第3話『助けたつもりが助けられて』
森を抜けてしばらく歩くと、踏み固められた一本の街道に出た。
「ふぅ……なんとか道には出られたな」
これなら人や馬車が通りかかるはずだ。まずは近くの街へ行って情報収集と、異世界の食べ物でも味わってみたい。
そんな呑気なことを考えていた、まさにその時だった。
「――っ!?」
街道の先、草むらからガサガサと大きな音が聞こえた。
見れば、一人の少女が立っている。その前方にいるのは――頭部に鋭く尖った一本角を生やした、巨大なウサギのような魔物だった。
(ヤバい、角生えたウサギ!? あんなのに刺されたら死ぬぞ!!)
26歳、運動神経は人並みで戦闘経験ゼロ。だが、女の子が襲われそうなのを見て見ぬ振りはできない。
啓太は足元に転がっていた太めの木の枝を拾い上げると、無我夢中で叫びながら飛び出した。
「おい! 危ない、離れろっ!!」
少女とウサギの間に割り込み、必死に枝を振り回す啓太。
――ガサッ!
「ひぇっ!?」
勢い余って自分の足をもつれさせ、豪快にすっころんだ。
手から離れた枝は空しく空を切り、地べたに倒れ伏す啓太。見上げれば、角を生やしたウサギが「なんだコイツ」と言いたげな顔で、啓太の目と鼻の先に立っていた。
(嘘だろ!? 助けるどころかピンチじゃねえか!! 死ぬ死ぬ死ぬ!!)
頭上の角がギラリと光り、ウサギが啓太に向かって跳躍した――その瞬間。
――シュッ!
一筋の銀光が空を切り、鮮やかな軌道を描いた。
『ギョッ!?』
ウサギは悲鳴をあげる暇もなく真っ二つに一閃され、地面に力なく転がった。
「ふぅ……驚いた。急に飛び出してくるからヒヤヒヤしたよ?」
聞き心地の良い声に顔を上げると、そこには腰の小剣をサッと鞘に収める少女の姿があった。
ショートカットの髪に、軽やかな革の胸当て。背中には大きなリュックを背負っている。
「あ、あれ……? 一撃……?」
「そりゃそうだよ。これ『ホーンラビット』だし。駆け出し冒険者なら誰でも一撃で倒せる雑魚中の雑魚だよ?」
少女はくすっと笑うと、地面に倒れたままの啓太にポンと手を差し伸べてきた。
「でも……あたしを助けようとして飛び出してくれたんだよね? 格好はついてなかったけど、ありがと!」
握られた手で引き起こされ、啓太は恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。
(穴があったら入りたい……! だけど、助かってよかった……)
「あー……うん。でしゃばってすまん。俺はケイタ。……ただの旅人だ」
「あたしはシルフィ。見ての通り、駆け出しの冒険者さ!街まで一緒に来る?」
シルフィと名乗った少女は、屈託のない笑顔を見せた。
こうして、啓太の記念すべき異世界最初の出会いは、なんとも格好のつかない「助けたつもりが助けられる」という形で幕を開けたのだった。




