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第38話『店長の決算と痛快なお返し』


 討伐の証である拳大の漆黒魔晶石――『グラナイトベアの核』を手に、啓太たちは夜のフォレストピアへと帰還した。

 その足で向かったのは、もちろん冒険者ギルドだ。

 ギルドホールの扉を開けると、昼間と変わらぬ重苦しい空気が漂っていた。

 入口近くの特等席には、豪勢な革の椅子に深く腰掛け、ワイングラスを傾けるヴァルター補佐官の姿があった。背後には重装騎士たちがズラリと控えている。

「ふん……帰ってきたか、ウジ虫ども」

 ヴァルターは不機嫌そうにグラスを置くと、ニヤリと下劣な笑みを浮かべた。

「どうだ? 変異種の恐ろしさに泣きを見て、命からがら逃げ帰ってきたか? 期限は三日と言ったが、一日で音を上げるとは呆れた情けなさだな。……さあ、約束通りそのエルフの女を置いて出て行け」

 勝ち誇ったように手を差し伸べるヴァルター。

 ギルド内にいた他の冒険者たちが「くそっ……やっぱりダメだったのか」と悔しそうに拳を握りしめる。

 だが、啓太の表情はどこまでも冷静だった。

「ヴァルター補佐官。勘違いされているようですが……『報告』に来たのですよ」

「あぁ? 報告だと?」

「はい。依頼されていた変異種『グラナイトベア』の討伐、無事に完了いたしました」

 静まり返るギルド内。

「……は? ハハハハハ! バカめ、ハタリを叩くのも大概にしろ!」

 ヴァルターは腹を抱えて大笑いした。

「Cランク以上の精鋭でも手こずる変異種だぞ!? たかがEランクになったばかりの貴様ら三人に倒せるはずが――」

 ――ドンッ!!

 ヴァルターの言葉を遮るように、啓太は革袋から取り出した『漆黒の巨大な魔晶石』をテーブルの上に叩きつけた。

 溢れ出す凄まじい魔力と、かすかに残る変異種の気配。

 ギルドホール全体が、一瞬で息を呑む静寂に包まれた。

「な……なん……だと……!?」

 ヴァルターの顔から、一瞬で血の気が引いていく。

 すかさず奥から歩み出てきたギルドマスターが、その魔晶石を手にとり、眼光を鋭くして鑑識した。

「間違いない……! ガルバ鉱山に巣食っていた変異種『グラナイトベア』の核だ! 傷ひとつない見事な状態で摘出されている……! 『クローバー』、見事な討伐だ!」

『おおおおおぉぉぉぉーーーーっ!!』

 ギルドマスターの宣言と同時に、ホール内に雷鳴のような歓声と拍手が巻き起こった。

「すげえええっ! 本当に一日で変異種を倒してきやがった!」

「Eランクどころか、もうBランク級の実力だろあいつら!」

「ざまあみろ! 王都の威張った役人め!」

 冒険者たちの喝采を浴びながら、シルフィとリーネは誇らしげに胸を張った。

「ふふん! あたしたちのリーダーと連携をナメないでよね!」

「ケイタさんの立てた作戦と、わたしの風魔法で一発でしたよ〜!」

 一方、ヴァルターはガタガタと膝を震わせ、蒼白な顔で言葉を失っていた。

「ば、バカな……そんなバカなことがあってたまるか……!」

「さて、ヴァルター補佐官」

 啓太は元コンビニ店長としての「完璧な笑顔」を浮かべながら、すっと一歩踏み出した。その笑顔には、一切の隙も慈悲もなかった。

「約束の『決算』と参りましょうか」

「け、決算……!?」

「ええ。契約通り、指名緊急依頼の成功報酬として**『金貨五十枚』**。そして――」

 啓太はポケットから一枚の白紙とインクを取り出し、テーブルの上に置いた。

「ヴァルター補佐官ご自身の手による、我がパーティーおよびリーネへの『公式の謝罪文』の執筆です。……今すぐ、ここで書いていただきます」

「くっ……! 私が……この私が、こんな底辺冒険者どもに頭を下げ、謝罪文など書けるかぁぁっ!」

 ヴァルターが激昂して立ち上がり、執事に指示を出そうとしたその時。

 ガシッ!

 巨漢のギルドマスターが、ヴァルターの肩をガッチリと掴んだ。

「補佐官どの。ギルドを立ち会わせた正式な契約ですぞ? これを反古にするとなれば……王都の行政院へ『貴殿の不祥事と契約違反』を正式に通報せざるを得なくなりますが?」

「ぐ、ぬぬぬぬ……っ!?」

 逃げ道を完全に塞がれたヴァルターは、全身を屈辱で震わせながら、力なく椅子へと崩れ落ちた。

 数分後。

 震える手で謝罪文を書き終えたヴァルターは、ずっしりと重い金貨五十枚の詰まった革袋をテーブルに投げ出すと、逃げるようにギルドを飛び出していった。

「二度と来るんじゃねえぞー!」

「王都へ失せろー!」

 冒険者たちの怒号と嘲笑に見送られながら消えていく横暴な権力者。

残された啓太たちは、ギルドマスターから正式に報酬を受け取った。

「よくやってくれた、ケイタ。理不尽な圧力に屈せず、結果で示してくれたこと、ギルドマスターとして誇りに思うぞ」

「ありがとうございます、ギルドマスター」

 金貨五十枚の革袋を手にした啓太は、振り返ってシルフィとリーネを見た。

「二人とも、お疲れ様。……さあ、大勝利のお祝いだ!」

『わーーーいっ!!』

 その夜、フォレストピアの高級酒場にて、『クローバー』の大昇進&指名依頼達成を祝う大宴会が催されたのは言うまでもなかった。

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