第25話『腹ペコの魔法使い』
「うぅ……お腹すいたよぉ……」
フォレストピアの冒険者ギルドの床で、突っ伏したままピクピクと耳を揺らしている金髪のエルフの女性。
周りの冒険者たちが遠巻きに呆れ顔で見守る中、啓太は肩掛けバッグから、ラグナの街を出る時にマルタさんからもらった特製お弁当の残りを一つ取り出した。
「……ほら、これ食べな」
「ふぇ……?」
目の前に差し出された包みから漂う香ばしい肉と香草の匂いに、エルフの女性の耳がピクンと跳ね上がった。がばっと勢いよく起き上がると、潤んだ大きな青い瞳で啓太を見上げてくる。
「え、これ……食べていいんですか……?」
「ああ。お腹が空いて困ってるんだろ?」
「いただきますっ!!」
お礼もそこそこに包みを引っひったくると、彼女は凄い勢いで肉パンにかぶりついた。
モグモグどころか、まさに「がっつく」という言葉がぴったりの食べっぷりだ。シルフィと啓太が呆気に取られている間に、大人二人分はありそうな大きなお弁当があっという間に彼女のお腹の中へと消えていった。
「ごちそうさまでした……! はぁ〜〜っ、生き返りましたぁ……!」
両手を合わせて深く息を吐く彼女の顔には、ようやく生気が戻っていた。
「助かりました……! わたしは魔法使いの『リーネ』といいます。見ず知らずのわたしに食べ物を恵んでくださって、本当にありがとうございました!」
ペコペコと頭を下げるリーネ。
「俺はケイタ。こっちは相棒のシルフィだ。……それにしても、すごい食べっぷりだったな。さっきギルドで揉めてたのを聞いてたんだが……やっぱり食費で揉めて追放されたのか?」
啓太が尋ねると、リーネは長くて綺麗なエルフ耳をキュッと萎ませて、落ち込んだように視線を落とした。
「はい……。前のパーティーの人たちには、食費のせいでたくさん迷惑をかけてしまって……。でも、わたしだって好きで大食いしてるわけじゃないんですぅ……!」
「好きで食べてるわけじゃない?」
シルフィが不思議そうに首を傾げた。
「はい……わたし、生まれつき体の中の『魔力量』がすごく多くて……。その代わり、魔法を使うと魔力を激しく消費しちゃうんですぅ。で、減った魔力を元通りに回復させるためには……たくさん食べて身体にエネルギーを補給しないといけないんですぅ……」
リーネは申し訳なさそうに指を弄んだ。
「パーティの戦闘では、みんなを守るためにたくさん攻撃魔法や補助魔法を使っていたんですぅ。でも、戦いが終わると魔力がスッカラカンになっちゃって……猛烈にお腹が空いて……。報酬だけじゃ食費が足りなくて、みんなにお金を借りるしかなくて……」
(なるほど……そういうカラクリか!)
啓太は合点が行った。
彼女は大食漢なのではなく、**「膨大な魔力を回復するための燃料補給」**として食べ物を必要としていたのだ。
車の排気量が大きければ大きいほど、ガソリンを大量に消費するのと同じ原理だ。前世の知識に照らし合わせても、非常に合理的で理にかなった理由だった。
「なるほどな。魔法を頑張って使った結果なのに、周囲にはただの『大飯食らいの借金野郎』に見えちゃってたわけだ」
「そうなんですぅ……! 誰もわたしの体質を信じてくれなくて……っ」
リーネは再び半泣きになりながら啓太の袖にすがってきた。
「わたし、魔法の威力には絶対の自信があるんです! でも……ご飯を食べさせてくれるパーティーじゃないと、すぐ魔力切れで倒れちゃうんですぅ……! うぅ、借金もあるし、これからどうしよう……」
啓太とシルフィは顔を見合わせた。
莫大な魔力を秘めた貴重な魔法使い。
だが、維持費(食費)が異様なほどかかるワケありの存在。
啓太の胸の中で、元店長としての「人材育成欲」と、パーティ『クローバー』の更なる可能性がフツフツと湧き上がってくるのを感じていた。




