第40話『【幕間】追放された「大飯食らい」のエルフ少女
――わたしは、ずっと「大飯食らいの借金野郎」だった。
エルフの里を飛び出し、一人前の冒険者を目指してフォレストピアの街へやってきた時のことを、わたしは今でも鮮明に覚えている。
「ふざけるのもいい加減にしろ! これ以上、お前をパーティーに入れておけるか!」
……あの日、ギルドホールに響き渡ったリーダーの怒号。
「だ、だって……お腹が空いちゃって……」
「『お腹が空いた』で済む額じゃねえだろうが! お前がこの一ヶ月で俺たちから借りた食費、全部で大銀貨二十枚だぞ!?」
「ひぇっ……」
「ウチはCランクを目指す真面目なパーティーなんだよ! お前みたいに、入ってくる報酬を全部メシ代に消した挙句、仲間に借金までして食い散らかす『大飯食らい』はいらねえ!」
「うぅ……でも、エルフだって美味しいものは、たくさん食べたいんです……」
「返せないなら、この場でパーティーはクビだ! 貸した金は、ギルドに立て替えてもらってお前の借金として登録しておくからな! 二度と俺たちの前に顔を出すな!」
「そんなぁぁ〜〜っ!?」
仲間だった四人組は、冷たい捨て台詞を残してわたしを置き去りにし、ギルドを去っていった。
周りの冒険者たちのクスクス笑う声や、呆れたような視線が刺さる。
恥ずかしくて、情けなくて、惨めで……涙がポロポロと床に零れ落ちた。
――「うぅ……お腹すいたよぉ……」
フォレストピアの冒険者ギルドの床で、突っ伏したままピクピクと耳を揺らしている金髪のエルフの女性。それが、絶望の底にいたわたしだった。
周りの冒険者たちが遠巻きに呆れ顔で見守る中、一人の黒髪の青年――ケイタさんが肩掛けバッグから包みを取り出した。
「……ほら、これ食べな」
「ふぇ……?」
目の前に差し出された包みから漂う香ばしい肉と香草の匂いに、わたしの耳がピクンと跳ね上がった。がばっと勢いよく起き上がると、潤んだ大きな青い瞳でケイタさんを見上げた。
「え、これ……食べていいんですか……?」
「ああ。お腹が空いて困ってるんだろ?」
「いただきますっ!!」
お礼もそこそこに包みをひったくると、わたしは凄い勢いで肉パンにかぶりついた。
モグモグどころか、まさに「がっつく」という言葉がぴったりの食べっぷりだったと思う。ケイタさんと隣のシルフィちゃんが呆気に取られている間に、大人二人分はありそうな大きなお弁当があっという間にわたしのお腹の中へと消えていった。
「ごちそうさでした……! はぁ〜〜っ、生き返りましたぁ……!」
両手を合わせて深く息を吐くと、体にようやく生気が戻っていた。
「助かりました……! わたしは魔法使いの『リーネ』といいます。見ず知らずのわたしに食べ物を恵んでくださって、本当にありがとうございました!」
ペコペコと頭を下げるわたしに、ケイタさんは落ち着いた声で返してくれた。
「俺はケイタ。こっちは相棒のシルフィだ。……それにしても、すごい食べっぷりだったな。さっきギルドで揉めてたのを聞いてたんだが……やっぱり食費で揉めて追放されたのか?」
ケイタさんに尋ねられ、わたしは長くて綺麗なエルフ耳をキュッと萎ませて、落ち込んだように視線を落とした。
「はい……。前のパーティーの人たちには、食費のせいでたくさん迷惑をかけてしまって……。でも、わたしだって好きで大食いしてるわけじゃないんですぅ……!」
「好きで食べてるわけじゃない?」
シルフィちゃんが不思議そうに首を傾げた。
「はい……わたし、生まれつき体の中の『魔力量』がすごく多くて……。その代わり、魔法を使うと魔力を激しく消費しちゃうんですぅ。で、減った魔力を元通りに回復させるためには……たくさん食べて身体にエネルギーを補給しないといけないんですぅ……」
わたしは申し訳なさそうに指を弄んだ。
「パーティの戦闘では、みんなを守るためにたくさん攻撃魔法や補助魔法を使っていたんですぅ。でも、戦いが終わると魔力がスッカラカンになっちゃって……猛烈にお腹が空いて……。報酬だけじゃ食費が足りなくて、みんなにお金を借りるしかなくて……」
わたしの言葉を聞き、ケイタさんは何かに納得したようにポンと手を打った。
「なるほどな。魔法を頑張って使った結果なのに、周囲にはただの『大飯食らいの借金野郎』に見えちゃってたわけだ」
「そうなんですぅ……! 誰もわたしの体質を信じてくれなくて……っ」
わたしは再び半泣きになりながら、ケイタさんの袖にすがった。
「わたし、魔法の威力には絶対の自信があるんです! でも……ご飯を食べさせてくれるパーティーじゃないと、すぐ魔力切れで倒れちゃうんですぅ……! うぅ、借金もあるし、これからどうしよう……」
涙目で縋り付くわたしを見て、ケイタさんとシルフィちゃんは顔を見合わせた。
冷たい視線ばかりだったギルドの中で、ケイタさんの瞳だけは違った。
そこには蔑みなど一切なく、わたしの「本当の価値」を見抜こうとする頼もしい光が宿っていたのだった――。




