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第4話 月の国の王子ルアン

かつて月と人間の世界は繋がっていたという。

月の住民は自由に地上を行き来でき、

夜を守る存在として地上と強く結びついていた。


しかし、数100年前に人を惑わす悪魔が現れてから、

その道は月蝕の夜にしか開かれなくなった。

いつしか月の国のことなど人々は忘れてしまった。

ルアンは、その"月の国"に生きる第二王子だった。

彼には誰よりも慕っている兄がいた。

兄は“月の国最強”と称される存在だった。

彼は月の光が見えない日でも、

自ら光を放つことができたのである。

しかし彼は70年前に悪魔との死闘を繰り広げ、

自らの命を犠牲に世界を救った。

世界は絶対的光を失った代わりに、

栄光なる平和を手に入れたのである。

しかしながら、そんな犠牲があったことなど、

地上の人間は知らない。

地上の王族と、月の国もののみぞしる話…


「なんで人間なんかのために、

兄様を失わなければならなかったんだ…

どうせあいつらなんか放っておいても

数十年で死ぬのに…」


大切に思っていた兄を失って以来、

ルアンは心を閉ざしてしまった。

月の王族は人間を守る使命がある。

なぜなら人間の清き心が光の原動力であるから。

しかし、兄を失って以来、ルアンにはそれが

無意味なものにしか思えなかった。



ステラと出会う前、月の国の庭園で

彼は紫の瞳を光らせながら地上を見下ろしていた。

この瞳の色は月の国の王族の証。

亡くなった兄様も同じ色をしていた。

その日は月蝕でちょうど地上と月が重なる日であった。地上と月が1番近くなる日。

「人間のために自らが犠牲になるなんて、馬鹿げている…自分1人じゃ生きられない弱い人間を、

なぜ月が守らなければならない…腹が立つ」

そう思いながら、月が地球の影に隠れる瞬間、

憎悪の感情がルアンを満たした。


その時、ものすごい勢いで風が吹きつけてきた。

「な、なんだ!?」

ルアンは飛ばされないようにかがみ込み、

必死に堪えようとした。

しかし、月蝕によって月の光が隠れてしまった

タイミングであった。

ルアンの力は未熟で

月の光がないと人間と同じように  

無力となってしまう。


無力になったまま、地上に向かって急降下している。

これでは光の力で浮遊することもできない。

このままでは落ちる——。


その瞬間、

地上の片隅でとある光がルアンを包み込んで、 

なんともギリギリで強い衝撃を受けずに、

地上に着陸することができた。

しかしながら、あまりの勢いで急降下したので

手足と顔が傷だらけになってしまった。

気がつくと孤児院の前にいて、人間に囲まれていた。

慌ててマントで身を隠し、その場を離れた。

「…痛い、最悪だ。俺としたことが、

地上に落ちるなんて…」

その時ルアンはハッとして月を見上げたが

すでに月蝕は終わっていた。

「最悪だ、もう戻れないのか…」

月蝕が終わってしまったので、

月と地上との道は閉ざされてしまった。

ルアンは必死に掌を月にかざしたが無意味であった。

「力が、なくなっている……」

何故だか月の力が全て消滅してしまっていたのだ。


_それが彼が地上へ落ちてきた成り行きだった



______


ステラの朝は早い。

まだ夜が明ける前に目を覚まし、

食事の準備、掃除、洗濯をすまして、

子どもたちに読み書きを教えたり、

本を読んだりが彼女の仕事。

ステラの他にエルミアという女の世話係がいるが、

2人だけではとても追いつかなかった。

その日々は目まぐるしく、朝から晩まで働き、

子どもたちのために日々を尽くしていた。


朝食の準備をしていると、ルアンが小屋から出てきた。

「あ、おはようっ」

ルアンを見つけると、ステラは元気に微笑んだ。

「おう、おはよ」

と、ルアンが返事をした瞬間、

微笑んでいたステラの顔が鬼になった。

「あの、今何時だと思ってるの?」

今は午前9時。子どもたちもとっくに起き始め、

洗濯などそれぞれ朝の仕事をこなしていた。

「何時なんだ?そろそろ朝食できた頃かなって、

あ、あと洗濯ってどこに置いといたらいいんだ?」

「あの、ここを宮殿か何かと勘違いしてますか?

朝食はとっくに終わってます。

あなたは家なしの居候なんです。

まさか、タダで寝泊まりしようって

つもりじゃなかったですよね?」

「え…、いや、なんかしばらく世話してくれるって

感じかと思ったんだけど。

でも俺、掃除とか洗濯とかやったことないし…

王子だし、うん、できんな。」

「どこの国の王子だか分からないけど、

やったことないで逃れられると思ってんの?」

その瞬間ルアンは三角巾とエプロンを着せられ

すっかり食堂のおばちゃん姿になっていた。

「やったことないじゃなくて、やればできるのよ!

やろうとしないからできなのよっ!」

その時のステラは本当にこわかった。

「ご、ごめんなさい。」


ルアンは慣れない手つきでじゃがいもの皮を

生まれて初めて剥いていた。

案の定何度も怪我をした。何度も泣いた。

「というわけで、今日からルアンは行く宛がないので、

ここでしばらく働いてもらうことになりました。

掃除、洗濯、調理、買い物、

などなどなんでもやってもらうので

皆んな仲良くしてね。」

「はーい」

子どもたちがルアンに群がり、よじ登ったり髪を引っ張ったりしだした。

「俺は子どもも家事とかもあんまり好きじゃないんだよ…」

ステラはその言葉を聞いてすかさず返事をした。

「王子だろうとなんだろうと、働かざる者食うべからずよ。」 

ルアンはステラについてきたことを後悔した。

しかし、また野宿生活を繰り返すのも

王子としてのプライドが許さなかった。


ルアンは慣れない手つきで玉ねぎを切り、目は涙で溢れていた。

——

一刻も早く、ここから帰る方法を探さなければ

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