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第16話『休日の約束』


 初めての採取依頼を大成功で終えた翌朝。

 すっかり秋めいた爽やかな風が吹く中、啓太とシルフィはいつもの『木漏れ日亭』の食堂で朝食をとっていた。

 マルタさんが用意してくれた具だくさんの野菜スープと、香ばしい丸パンを味わいながら、今日の予定について言葉を交わす。

「よし、スープも食べたし、今日もギルドに行って依頼探そうか! ケイタ!」

 シルフィはすっかりやる気満々で、目を輝かせながらパンをかじっている。

 そんな元気なシルフィの様子に苦笑しつつ、啓太はハーブティーの入ったカップをテーブルに置いた。

「シルフィ、ちょっと提案があるんだが」

「ん? なに? どんな依頼でも任せてよ!」

「いや、依頼の話じゃなくてさ。……これからの『働き方』についてなんだ」

「はたらきかた……?」

 シルフィが不思議そうに首を傾げた。

「ああ。俺たち冒険者は個人事業主……つまりフリーランスみたいなもんだろ? 会社や組織に縛られない分、休むタイミングも自分たちで決めなきゃいけない」

「ううん……? まあ、身体がキツくなったら休む感じだけど……」

「それだと、体調を崩すか怪我をするまで走り続けちゃうだろ? だからさ、あらかじめ『休む日』を定期的に決めようと思うんだ。具体的には、七日のうち二日は完全休業。週休二日制だ」

「しゅうきゅうふつかせい……? 週に二日も休むの!?」

 シルフィが目を丸くして声を裏返させた。この世界では「休める時に気まぐれで休む」か「お金が尽きるまで働き詰める」かの極端な冒険者が多く、定期的に二日も休むという発想自体が新鮮だったのだ。

「そうだ。前世……いや、俺がいた元の場所ではな、休みをしっかり取らないで働き詰めると、集中力が切れて思わぬ大きな事故やミスに繋がることが実証されてるんだ。特に俺たちの仕事は命がけだろ? 万全のコンディションを保つための『計画的な休日』さ」

 啓太は元店長としての経験を込め、真剣な眼差しで語った。

「五日働いて、二日休む。休みの日は街で買い物をしたり、美味しいものを食べたり、ただ部屋でダラダラ過ごしてもいい。そうやってメリハリをつけた方が、結果的に長く安全に稼げるんだよ」

 シルフィはしばらく呆気にとられたように啓太を見つめていたが、やがてその言葉の意味を噛み締めるように、ゆっくりと笑みを浮かべた。

「そっか……。無理して倒れるまで働くのはダメってことだね。ケイタって、本当によく考えてくれてるんだなぁ……。分かった! その週休二日制、あたしも賛成!」

「よし、決まりだな。……さて、それともう一つ、大事な話がある」

 啓太は表情を引き締め、まっすぐにシルフィの目を見つめた。

「シルフィ。もし嫌でなければ……俺と正式に『パーティ』を組んでくれないか?」

 その言葉を聞いた瞬間、シルフィがぴくっと肩を揺らし、持っていたパンを落とした。

「え……っ? ぱ、パーティ……?」

「ああ。これまでは『案内と同行』っていう形だったろ? でも昨日一緒に仕事をして、やっぱり俺にはシルフィの観察眼や弓の技術、街の知識が必要不可欠だって実感したんだ。俺は前衛やサポート、採取作業を担当する。シルフィは警戒と遠距離の攻撃。お互いの長所を活かして、短所を補い合える」

 啓太は自分のギルド証を取り出し、テーブルの上に置いた。

「臨時じゃなく、対等なパートナーとして、一緒に冒険者をやっていきたいんだ。……どうかな?」

 シルフィは口を小さく開けたまま、啓太の顔とテーブルの上のギルド証を何度も往復して見つめていた。

 やがて、彼女の瞳にじわじわと光るものが浮かび上がり、慌てて両手で顔を覆った。

「……あたしで、いいの……? 使い勝手が悪い……中途半端な狩人だよ……?」

「何度も言ったろ? 俺にとっては、これ以上頼りになる相棒はいないよ」

 静かだが力強い啓太の言葉に、シルフィは震える手で顔を拭うと、涙で潤んだ目を上げて眩しいばかりの笑顔を咲かせた。

「……うん! 組む! あたしも、ケイタとパーティがいい! 一緒に冒険したい!」

「ありがとう、シルフィ。これからよろしくな」

「うんっ! よろしくね、ケイタ!」

 二人は朝食を終えると、さっそく冒険者ギルドへと足を運んだ。

 朝の喧騒に包まれたギルドの受付で、マルグリットさんにパーティ結成の旨を伝える。

「おや、ケイタさんとシルフィさんが正式にパーティを。それは素晴らしいですね!」

 マルグリットさんは心底嬉しそうに微笑むと、二人の木製のギルド証を受け取り、専用の魔導具の上に重ねて置いた。カチリと小さな光が宿り、二人の登録情報が「パーティ結成」としてギルドの記録に紐付けられる。

「はい、これで正式にお二人はパーティとなります。パーティ名は何かお決まりですか?」

「あっ、名前! まだ決めてなかったねケイタ!」

 シルフィが慌てて啓太の袖を引っ張る。啓太はあらかじめ考えていた名前を口にした。

「『クローバー』でお願いします」

「クローバー……? 四つ葉の、あの草のこと?」

「そうさ。四つ葉のクローバーは幸運のシンボルだろ? 無事に生きて帰ってくる幸運と、雑草みたいに踏まれてもタフに伸びていくしぶとさ。俺たちにぴったりだと思ってさ」

「クローバー……うん! すごく良い名前! あたし、それ大好き!」

 シルフィが飛び跳ねるように喜ぶ。マルグリットさんも微笑みながら頷き、手続きを完了させてギルド証を返してくれた。

「それでは『クローバー』の初仕事ですね。本日はどのような依頼にされますか?」

「よし、今日は初めての討伐依頼に挑戦してみようと思うんです。農地を荒らすホーンラビットの駆除をお願いします」

「かしこまりました。お気をつけていってらっしゃいませ!」

 ギルドを出ると、秋の澄んだ空がどこまでも広がっていた。

 啓太とシルフィは顔を見合わせ、大きく一つ頷くと、街の外へと足を踏み出した。

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