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第17話『初討伐』


 秋の澄み渡る空の下、啓太とシルフィはラグナの街の南側に広がる農耕地帯を目指して歩いていた。

 大通りを抜けると、石畳の道は踏み固められた土の道へと変わり、左右には小麦や根菜を育てるのどかな畑が広がっている。収穫期を迎えた作物の甘い匂いが、心地よい風に乗って漂ってきた。

「ホーンラビットの駆除依頼を出したのは、あの角にある農家のヘンリーさんだよ。作物をかじられる被害が増えて困ってるんだって」

 歩きながらシルフィが腰の矢筒の確かめ、前方を指さした。

「なるほどな。ホーンラビットってのは、額に小さな角が生えたウサギだったよな? 攻撃性はあるのか?」

「普段はおとなしいんだけど、跳躍力がすごく高くてね。角を使って飛びかかってくるの。すばやいから、剣を振り回すだけの前衛だと結構逃げられやすいんだよね」

「素早さが武器か。なら、力押しじゃなくて『立ち回り』と『誘い込み』だな」

 啓太は買い揃えた手頃な小太刀(ショートソード)の柄を軽く叩いた。

前世で激務の合間に遊んでいたゲームの知識や、店長時代に培った空間把握の感覚が不思議と頭に浮かぶ。自分の戦闘能力はまだ高 we わけではない。だからこそ無理な立ち回りはせず、シルフィの弓を引き立たせるための「壁」と「誘導役」に徹するのが正解のはずだ。

 農家のヘンリーさんにあいさつを済ませ、被害が出ているという畑の裏手にある低木林の境界線へと向かった。

「……いた。あそこの茂みの中」

 シルフィが声を殺し、身を低くして低木の間を指さした。

 視線の先、茂みの影で体長五十センチほどの大きなウサギが、野菜のくずを無心にかじっている。頭部には鋭い一本の角が生えており、ピクピクと大きな耳を動かして周囲を警戒していた。

「一羽だけじゃないな。奥の木の根元にもう二羽いる」

 啓太は目を凝らし、冷静に敵の配置を確認した。

「三羽か……。あたしの弓だと、一羽仕留めた瞬間に残りの二羽が警戒して逃げるか、こっちに飛びかかってくるね」

「よし、計画通りにいこう。俺が前に出て二羽の気を引く。逃げようとするか、俺に向かって跳んできたところを、シルフィが横から射ち抜いてくれ」

「了解! 気をつけてねケイタ!」

 啓太は深く息を吐き出すと、腰の小太刀を抜き、足音を殺して茂みの横へと回り込んだ。

 ジャリ、と踏んだ小さな枝の音に反応し、ホーンラビット一羽が弾かれたように首を跳ね上げた。赤く鋭い瞳が啓太を捉える。

『キュイッ!』

 鋭い警戒声を上げたホーンラビットは、自慢の脚力で地面を強く蹴り、真っ直ぐ啓太の胸元を目がけて弾丸のように跳びかかってきた。角の先が鈍く光る。

(速い! だが……軌道が一直線だ!)

 啓太は焦らず、跳びかかってくるウサギの軌道を見極めた。

直前で体を半身にねじり、間一髪で角の突き出しをかわす。すれ違いざま、小太刀の腹でウサギの側面を力任せに叩き落とした。

『キュッ!?』

 姿勢を崩して地面に転がったホーンラビットに対し、啓太は深追いをしなかった。

「シルフィ、今だ!」

 叫ぶと同時に、ヒュッという風切り音が鼓膜を揺らした。

 次の瞬間、体勢を立て直そうとしていたホーンラビットの首元に、シルフィの放った矢が深々と突き刺さっていた。一撃必殺。ウサギは一度だけ痙攣すると、そのまま動かなくなった。

『キュイイッ!』

 仲間が倒されたことに気づいた奥の二羽が、パニックを起こしてパッと左右に散って逃げ出そうとする。

「逃がすか!」

 啓太はすかさず右側の個体へと踏み込み、小太刀を低く構えて進路を塞いだ。ウサギが立ち止まり、威嚇するように角を向けたその隙――

 バシッ! と再び軽快な弦音が響き、逃げようとしていた左側の個体が鮮やかに射ち抜かれた。

「ラスト一羽!」

 啓太の眼前に迫る最後の一羽。

相手が跳び上がる瞬間の踏み込みに合わせて、啓太は一歩踏み込み、小太刀を振り下ろした。刃が正確に捉え、ホーンラビットを地面へ叩き伏せる。

 数秒前までの緊張が嘘のように、あたりに静寂が戻ってきた。

「……ふう」

 啓太は刀身についた脂をぬぐい、息を整えた。

「ケイタ! すごいすごい! 完璧な誘導だったよ!」

 茂みから飛び出してきたシルフィが、目を輝かせて駆け寄ってきた。

「逃げ出す方向を塞いでくれたから、あたしもすごく狙いやすかった! こんなにスムーズに複数匹を狩れたの初めてだよ!」

「シルフィの弓の精度が凄まじいからだよ。本当に一発で仕留めてくれるから、安心して前を任せられた」

 啓太が笑いかけると、シルフィは誇らしげにえへへと胸を張った。

 型にハマった「頑丈な前衛」と「後衛の射手」ではない。

前衛が敵の意識と動きを制御し、後衛が決定打を叩き込む。二人の「クローバー」ならではの連携が、最初から驚くほど綺麗に噛み合っていた。

「よし、血抜きをして解体しよう。ヘンリーさんにも報告しなきゃな」

「うん! ホーンラビットのお肉はクセがなくて美味しいから、マルタさんに持っていったら喜ばれるかも!」

 倒した三羽のホーンラビットを手際よく血抜きし、肩掛けバッグ(と隠しアイテムボックス)へ収めていく。

 初めての討伐依頼は、怪我一つなく大成功に終わった。

自分の強みと仲間の強みを理解し、助け合うこと。

元店長としての経験が異世界でも生きていることを実感し、啓太は秋の澄んだ空を見上げて静かな達成感を噛み締めるのだった。

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