第24話『新しい街』
野営の夜、啓太はさっそく昼間に教わった火の生活魔法を披露した。
カチリ、と指先から熾した小さな火種で手際よく焚き火へ火を移し、持ち持ちの干し肉と野菜を刻んでクッカーで煮込む。啓太が作る温かいスープは、肌寒くなってきた秋の夜の野営には何よりのご馳走だった。
「ケイタの火起こし、もうすっかりサマになってるね!」
「イメージさえ掴めば案外いけるもんだな。魔法って便利だわ」
温かいスープを味わいながら星空を見上げ、二人は静かな野営の夜を楽しんだ。
そして翌日の午後。
ゆるやかな坂道を登りきった二人の視界に、広大な深い森と、その森に抱かれるように広がる大きな木造の街並みが飛び込んできた。
「着いたよケイタ! あれが交易と森の街『フォレストピア』だよ!」
シルフィが嬉しそうに声を弾ませる。
フォレストピアは、豊かな森林資源と交易で栄える大きな街だ。立派な丸太で組まれた重厚な防壁と、行き交う多くの馬車や冒険者たちの姿が、ラグナの街以上の活気を物語っていた。
門番への身分証明(ギルド証の提示)をスムーズに済ませ、二人はまず情報収集と到着の報告を兼ねて、街の中央にある冒険者ギルドへと向かった。
フォレストピアのギルドは、外観も内装も大きな木の温もりに溢れた巨大な建物だった。昼過ぎという時間帯にもかかわらず、多くの冒険者たちでごった返している。
「うわぁ、ラグナのギルドよりすごく広いね!」
「ああ、活気があるな。まずは移籍の手続きというか、到着の報告を――」
啓太が受付カウンターへ向かおうとした、その時だった。
「――ふざけるのもいい加減にしろ! これ以上、お前をパーティーに入れておけるか!」
ギルドホールの一角から、怒号が響き渡った。
喧騒が一瞬で静まり返り、周りの冒険者たちが一斉にその方向へ視線を向ける。啓太とシルフィも立ち止まり、思わず耳を澄ませた。
声の主は、重厚な鎧を着たリーダー風の男だった。その周囲には、魔法使いや軽戦士の姿をした冒険者が三人、そして彼らに詰め寄られている一人の女性が立っていた。
綺麗な金髪と尖った耳――エルフの女性だ。
だが、彼女は豪華な革の胸当てを着けているものの、どこか気まずそうに目を泳がせ、気弱そうに肩をすぼめている。
「だ、だって……お腹が空いちゃって……」
「『お腹が空いた』で済む額じゃねえだろうが! お前がこの一ヶ月で俺たちから借りた食費、全部で大銀貨二十枚だぞ!?」
「ひぇっ……」
「ウチはCランクを目指す真面目なパーティーなんだよ! お前みたいに、入ってくる報酬を全部メシ代に消した挙句、仲間に借金までして食い散らかす『大飯食らい』はいらねえ!」
「うぅ……でも、エルフだって美味しいものは、たくさん食べたいんです……」
エルフの女性が小さく反論するが、リーダーの男は容赦なく手形を突きつけた。
「返せないなら、この場でパーティーはクビだ! 貸した金は、ギルドに立て替えてもらってお前の借金として登録しておくからな! 二度と俺たちの前に顔を出すな!」
「そんなぁぁ〜〜っ!?」
非情な宣言とともに、四人組のパーティーは捨て台詞を残してエルフの女性を置き去りにし、ギルドを去っていった。
残されたエルフの女性は、その場に崩れ落ちるように膝をつき、しくしくと泣き始めてしまった。
周りの冒険者たちは「またあいつか……」「エルフのくせに食い意地が張りすぎなんだよな」「借金持ちの追放エルフか」と、呆れたように囁き合っている。
「……なんか、すごい現場に出くわしちゃったね」
シルフィが引き気味に啓太の袖を引っ張る。
「……ああ」
啓太は、地面に突っ伏して「お腹すいた……」と力なく呟いているエルフの女性をじっと見つめた。
(エルフ=ベジタリアンで少食、みたいな勝手なイメージがあったが……この世界のエルフは大飯食らいもいるのか?)
そして何より、追放された理由が「食費の借金」というあまりにも生々しくも情けない理由に、元店長としての苦労人魂(+好奇心)がかすかに揺さぶられるのを感じていた。




