第23話『街道と魔法』
ラグナの街を後にしてから、二日が経過した。
見渡す限りの緑の丘陵と、どこまでも続く土の街道。
急ぐ旅でもないため、啓太とシルフィは風の音や鳥のさえずりを楽しみながら、マイペースに歩みを進めていた。
正午を過ぎた頃、街道脇にある大きな木の下で足を止め、ひと休みすることにした。
木陰に荷物を下ろし、マルタさんからもらった特製のお弁当を広げる。冷めても美味しい香草焼きの肉と丸パンを味わいながら、啓太はふと思い立って尋ねてみた。
「そういえばさ、シルフィ。ずっと気になってたんだけど……この世界の『魔法』って、どういう仕組みになってるんだ?」
「魔法?」
シルフィがパンをかじりながら首を傾げた。
「うん。俺は剣や弓の戦闘は見てきたけど、そういえば魔法を使ってる場面ってあまり見たことがなくてさ。シルフィは魔法、使えたりするのか?」
「うーんとね、あたしは『生活魔法』と、ちょっとした狩人向けの補助魔法くらいなら使えるよ!」
そう言うと、シルフィはすっと右手を出した。
集中するように瞳を閉じると、彼女の掌の上に小さな水滴がふわりと浮かび上がり、続いてポッと小さな灯火が点いた。
「わあ……本当に魔法だ」
前世の科学の世界にはなかった現象を目の当たりにし、啓太は素直に目を輝かせた。
「この世界にはね、空気中や生き物の体の中に『魔力』が満ちてるの。それを自分のイメージと組み合わせることで、火を出したり、水を呼び出したり、風を起こしたりするんだよ」
シルフィは手の上の火と水をすっと消すと、説明を続けた。
「誰でも練習すれば、いま見せたみたいな『水を出して喉を潤す』とか『火をつけてキャンプファイアーにする』くらいの生活魔法は使えるようになるの。でも、戦闘で使える強力な攻撃魔法とか回復魔法になると、生まれつきの才能とか、長年の専門的な修行が必要になるんだよね」
「なるほど……イメージと魔力の操作か」
「ケイタもやってみる? 手をかざして、『小さな灯火をつける』イメージをしてみて!」
「よし、試してみるか」
啓太は自分の掌を見つめ、前世で使い慣れたライターの火や、ガステーブルの青い炎を強く頭に描いた。そして、体の中にあるかすかな違和感――魔力らしき流れを感じ取り、手に集中させる。
すると、啓太の掌の上で『ボッ!』と勢いよく一瞬だけ小さな炎が上がった。
「わっ! すごい! ケイタ、一発でできたよ!」
「おっ……できたな。でも、一瞬で消えちゃったな」
「最初はそんなもんだよ! 継続して維持するのは練習がいるんだから。でもケイタ、魔力のコントロールがすごく上手かも!」
啓太は自分の手を開いたり閉じたりした。
前世の知識(熱量や燃焼のイメージ)が明確だったからか、発動自体は驚くほどスムーズだった。豪快な攻撃魔法は無理だとしても、旅の最中の明かりや火起こし、あるいは食材の保温など、日常に役立てる分には十分応用できそうだ。
(旅をしながら、生活魔法の技術も磨いていくとするか。いつか自分の店を持った時にも絶対役に立つしな)
「そういえば、シルフィの弓にも魔法が関係してたりするのか?」
「うん! あたしの弓は『風の魔力』を乗せて飛ばす練習をしてるんだ。矢の風抵抗を減らして、遠くの標的にもまっすぐ飛ばせるようにね」
「へえ、だからシルフィの弓はあんなに精度が高くてブレないのか。すごいな」
「ふふん、あたしも伊達に狩人やってないからね!」
ほめられて誇らしげに胸を張るシルフィ。
魔法という新しい知識を得たことで、この世界での暮らしや旅の楽しみがまたひとつ増えたのを感じていた。
食後の休憩を終え、二人は再び荷物を背負って立ち上がった。
「さ、午後も張り切って歩こう! 次の街『フォレストピア』まで、あと一日半くらいだよ!」
「よし、行こう。今夜の野営では、さっそく火起こし魔法を試させてくれよ」
「あはは、任せたよケイタ火起し担当!」
澄み渡る秋空の下、二人の軽やかな笑い声が街道に響き渡るのだった。




