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第6話 秘密の場所

ルアンが来てからしばらく時が経った。

ルアンは嫌々ながらに、孤児院の仕事を自然とこなすようになっていた。


最初は仕事をサボってばかりいたルアンだったが、

子どもたちに見つかってはステラに叱られ、

今では自然と孤児院の仕事をこなすようになっていた。顔も良く身軽な彼は、子どもたちからの人気も高い。

鬼ごっこからままごとまで、

なんでも付き合わされていた。

口先はやりたくないといつも言っているが、

結局付き合っている様子を見ると、

案外楽しくなっていたのであろう。

「ずいぶんと上手くなったわね、とっても美味しいわ。」

ルアンの出来上がった昼ごはんを味見して

ステラは驚いた。

「俺が作ったんだからあたりまえだろ」

その顔はドヤ顔で少し憎たらしかった。

(案外単純なのよね。最初は尖ってたけど、

元気になってきてよかった。)

その時、エミリア先生が慌てた様子でステラたちを

呼びにきた。

「ステラお嬢様!!また新たに修道院から子どもが送られてきました。随分と弱っている様子です。」

「今すぐ行くわ…」

ステラとルアンは慌てて少年が保護された場所まで駆けつけた。

服もボロボロによろけており、顔は煤で黒く汚れていた。

怪我もたくさんしている。

「あなた、大丈夫。ちょっと怪我見せてね。」

「触るなよっ…」

「どうやらこのあいだの西の国境付近での戦争孤児のようです」

「こんなところまで逃げてきたのね」

どうやら家族を亡くし、1人でこんな遠くの街まで逃げてきたようだ。

「怖かったわね…もう大丈夫だからね」

ステラは優しく声をかけたが、酷く警戒している。

「ルアン、この子の着替えと何か飲み物を頼むわ」

「あぁ」

ルアンは少年を治療室に連れていき、手当てをした。

「お前、大変だったんだな」

「…」

「おい、返事くらいしろよ」

「…どうせお前らも俺を売り払うつもりなんだろ」

「なんでそうなるんだ?ここはお前を安全に保護してくれる場所だ。安心しろ。」

ルアンは少年を部屋まで送り届け、ステラに様子を報告しにいった。

「あれは随分やられているな…」

「心も身体も奥まで酷く傷つけられているのよ。

きっと時間はかかるけど、ここが安心できる場所ってわかってもらえるといいな…」

ステラは心配そうに言っていた。


少年が来てから数日が経った。

名はジャックという。

遠い街の戦争で両親を亡くしたようだ。

食事も最低限にしか摂ろうとしない。

なかなか心を開かず、ステラや他の子どもたちが

声をかけてもなかなか馴染めなかった。

ステラは大層少年のことが心配だった。


ある日の夜のこと。

ジャックを楽しませようとステラが提案した。

「今日は寝る前にお話をしましょう。

では、本日はルアンがお願いします。」

「なんで俺なんだよ…」

ルアンは突然の振りに嫌そうであったが、

しばらく考えたあと、話し始めた。

「むかーしむかし、

月の国には最強の光を持つ王子様がいました。

彼はみんなから愛されていて、世界の人々を闇から守っていました。ある日、平和だった世界に悪魔が現れました。悪魔は人々を不幸へと導こうとします。

そんな時に王子が現れ、自らの光を使って悪魔を倒しました。そして王子は本当の月となり、今も遠くでみんなを見守っているのです。__」

ルアンは棒読みで話した。


「これってルアンの話?」

「俺はそんなことはしないね」

「うわぁ、昔の月の王子様かっこいいねぇ」

子どもたちはこの話を嬉しそうに聞いていた。

「でもさ、その王子、本当に月になっちゃったらもう会えないじゃん。」

ジャックが突然ぶっきらぼうに話したのである。

ルアンは一瞬言葉を失った。

部屋が静かになった。

ルアンは答えられなかった。

その時、ステラがふっと微笑む。

「でもね、昔私のおばあちゃんが言ってたの。

お月様はいつも見守ってくれているんだって。

空を上げれば、ちゃんと近くにいるのよって」


「……そんなわけないだろ、馬鹿らしいっ」

ジャックはそう言い放ち自分の部屋へ帰って行った。

「ジャックを怒らせちゃった…」

ステラはしょんぼりしていた。

その時の様子ルアンは目で追っていた。


みんなが寝静まったあと、ルアンはジャックの部屋の前に来ていた。

シクシクと泣いている声が聞こえたからである。

「おい、今いいか?」

返事はない。

「おれも昔よく部屋に閉じこもってたんだ…」

ジャックはそれでも返事をしなかった。

ルアンはジャックの部屋のドアを蹴り開けた。

「ちょっと来い」

「え、なんだよ、勝手に入ってくんなよ、やめろよ…!」

ルアンはジャックが嫌がるのを無視して、無理やり抱えて外へ飛び出した。

そして、孤児院の屋根にひょいっ、と飛び乗った。

その身軽さにジャックは「すげぇ…」と目を丸くしていた。

見上げると半月と星空が広がっていた。

「綺麗」

そう言ったジャックを見て、

ルアンは穏やかに話し出した。

「俺にも兄さんがいて、閉じこもってる時に無理やり連れ出されて、こうやって空を見てたんだよ。」

ジャックはしばらく黙ったあと、口を開いた。

「お父さんもお母さんも、

僕を置いて死んでしまったんだ。

なんで俺だけがこんな目に合わなきゃいけないんだ…

お兄ちゃんは家族がいるならいいじゃないか!」

「さっきの月の王子、あれ兄さんの話なんだ。

もう本当の月くらい遠くにいっちゃってて、これから先も、ずっといないと思ってた。でもさっきステラが言ったように、あの月みたいに、もしかしたらどこかで見てくれてる

かもしれないって思ったんだ。

俺もまだ信じれないんだけど。

試しに登ってみたくなったのさ。」

「お兄ちゃんも、お兄さんに会いたい?」

「あぁ、会いたいよ。でもここにきて、

こんないい景色見れたからラッキーだったな。

ここはお前と俺の秘密の場所だ!誰にも言うんじゃねーぞ。」

そう言ってルアンはイタズラに微笑んだ。

それを見てジャックも初めて微笑んだ。

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