第21話『強運の兆し』
休日が明け、気持ちも新たに活動を再開した啓太とシルフィ。
次の街への旅を意識し始めた二人だったが、まずは足元をしっかり固めるべく、今日もラグナの街の近郊での手堅い採取依頼を引き受けていた。
「今日の依頼は、森の入り口付近での『アオハーブ』の採取だね。地味だけど需要が安定してるから、確実にお金になるよ」
木漏れ日が差し込む穏やかな森の中、シルフィが周囲を警戒しながら声をかける。
「ああ、焦らず確実に稼いでいこう。旅立ちの資金は多いに越したことはないからな」
啓太は地面にかがみ込み、根を傷つけないよう手際よくアオハーブを摘み取っていく。前世での正確な作業と、この世界での慣れが合わさり、啓太の採取スピードは相変わらず職人技の域だった。
作業を始めて小一時間ほど経った頃。
啓太が少し離れた大きな樹木の根元へ足を運んだ時のことだった。
(ん……? なんだあれ)
茂みの陰で、何かが日光を反射してギラリと眩しく輝いていた。
目を凝らしてみると、そこにいたのは一匹の小さなウサギだった。ただし、普通のホーンラビットとはまるで違う。体毛がまるで磨き上げられた純銀のように眩い光を放ち、頭の角も透き通るような水晶のような輝きを帯びている。
「シルフィ、ちょっと来てくれ。変なのがいる」
啓太が静かに手招きすると、シルフィが足音を殺して寄ってきた。そして、その銀色のウサギを目にした瞬間、シルフィは息を飲んで固まった。
「な……っ!? これって……『シルキーホーン』!?」
「シルキーホーン?」
「うそでしょ!? 冒険者が一生に一度出会えるかどうかレベルの超激レア魔物だよ! その毛皮は高級ドレスの生地になるし、角は万能薬の材料になるから、ギルドで破格の懸賞金がついてるの!」
シルフィの声は興奮で小さく震えていた。
「ただね、ものすごく警戒心が強くて、足も光みたいに速いの! 気配を察知された瞬間に逃げられちゃうから、ベテランの冒険者でも狩るのがほぼ不可能って言われてて……」
次の瞬間、シルキーホーンがぴくりと耳を動かし、二人の方を振り返った。危険を察知して脱兎の如く走り出し、一瞬で茂みの奥へ消えていく。
「ああっ! 逃げられた――」
シルフィが叫びかけた次の瞬間、茂みの奥で『バチンッ!』と乾いた金属音が響いた。
「……え?」
恐る恐る二人が音のした茂みを覗き込むと、そこには古びた狩猟用のワイヤー罠にかかり、足を絡め取られて暴れているシルキーホーンの姿があった。誰かが設置したまま忘れ去られていた罠に、逃げ出したシルキーホーンがそのまま飛び込んでしまったのだ。
「うそ……誰かが放置した罠にかかるなんて……そんな奇跡ある!?」
「……運が良かったんだな」
驚くシルフィを余目に、啓太はすばやく駆け寄ると、小太刀で確実に止めを刺した。
(まさか……神様にもらった【強運】のおかげか……?)
一生に一度会えるかどうかという希少種に遭遇したこと、そして逃げられた直後に放置された罠にたまたまかかるという奇跡。まさに強運というスキルの存在を実感せざるを得ない瞬間だった。
「信じられない……。あんなにすばやい魔物が、たまたまそこにあった罠にかかっちゃうなんて……こんなことある!?」
「よし、毛皮や角を傷つけないように慎重に持ち帰ろう。罠をかけて放置してくれた見知らぬ誰かにも感謝だな」
夕方、冒険者ギルド。
啓太とシルフィが受付カウンターにシルキーホーンの素材を並べた瞬間、ギルドホール全体が静まり返った。
「……な、なんですかこれは……ッ!?」
いつも冷静なマルグリットさんが、メガネをずり下げて叫ぶような声を上げた。
「シルキーホーンの完璧な個体……!? 毛皮にも角にも傷一つありません……! 一体どうやってこれを!?」
「えっと、ハーブを摘んでたら偶然見つけまして……逃げられたんですが、誰かが仕掛けてあった放置罠に勝手にかかってくれたんです」
「そんな馬鹿な話がありますか!?」
周りにいたベテラン冒険者たちも一斉に集まってきた。
「おいおいマジかよ! あのシルキーホーンだぞ!?」
「何年も追ってるベテランだっているのに、新人があっさり持ち込んでくるとは……!」
「運なんてレベルじゃねえぞ、どんな強運してんだ!?」
ざわめく館内の中、マルグリットさんは震える手で査定の計算を行った。
「……ケイタさん、シルフィさん。こちらのシルキーホーンの買い取り額ですが……特別手当も含めまして、金貨三枚になります!」
「き、金貨三枚ーーーっ!?」
シルフィが素っ頓狂な悲鳴を上げた。
大銅貨数枚で喜んでいたこれまでの報酬とは、桁が二つも違う大金だった。
ジャラリとカウンターに置かれた三枚の黄金色の硬貨。
ズッシリとした重みと眩い輝きが、手元に舞い込んできた。
(金貨三枚……! これがあれば、次の街への旅立ちの準備や装備の買い替えも一気に進むぞ)
啓太はポケットの中の金貨の重みを感じながら、自身の能力への確信と、これから始まる旅への期待に胸を膨らませるのだった。




