第27話『歓迎の宴』
フォレストピアの街にある冒険者宿『緑の木立亭』。
その食堂の一角で、三人となった『クローバー』の歓迎会が催されていた。
「すごいですぅ……! これ、全部食べていいんですかぁ!?」
テーブルの上に並べられたのは、啓太が宿の厨房を借りて手早く作り上げた料理の数々だ。
ラグナで仕入れたハーブを効かせた「香草ポークの特大ソテー」、ヘンリーさんの野菜を参考にした「根菜たっぷりの濃厚シチュー」、そしてカリッと焼き上げた大盛りのパン。どれも香ばしい湯気を立て、食欲を激しくそそっている。
「ああ、遠慮せずにどんどん食え。リーネの歓迎会だからな」
「いただきますぅ〜〜っ!」
リーネは目を輝かせると、特大ソテーをフォークで豪快に口へと運んだ。
「う、うまぁぁ〜〜〜いっすぅ……! お肉が柔らかくて、ジューシーで、ハーブの香りが最高ですぅ……! シチューも濃厚で心がほっこりしますぅ……!」
おっとりとした声とは裏腹に、その手と口の動きは疾風の如しだった。
次々と料理がリーネの胃袋へ吸い込まれていき、空になった皿が山のように積み上がっていく。
「ふふ、やっぱりすごい食べっぷりだね! 見てて気持ちいいよ!」
シルフィも楽しそうにエールを傾けながらパンをかじっている。
「ふぁぁ……お腹いっぱいですぅ。こんなに美味しいご飯を思いっきり食べられたの、生まれて初めてですぅ……」
すべての料理を綺麗に平らげたリーネは、お腹を満足そうになでながら、ふにゃりと幸せそうに微笑んだ。
「ケイタさん、シルフィさん……本当にありがとうございますぅ。わたし、明日からの依頼、全力でがんばりますぅ!」
「ああ、期待してるぞ。だが、無理は禁物だ」
啓太は冷たい果汁ジュースを口に含み、あたたかい宴の雰囲気に目を細めた。
賑やかになったパーティの空気感に、元店長としての居心地の良さを感じていた。
翌朝。
秋の爽やかな風が吹く中、三人はフォレストピアの冒険者ギルドへ向かった。
リーネの加入と借金返済のニュースはすでにギルド内に広まっていたようで、周囲の冒険者たちが「あの食いしん坊エルフを引き取ったのか……」「大丈夫かあの新人パーティ」と噂し合っている。だが、三人はまったく意に介していなかった。
「さて、三人での初仕事だが……この『フォレストピア近郊の毒キノコ駆除と薬草採取』にしよか。森の深部へ行く前の足慣らしにちょうどいい」
啓太が掲示板から剥がしてきたのは、Fランク〜Eランク向けの地道な採取・駆除依頼だ。
「わかりましたぁ! 毒キノコですねっ! わたしの魔法で一網打尽にしますぅ!」
「いや、焼き払ったら採取できなくなるから、魔法は怪しい魔物が出た時に頼むな」
「はぁい、了解ですぅ〜」
街の北側に広がる『深緑の森』。
木々が鬱蒼と生い茂る森の中に入ると、心地よい土と葉の匂いが漂ってきた。
「へぇ、これが毒キノコ『シアンマッシュ』か。鮮やかな青色をしてるな」
樹木の根元に群生する青いキノコを、啓太は手際よくナイフで採取していく。前世の棚卸しや品出しで培った手際の良さは、ここでも遺憾なく発揮されていた。
「ケイタさん、採取の手際がすごくプロっぽいですぅ……!」
「まあな。効率よく作業するのは得意なんだ」
と、その時――。
頭上の枝葉がカサカサと激しく揺れ、不気味な低音が森に響いた。
「シャーッ!」
現れたのは、体長二メートルを超える巨大な毒蜘蛛『フォレストスパイダー』だった。粘着性のある糸を吐き出しながら、木の上から三人の頭上へと襲いかかってくる!
「みんな、上だよ!」
シルフィが即座に弓を構え、牽制の矢を放つ! 矢は蜘蛛の足に突き刺さるが、巨体ゆえにそのまま押し切って落ちてくる。
「ケイタさん、下がってくださいっすぅ! わたしの番ですぅ!」
リーネが前に躍り出ると、両手を高く掲げた。
おっとりした雰囲気が一変し、彼女の全身から凄まじい量の青白い魔力が溢れ出す。森の空気が物理的に重く震えるほどの、圧倒的な魔力密度だった。
「ひらめけ、炎の槍……! 『ファイアランス』!」
ズドンッ!!
空気すら爆ぜるような轟音とともに、リーネの手元から太い炎の槍が解き放たれた。
炎の槍は一直線にフォレストスパイダーを穿ち、一瞬でその巨体を焼き尽くして灰へと変えてしまった。
背後の樹木までうっすら焦げるほどの威力を前に、啓太とシルフィは呆然と立ち尽くした。
「……すご……」
「一撃でお肉も糸も灰になっちゃった……」
威力を目の当たりにした啓太は、彼女の「規格外の魔力量」が本物だったことを痛感した。
しかし次の瞬間――。
ぐぅぅぅ〜〜〜〜〜〜……。
森全体に響き渡るような、盛大なお腹の音が鳴り響いた。
「ふぁぁ……魔力使ったら……猛烈にお腹が減りましたぁ……。ケイタさん……ご飯……」
へなへなと膝から崩れ落ち、力尽きたように啓太を見上げてくるリーネ。
「はは……本当に燃費が悪いな。よし、街道に戻って昼飯にしよう!」
「はぁい……ご飯のためにがんばりますぅ〜……」
一筋縄ではいかないが、破壊力バツグンの新しい仲間と共に、三人となった『クローバー』の冒険は賑やかに進んでいくのだった。




