第29話『【幕間】風の少女と出会いの記憶(前編)』
(シルフィ視点)
フォレストピアの宿の部屋。
ベッドの上でスースーと気持ちよさそうに寝息を立てるリーネの姿を見ながら、あたし――シルフィは、静かに弓の手入れをしていた。
「……ふふ、賑やかになったなぁ」
ふと、ラグナの街へ向かう街道で、ケイタと初めて出会ったあの日のことを思い出す。
あの頃のあたしは、駆け出しの冒険者として一人で旅を始めたばかりで、慣れない街道を一人で歩いていた。
途中で出会った一匹のホーンラビット。
駆け出しのあたしにとっても「一撃で倒せる雑魚中の雑魚」で、サクッと倒そうと剣を構えた――まさにその時だった。
「おい! 危ない、離れろっ!!」
草むらから無我夢中で叫びながら飛び出してきたのは、見たこともない珍しい格好をした男性――ケイタだった。
太めの木の枝を振り回して、あたしとホーンラビットの間に割り込んできてくれたケイタ。
だけど――
――ガサッ!
「ひぇっ!?」
勢い余って自分の足をもつれさせ、ケイタは地べたに豪快にすっころんでしまったのだ。
「嘘だろ!? 助けるどころかピンチじゃねえか!! 死ぬ死ぬ死ぬ!!」
顔を蒼白にしてパニックになるケイタに向かって、ホーンラビットが飛びかかった瞬間。
あたしは腰の小剣を一閃させて、ホーンラビットを真っ二つに切り裂いた。
「ふぅ……驚いた。急に飛び出してくるからヒヤヒヤしたよ?」
「あ、あれ……? 一撃……?」
地べたに倒れたまま目を丸くするケイタに、あたしはくすっと笑いながら手を差し伸べた。
「そりゃそうだよ。これ『ホーンラビット』だし。駆け出し冒険者なら誰でも一撃で倒せる雑魚中の雑魚だよ?」
格好は全ッ然ついてなかった。
転んで枝を飛ばして、助けるどころか自分で大ピンチになって。
でも――見ず知らずのあたしを助けようとして、後先考えずに飛び出してきてくれた。
「でも……あたしを助けようとして飛び出してくれたんだよね? 格好はついてなかったけど、ありがと!」
「あー……うん。でしゃばってすまん。俺はケイタ。……ただの旅人だ」
「あたしはシルフィ。見ての通り、駆け出しの冒険者さ!」
真っ赤になって恥ずかしがるケイタの手を引っ張り上げた時。
あたしの胸の中は、温かい気持ちでいっぱいになっていた。
(こんな風に、誰かのために一生懸命になれる優しい人がいるんだ――)
一人ぼっちで不安だったあたしの旅に、一筋の温かい光が差し込んだ瞬間だった。




