第11話『市場の買い出しと、小さな疑問』
新しい服に身を包んだ啓太は、シルフィと共に賑やかな市場通りを歩いていた。
すれ違う人々の中に混じっても、もう奇妙な視線を向けられることはない。すっかりこの街の風景に溶け込めている感覚が心地よかった。
(へえ……あの角の建物、一階が空き店舗になってるな。大通りに面してて人通りも悪くない……。いやいや、まずは自分の生活基盤を固めるのが先か)
元店長の習性で、目についた空き物件の立地や人流を無意識にサクッとチェックしつつ、啓太は気持ちを切り替えた。
「よし、次は旅に必要な消耗品を揃えておきたいな。シルフィ、水筒とか雑嚢、あとは小刀なんかが売ってる店ってこの近くにあるか?」
「それならあっちの露店街だよ! 一通り揃うよ!」
シルフィの案内に従って露店を巡り、啓太は買い出しを進めた。
革製のしっかりとした水筒、頑丈なキャンバス地の肩掛けバッグ、薬草や果物を切るのに適した小ぶりな万能ナイフ、そして日持ちする干し肉や固焼きのパン。
(【アイテムボックス】があるから荷物の重さは気にする必要がないのが本当にデカいな。でも、人前で不自然にアイテムを出し入れするわけにはいかないから、ダミーとしての肩掛けバッグは必須だ)
「ケイタ、買い忘れはない? 大丈夫?」
「ああ、これでひとまず十分かな。シルフィの方は靴紐、買えたか?」
「うん! 頑丈な皮紐が手に入ったよー!」
満足そうにニコニコと笑うシルフィを見ながら、啓太はふと素朴な疑問を抱いた。
(そういえば……)
昨日出会った時のことを思い返す。
彼女は森で一人、ホーンラビットを狩っていた。ギルドでも一人で換金手続きをしていたし、宿屋も一人で泊まっている様子だった。
ギルドの酒場を見渡した時、冒険者たちのほとんどは二〜四人のパーティを組んでいた。特にシルフィのような駆け出しに見える若い狩人が、危険な街の外でソロ活動をするのはリスクが高すぎるはずだ。
(明るくて社交的だし、ギルドの受付や宿のマルタさんとも仲が良い。人付き合いが苦手で孤立してるってわけでもなさそうだが……なんでパーティを組まないんだろう?)
「ねえケイタ? あたしの顔になにかついてる?」
じっと見ていたことに気づいたのか、シルフィが首をかしげて顔を覗き込んできた。
「あ、いや……なんでもないよ。買い出しも終わったし、ちょっと喉が渇いたなと思ってさ」
「あはは! じゃあ市場の広場で冷たい果汁ジュースでも飲んで休憩しよ!」
啓太は疑問を胸の奥にそっと仕舞い込み、元気に歩き出すシルフィの後ろ姿を追いかけるのだった。




