第8話 それぞれの良さ
「きゃっ!」
ルアンはステラを抱き上げた。
触れただけで高熱なのが分かった。
「お前も調子悪くなったのか?」
「自分で歩けるから…」
「黙ってろ」
(まさか、クララの病が移ったのか?)
ルアンは同じ病ではないかと焦っていた。
町医者の診療所に辿り着いた。
どうやらクララの看病で疲れが溜まって
倒れてしまったらしい。
幸いにも重い病気にかかったわけではなかった。
しばらく休めば回復するとのことだった。
家に帰るとルアンはベットにステラを下ろし
濡らしたタオルを額に乗せてあげた。
ステラが彼の裾を掴んで言った。
「ごめん…迷惑かけて。少し寝れば治るわ…
一晩だけ休ませてもらっていいかな…?
明日はエミリア先生もいないし、私がやらないと…」
そう言ったが、どうみても一晩で治りそうな状態ではなかった。
そのステラの姿を見て、ルアンは呆れた顔で言った。
「医者の話聞いてたか?お前は1週間寝てろっ!
ここは俺が見ててやるから、部屋から出るなっ」
「えっ…そんな大丈夫だよ。悪いし…」
「他のやつに移ったら大変だろ!?」
「うぅ…」
「長引かれても困るし、
勝手に働いたらただじゃおかないからなっ」
翌日。
「今日から1週間ステラ先生は休むので、
代わりに俺が先生をやります。
みんな大人しく言うことを聞いてください。」
ルアンは胡散臭い作り笑いで子どもたちの前に立っていた。
「ルアンが先生なのー」
「なら1日遊んでよーよー」
「ルアンおなかすいたよー」
子どもたちは当然ルアンが先生になって、
全く言うことを聞こうとしなかった。
「お前ら、俺に全くのリスペクトがないんだな。」
ルアンは自分の言うことを子どもたちが聞こうとしないことに、困り果てていた。
とりあえず、お絵描きをさせることにした。
みんなもくもくと描き出した。
「みんなじっくり時間かけて書けよー」
ルアンは授業がめんどくさかったので
時間たっぷりお絵描きの時間にした。
「これ、ステラ先生に描いたのー。先生にプレゼントしておいてー」
「私もそうするー」
子どもたちは自然とステラの似顔絵を描いていたのだ。
その光景にルアンは驚いていた。
(こいつらほんとにあいつのことが好きなんだな…)
「俺はルアンを描いたぞ!」
そう言ったのはジャックだった。
絵にはこの間の夜2人で見た月と星空とルアンが描かれていた。ルアンは自分の似顔絵を渡されて少し照れくさくなっていた。
「上手く書けてるな。ありがとよっ。」
そう言って受け取っていた。
(まだ昼過ぎかよ…)
ルアンは昼食を終え、
子どもたちと庭で鬼ごっこをしていた。
そして、子どもたちは短い時間の中でも喧嘩をしたり、泣いたり、その度にルアンのことを呼んできた。
まだ、掃除や夕飯作りなどやることはたくさん残っている。仕事が何も進まないことにルアンは苛立っていた。
(あいつはこれをいつもこなしているのか…)
やっと夕食と沐浴を覚まし、片付けを終え
ルアンの仕事が終わった。
とんでもない仕事の量で、ルアンは疲れ切っていた。
それでもルアンは食堂で何かを作っていた。
ルアンはミルク粥と水を持って屋根裏部屋まで登ってきた。
「おーい、入るぞー。生きてるかー?」
「あ、ありがとう。」
ドアを開けてルアンが入る。
「調子はどうだ?食事持ってきた。
あとこれ、子どもらがお前の絵描いてたから持ってきた。」
「すっかり良くなってきたわ。
ルアン本当にありがとね。
わぁ、美味しそう。絵も嬉しいわ。」
ステラは起き上がろうとしたが、病み上がりで辛そうだった。食べるにも手に力が入らなさそうだった。
「いいよ、そのままで。」
ルアンはそう言うと粥をステラの口に運んだ。
「じ、自分で食べれるよ。」
ステラは少し照れながらも、申し訳なさそうに
ルアンに言った。
「いいって…」
「……美味しい、ありがとね。」
そう言って、ステラは突然泣き出した。
ルアンは急に泣き出したステラを見て、焦っていた。
「な、なんだよ?本当はまずかったか?」
「ううん、違う。私、怖かったの。
私が倒れてそのまま起き上がれなかったら、
子どもたちがどうなっちゃうのかなって…
ルアンのおかげで本当に助かった。ありがとう。」
「お前、まず自分の心配しろって…」
ルアンは呆れたように言った。
「俺にも兄さんがいたんだ…」
「いたんだ…ってどういうこと?」
「昔、お前みたいに自分を犠牲にして、
人間たちの世界を救ったんだけど…
ほんとに馬鹿だと思ったよ。
まずは自分の心配をしろってね…」
「…そうだね、私が助かったのも
ルアンのおかげだもんね。…本当にありがとう。」
ルアンはステラを見てさらに続けた。
「俺は兄さんを助けられなかったんだ。」
「そっか…お兄さんにも、お兄さんなりに
守りたいものがあったんだね…
ルアンはルアンの力で私を助けてくれたでしょ?」
「俺は何もしていないよ…」
そして、ステラは子供たちがプレゼントした絵
を見て続けていった。
「これ、みんなの絵って上手かったり、下手だったりするでしょ?
でも、その中にもエルの絵は色使いが上手だったり、
クララは線の使い方が綺麗だったり、
ジャックなんてあなたの顔そっくりだわ。
よく観察してるのね。」
「?」
「人によって得意なこととか苦手なことって
違うじゃない。でもそれぞれの良いところが
見つけられるようになるとね、全部が愛おしく思えてくるの。」
「それは凄いな。」
「分かってないでしょ?
私はこの世界もそうだと思ってて、
大きなことはできなくても、それぞれ自分の得意な事で
支え合っていけたら、みんながヒーローになれるって。そう思うようになってから、
この孤児院の子たちの未来がより報われるように、
私は私ができることで、みんなを支えるのが使命だなって。」
「本当にそんなことができたら無敵だな」
「ルアン、あなたはあなたの力で私や子どもたちを救ってくれてる。ありがとう。」
そう言ってステラは窓の外の月を眺めていた。
ルアンはその時ステラの顔を見ているのに、
兄の顔を重ねて見ているような気持ちになった。




