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第21話 伯父とおとぎ話

2人はローゼン伯爵邸に着いた。


「伯父様、聞いてくれるかしら。」


「まぁ、自分の家紋から国家プロジェクトに参加できるっていうんだから、そんなに悪い話じゃないだろ。」


「月の国なんて信じるかしら…」


「信じなかったらなんとか操ればいいさ。」


「操るって、いつか絶対バレるわよ……」


ステラは伯父の執務室に入った。


「伯父様、失礼致します。」


「どうした、また厄介ごとか…?」


続けてルアンが部屋に入った。


「失礼致します。」


「お前はこの間の手伝いの者だな…何のようだ?」


そう言って顔を上げたルアンの紫色の瞳と目が合った。


-その瞬間-


伯父は氷が溶けたかのようにふっと表情を緩めた。


なぜか胸の奥の重苦しさが、少しだけ和らいだ。


伯父は自分でも理由が分からなかった。


「……?」


こんな感覚は何年ぶりだろうか。


自分でも不思議に思っていた。


ステラは突然伯父の雰囲気が緩くなったのを感じ取った。

(どうしたんだろ…?)


なぜかいつもより威圧感がなく、話しやすくなっていた。


「実は先日参加した王宮の勉強会で、私の意見が採用されまして、孤児院の隣の空き屋敷を図書館にするという話が進みました。」


「ほう、あの場所に図書館だと?」


「しかしながら、貯蔵する本が不足しているのです。」


「確かに、寄付だけでは厳しいだろうな…」


「それで、唐突で申し訳ないのですが、

伯父様は月の国の存在をご存知ですか?」


「月の国………?」


叔父は何かを考えるように固まっていた。


そして、口を開いた。


「母様が子どもの頃、寝る前に話していたな…」


「おばあちゃんが…?」


「単なるおとぎ話だが、どうも信じていた自分がいてな。」


(マルク、ここには月の国から来た友人がいたのよ…)


伯父は自分が幼い頃に、母が言っていた言葉を思い出していた。


「それで、ルアンは実は月の国の王子だったんですが…」


ステラは続けて説明しようとしたが、

ルアンがそれを遮り、伯爵に頭を下げて代わりに話し出した。


「伯爵様。ステラお嬢様がお話しした通り、

私は月の国からやって来た王子でございます。

どういうわけか地上に落ち、力をなくした私が

行き場もなく彷徨っていたところを、

ステラお嬢様に助けていただきました。

今まで嘘をついていたことをどうかお許しください。」


伯父はその話を聞いてもあまり驚いていなかった。


「まさか、本当にあったとはな…」


「このご恩には深く感謝しております。

それで、図書館の本が足りないというお話しですが…

月の国には多くの書物がございます。

ぜひ、我が国から寄贈させて欲しいのです。」


「ほう、それはいい話だな…」


「図書館に相応しい本を選ぶためにも、

ぜひステラお嬢様のお力をお借りしたいのです。

どうか、しばらく月の国へお連れすることを

お許しいただけませんでしょうか。」


伯父は少しの沈黙のあとに口を開いた。


「いいだろう。行って来なさい。

孤児院は私とマリーも時々顔を出すことにしよう。

王室からの手伝いもあるなら助かるな。」


「本当ですか…?ありがとうございます。」


ステラは伯父が孤児院にも顔を出すと言い出したことにも驚いていた。


ここしばらくはよっぽどのようがないと来ることはなかったというのに。


「国のためになるなら、我が家紋にもいい影響となるだろう。」


ルアンも伯父がいつにもまして穏やかな雰囲気なのに

違和感を抱いていた。


(今日のじじぃ、俺が知っている雰囲気とは違うな…

前はもっと黒いオーラを感じていたんだが…

まるで悪魔のような…

いや、兄様が倒したんだから、悪魔なんているわけないだろ…ただ機嫌がいいだけか…)


そして、伯父がテルスが書いた支援計画書を見た時に

机からペラッと何かを落とした。


ステラがそれを拾った。


「これって」


ステラの夢に出てくる花が使われたしおりだった。


「ん?あぁ、昔、母様にもらったんだ。

ムスカリと言って昔は近くの湖一帯に咲いていたらしい。」


「そうなのですね…」


ステラは自分の夢に出てくる花としおりの花が

似ていることに驚いたが、単なる偶然だろうと

言い聞かせた。


ルアンはそのしおりを見て紫の瞳が、ほんの僅かに見開かれていた。


「……」


何かを言いかけたが、ルアンは静かに口を閉じた。


2人はローゼン伯爵邸から出ようとすると、

マリーと顔を合わせた。

その表情はひきつっていた。


「あら、さっそく聞いたわよ。

仕事をほったらかして2人で旅行に行くんですって?」


「旅行だなんて…本を集めに行くだけよ。」


「それのどこが仕事なのよ?何で代わりに私が孤児院に顔を出さないといけないわけ?腹立つわ…」


そう吐き捨ててマリーは部屋へ戻って行った。


「あいつも連れて行って、天の川の端っこにでも置いてこようか?」


「そんな、やめてよ。マリーも急に押し付けられて嫌に決まってるわ…」


「お前は本当にお人好しだな…」


「今日の伯父様…優しかった……

お父さんとお母さんが亡くなる前はあんな感じだったんだけど…その時に戻ったみたいだった。」


「なんか別人だったよな?」


「そういう日もあるんだね。分からないわ。」


「まぁ、でも無事決まってよかったな。」


「えぇ、ルアンのおかげよ。ありがとう。」


ルアンはステラに褒められて嬉しそうな顔をしていた。


「よし、出発は5日後の満月の夜だ!」


2人は顔を見合わせ、まるで秘密を共有する子どものように微笑んだ。


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