」と耳を垂らしているリーネを交互に見ながら、半信半疑の顔で尋ねてくる。

「ええ。魔法の燃費が異様に悪い体質らしくて。しっかりエネルギーを補給してもらわないと困るんです」

 啓太は苦笑しながら、買い出してきた大量の食材を手際よく並べた。

 オークの極上バラ肉、新鮮な魔導野菜、栄養価の高い大豆類、そしてフォレストピア特産の香草と調味料。

(リーネに必要なのは、単なる量じゃない。大量の魔力消費に耐えうる高タンパク・高カロリー、そして効率よく体内に吸収されるバランスの取れた『栄養密度の高さ』だ)

 元コンビニ店長としての血が騒ぐ。

 ただ大量に食べさせるのではなく、胃腸に負担をかけずに満腹感と魔力回復を両立させる献立――それが今回の課題だった。

「よし、まずはメインから行くか!」

 啓太は手際よくオーク肉を厚切りにし、特製のニンニク生姜醤油ダレに漬け込む。

 フライパンを熱し、牛脂ならぬオーク脂を溶かすと、ニンニクの香ばしい香りが厨房いっぱいに広がった。そこへ漬け込み肉を投入。ジューッという激しい音とともに、甘辛いタレと肉汁が爆発的な香りを解き放つ。

「ふぁぁぁ〜〜っ!? な、なんですかこの美味しそうな香りはぁぁ〜〜っ!?」

 食堂から、まるで匂いに引き寄せられた小動物のようにリーネが厨房の入口へとフラフラ吸い寄せられてきた。シルフィも「ケイタの本気だ……!」と目を輝かせている。

「まだ出来上がりじゃないぞ、リーネ。席で待ってろ」

「うぅ……拷問ですぅ……生殺しですぅ……」

 肉をじっくり焼き上げ、仕上げに山盛りのキャベツの千切りと特製ダレをさらに回しかける。『オークの特大スタミナ生姜焼き丼』の完成だ。

 続いて、大豆と細切れ肉、根菜を大量に煮込んだ『高栄養魔導ポタージュスープ』。さらには、腹持ちを良くするためにチーズと香草を練り込んで香ばしく焼き上げた『特製高エネルギーポテトガレット』。

「よし、完成だ! 歓迎会を始めよう!」

 食堂の大きなテーブルに並べられたのは、まさに圧巻の料理群だった。

 大皿に盛られた肉料理、深鉢いっぱいの濃厚スープ、山盛りのガレット。

「わぁぁぁぁぁ……! これ、全部食べていいんですかぁ!?」

 リーネの大きな青い瞳が、宝石のようにキラキラと輝いている。長くて綺麗なエルフ耳も、嬉しさのあまりピンと直立していた。

「ああ、遠慮はいらないよ! ケイタの料理は本当に世界一なんだから!」

 シルフィが誇らしげに胸を張る。

「それじゃあ、リーネの『クローバー』加入を祝って――乾杯!」

「「乾杯ですぅ! / 乾杯!」」

 果実酒とジュースのグラスを合わせた直後、リーネは「いただきますっ!」と深々と頭を下げ、豪快にスタミナ生姜焼き丼に食らいついた。

「モグッ………………〜〜〜〜〜っっっ!?」

 一口食べた瞬間、リーネの動きがピタリと止まった。

 そして次の瞬間、ぽろぽろと大粒の涙が両目から溢れ出してきた。

「えっ、ちょっとリーネ!? 口に合わなかったか……!?」

 慌てる啓太に、リーネは首を激しく横に振った。

「ち、違いますぅ……っ! 美味しすぎますぅ……っ! 肉汁がジュワッとお口の中に広がって、甘辛いタレとニンニクの香りが体にジーンと染み渡って……! こんなに美味しいご飯、生まれた初めて食べましたぁぁ……っ!」

「よかった、驚かせないでよー!」とシルフィがほっと胸を撫で下ろす。

 そこからのリーネの食べっぷりは、まさに圧巻の一言だった。

 ガツガツ、モグモグと凄まじい勢いで料理が吸い込まれていく。

しかし、さっきギルドで見せた「力尽きそうな餓鬼のようながっつき」とは違う。純粋に美味しさに溢れた、満面の笑みでの大食いだ。

「スープも濃厚でとろけそうですぅ! ガレットも外はカリカリで中はほくほく……! ふぁぁ、体がポカポカして、減っていた魔力がぐんぐん満たされていくのがわかりますぅ……!」

「へえ、やっぱり食事から魔力がダイレクトに回復するんだな」

「はいっ! ケイタさんのご飯は、普通の食べ物の何倍も魔力が湧いてくる気がしますぅ!」

 山盛りだった料理が、見る見るうちに消えていく。

店主も呆気にとられて「あの細い体のどこに入ってんだ……」と目を見開いていた。

「はぁ〜〜〜〜〜っ……! ごちそうさまでしたぁ……! 大満足ですぅ……!」

 すべてのお皿を綺麗に平らげたリーネは、満足そうにお腹をさすりながら、蕩けるような笑顔を浮かべた。

「ふふ、喜んでもらえて作ってよかったよ」

 啓太が優しく微笑むと、リーネはふと真面目な顔になり、綺麗なお辞儀をした。

「ケイタさん、シルフィさん。……わたし、前のパーティーでは『大食い』って嫌がられて、役立たずだって言われて……すごく悲しかったんです。でも、こんなに温かくて美味しいご飯を作ってもらえて……自分の体質を認めてもらえて、本当に嬉しいです」

 潤んだ瞳で二人を見つめるリーネ。

「わたし、絶対に足を引っ張りません! 二人のために、この魔力全部使って全力で戦いますから!」

「頼むよ、リーネ。明日からは三人でクエストだ。一緒に頑張ろうな」

「うん! これからよろしくね、リーネちゃん!」

「はいっ! よろしくお願いしますぅ!」

 満開の笑顔を咲かせるリーネを迎え、パーティ『クローバー』は更なる高みへと一歩を踏み出したのだった。

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