第7話 ステラの大事なもの
「ジャック、随分安定してきたみたい。」
ジャックはあの日の夜から随分と心を
開くようになっていた。
「一体どうやって元気づけたの?」
ステラが何かイカサマを使ったのではないかと、
ルアンに問いかけた。
「別に…俺のことが魅力的で尊敬してるだけだ…」
「へぇ、さすが月の王子様ね」
ステラはルアンのことを煽てるのが上手くなっていた。
今日は子どもたちに文字を教えていた。
文字を教えることは通常孤児院では義務ではない。
貴族たちの間では、孤児に識字などいらないと
思っている者もいる。
しかし、この孤児院は先代の祖母の希望で、
文字を教えている。
識字することで、孤児たちが少しでも
より良い未来が切り開けるようにと、
積極的に指導をしていた。
「では、今日も始めます。」
ステラが授業を始めた。
「〜は〜で〜の時に使います。」
その時ステラは、1人だけ机に寝そべっている
クララを見つけた。
「こら!クララ!授業中に寝てはいけませんよ。」
ステラは叱ったが一向に起きようとしなかった。
変に思ったステラは、クララの元を駆け寄った。
なんと彼女は汗だくになって、意識を無くしていた。
「クララ…!?」
ステラは深刻な表情を浮かべ、その日の授業を中止してクララの看病に入った。
個室のベッドで寝かせ、タオルで汗を拭いてあげた。
「大丈夫だからね。」
そう言い聞かせた。
しかし数日が経ったが、
一向にクララは良くなろうとしなかった。
町医者にも診てもらったが、
どうやら近頃流行り病とのことだった。
しかしながら、ほっておくと悪化する
怖い病気のようだった。
クララは食欲もなくし、どんどん弱ってきていた。
特効薬はあるようだが、
希少な薬草を使っているため、
値段がとんでもなく高く買えなかった。
それでも、一向に弱っていく姿のクララを見て
ステラは諦めきれなかった。
ステラは看病のために、ほとんど寝ずにクララに付き添っていた。
その日ステラはローゼン伯爵邸に来ていた。
ここはステラが孤児院に暮らす前もしばらく 住んでいた場所である。
ここには今、ステラのものは何ひとつ
置かれていない。
ステラは伯父の執務室に直行した。
「伯父様」
「何だ?突然。」
「お願いがあります。
孤児院の子どもの一人が流行り病にかかり、
日々弱っているのです。
どうしても特効薬を買わせて欲しいのです。」
ステラは率直に言った。
「ふむ…言いたいことは分かる。だが出来ないな。
孤児院の予算は決まっておる。
1人のために皆んなのお金を持ち出すことなどできん。
ただでさえ赤字のようなものだ。
子どもの流行り病だろ、
隔離してもうしばらく放っておけば治るさ。
さぁ、帰りなさい。」
「伯父様…クララの病状は一刻を争っています。
見捨てるのですか?」
「ステラ…お前は最近、少し任せたからと言って
調子に乗っているんじゃないか?
これ以上口ごたえするなら、本当に孤児院からお前をはずすからな…」
冷酷に言い放ってきた伯父に、
ステラはこれ以上歯向かうことは無駄だと諦めた。
(なんで分かってもらえない…伯父様はお父様がいる時はあんなに冷たい人ではなかったはずなのに…)
そう、伯父は昔はもう少し優しかった覚えがある。
かつては、時々孤児院にきては、
子どもたちに菓子を配ったり、
本を読み聞かせたりするような人だった。
ステラの両親が事故で亡くなってからは明らかに
性格が変わったように思える。
しかし、ステラは弟である父を亡くし、
きっと彼も、自分と同じくらいの悲しみを
背負っているのだろうと伯父のことを恨み切ることは出来なかった。
ステラは孤児院にもどり、自分の屋根裏部屋へ
まっすぐ向かった。
そして自分のクローゼットから、
ドレスやアクセサリーを引っ張り出していた。
これは両親がステラに遺していたお金で買った、
社交用のドレスたちである。
それを見ていたルアンが声をかけた。
「どうしたんだ?」
「ルアン!ちょうどよかった。
ちょっと運ぶの手伝ってくれる?」
「?いいけど?」
ステラはルアンにも一緒に運んでもらい、
買取屋にたどり着いた。
「これ全部買ってください。」
そう言ったステラをルアンが引き留めた。
「おい、全部売っていいのか?
これ、お前の大事なものなんじゃないのか?」
「いいのよ!これでクララの薬が買えるでしょ? それに今の生活じゃ全然着る事ないし、
私にとって大事なものはこんなドレスじゃなくて、
あの孤児院の子どもたちなのよ。」
ステラは少し笑いながら返事をした。
ルアンはステラのことが理解できなかった。
(何故人のためにそこまで出来るのか…
こいつは自分を犠牲にし過ぎている)
その帰り道で薬を買い、クララにすぐに飲ませた。
「クララ、もう大丈夫よ。これを飲めばちゃんと回復していくからね。」
「先生…ありがとう」
ルアンは2人を遠くから見ていた。
兄を亡くして以来、何一つ動かなかった胸が痛んだ。
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そして数日経ち、みるみるうちに
クララは元気を取り戻した。
「先生もう元気になったよ〜」
「本当に良かったわ。」
ステラはそう安堵した瞬間、
目の前が真っ暗になっていた。
「おい!大丈夫か?」
ルアンが受け止めていた。




