第37話『強運の爆ぜる時』
「……はいっ!! 『風の怒りよ、全てを穿て――ウィンドバスター』っ!!」
リーネの全魔力が込められた極大の風魔法が、空気を激しく振動させながら解き放たれる。
狙いは、跳躍したグラナイトベアの真下――啓太の足元に転がる古びた『大爆破用のダイナマイト樽』だ。
「ギャウオオォォッ!?」
空中で体勢を変えられないグラナイトベアの赤く光る瞳に、圧縮された暴風の光弾が肉薄する。
次の瞬間――
ドドォォォォンッ!!!!
超高圧の風魔法がダイナマイト樽の導火線代わりの不純物に引火し、数十年ぶんの爆薬が一気に大爆発を起こした。
激しい閃光と爆風が谷間全体を包み込み、黒煙と土煙が天高く舞い上がる。
「きゃあああっ!?」
「くっ……! ケイタ――っ!?」
シルフィとリーネは凄まじい衝撃波に耐えながら、目を細めて爆心地を叫ぶように見つめた。
どれほどの威力か分からない大爆発だ。
もし啓太が巻き込まれていたら――そう考えるだけで二人の血の気が引いていく。
だが、湧き立つ黒煙の中から聞こえてきたのは、ゲホゲホと激しく咳き込む、聞き慣れた男の声だった。
「ゲホッ! ゴホッ! ……うわ、凄まじい威力だな……! 服がススだらけだ……」
「ケイタ……!? 無事なの!?」
「ケイタさんっ!!」
二人が駆け寄ると、そこには頭から足先まで真っ黒なススにまみれつつも、ピンピンして立ち上がっている啓太の姿があった。
実は爆発の直前、啓太の【強運】が奇跡的な現象を引き起こしていた。
爆風の勢いと衝撃波の風圧によって、啓太の身体は爆発の『中心点』から真後ろへと吹き飛ばされ、ちょうど背後にあった頑丈な鉱山トロッコの鉄板の内側へとジャストタイミングでスポッと収まっていたのだ。
鉄板が防波堤となり、爆風の直撃と熱波を見事に遮断してくれたのだった。
(相変わらず俺の【強運】、命の守り方だけは完璧すぎるだろ……!)
啓太は冷や汗を拭いながら、爆発の中心地へと視線を向けた。
そこには、下からの凄まじい爆発エネルギーをまともに食らい、仰向けに転がっているグラナイトベアの巨躯があった。
自慢の硬質な黒い外皮は、腹部を中心にズタズタに引き裂かれ、柔らかい内肉が完全に剥き出しになっている。
「グル……オォ……」
苦しげに喘ぎながら、なんとか立ち上がろうとするグラナイトベア。
だが、受けたダメージは致命的だった。
「みんな、今だ! 腹部の柔らかい肉を狙え!」
「了解っ! 『一ノ矢・貫通射ち』!」
体勢を立て直したシルフィが、間髪入れずに弓を引き絞る。
放たれた矢は、装甲のなくなったグラナイトベアの腹部深くまで吸い込まれるように突き刺さった。
「ギャウッ……!?」
「これで……終わりにしますぅ! 『風の刃よ――ウインドカッター』!」
追撃としてリーネが放った風の刃が、弱り切ったグラナイトベアの首元を的確に切断する。
グラナイトベアは大きく目を見開いたまま、地響きを立ててその場に倒れ伏し、二度と動かなくなった。
静寂が、荒涼とした鉱山の谷間に戻ってきた。
「はぁ、はぁ……た、倒した……?」
シルフィが弓を下ろし、信じられないといった様子で巨熊の死骸を見つめる。
「倒しましたぁーっ! Cランク級の変異種討伐、成功ですぅーっ!!」
リーネがぴょんぴょんと跳ね回って大喜びする。
「ふぅ……一時はどうなるかと思ったが、なんとかなったな」
啓太は大剣を拾い上げ、腰の鞘へと納めた。
自らの身を囮にした作戦と、完璧な風魔法の着弾、そして【強運】による爆風回避。
三人の能力と信頼が見事に噛み合ったからこそ掴み取れた、完璧な勝利だった。
「ケイタ、本当に無事でよかった……! 無茶しすぎだよ!」
シルフィが感極まったように啓太の胸に飛び込んできた。
「ごめんごめん、でも二人なら絶対に狙い通りやってくれるって信じてたからな」
「もう……! カッコつけちゃってさ」
照れくさそうに笑うシルフィと、嬉しそうに寄り添うリーネ。
啓太は二人の頭を優しく撫でながら、死んだグラナイトベアへと歩み寄った。
「さて……討伐の証拠として、この胸の大きな魔晶石を持ち帰るとしよう」
大剣の先で取り出したのは、拳ほどもある眩い光を放つ漆黒の魔晶石だった。
これ一つだけでも、相当な金貨の値打ちがつく最高級の素材だ。
「よし! これで指名依頼の条件は完璧に達成だ。フォレストピアに戻って、あの意地悪いヴァルター補佐官に突きつけてやろうぜ!」
「はいっ! 金貨五十枚と、公式の謝罪文、しっかり受け取りますよ〜!」
「あんな奴、ギャフンと言わせてやりましょうですぅ!」
夕闇が迫る中、ホクホク顔の三人は討伐の証を携えて、フォレストピアの街への帰り道を歩み始めた。
理不尽な横暴を跳ね返し、最高の結果を手に入れた『クローバー』。
待っているのは、高額の報酬と、身勝手な権力者への痛快な「お返し」だった――。




